024 ニコさんとモグ爺さん
四人はモグ爺さんの家に付きました。
すると、手伝ってくれた村人の一人が家の木戸をドンドン、モグ爺さんを呼びました。
「おーい、モグ爺さん。猪捌くの手伝ってくれんかー」
すると、家の中でドタドタ音がしたかと思うと扉がバァン!と開きました。
家の中から出てきたのは、背の低いずんぐりむっくりとしたヒゲモジャのお爺さんでした。
伸ばし放題の白髪に白くなった眉、それからやっぱり白い髭を口の回りにたっぷりと蓄え顔が全然わかりません。
もっさもさです。
左手には何やら、ナイフにしては少し大ぶりの刃物を握っていました。
それを見た小心者のニコさんは若干ビクッとなりました。
お爺さんが持っているのは銀色に輝く刀身に、波のような美しい刃文があるナイフです。
ちょっと違いますが、牛刀と柳葉包丁を合わせたような感じで、お肉とかよく切れそうな感じがします。
「おお、モグ爺さん。どうだい?デカいだろ?こないだ試し切りしたいって言ってたろ?手伝ってくれんか?」
「おうおう、デカい猪じゃ!!丁度いい!!任しとけ!」
そう言うとモグ爺さんはまず村人たちと皮をグイグイバリバリ剥いで行くと、よし来たとばかりに持っていた刃物でスルスルスイスイ猪を捌きました。
「よーし!よーしよーし!よーしよしよーし!」
それはもう鮮やかな手並みで、刃物の切れ味もあってか大きかった魔緒の体はあっと言う間に部位ごとにバラになりました。
「フム、まぁまぁよの。おい、こいつを持ってきたのは誰じゃ?」
ニコさんは脊髄反射的にアルガスさんを指さしました。
村人達もアルガスさんを指したので、モグ爺さんはそのモッサリとした眉毛の下からジロリとアルガスさんを見ると言いました。
「お前さん、コヤツの牙。持っとるかい?持っとるだろ?っちゅうかさっさと出せ。その腰の黒い奴じゃろ?はよ渡さんかいぃ!」
グイグイ詰め寄るモグ爺さんに、アルガスさんは言われるがまま持っていた牙を一本渡しました。
するとモグ爺さん、何の躊躇いもなくその牙に持っていたナイフをスルリと突き刺し、そのまま引き裂きました。
呆気に取られるアルガスさん。
「な!?すげぇ切れ味だなってか、それ売値下がるじゃねぇか!!」
「だぁまらっしゃい!!こっちは儂が買い取るわ!」
普通魔猪の牙にナイフを突き刺すのにスルリという擬音は使えないですからね。
その切れ味はかなりのモノという事でしょう。
モグ爺さんはその刃を検め、「ふぅむ」と一息吐きました。
「満足じゃ」
どうやら満足したらしいですね。
お爺さんはナイフに付いた油や血を丁寧に拭うと黒くゴツゴツした鞘に納めるとニコさんの方を向きました。
「まぁ、それはええとして。そこの変な服着たカワイ子ちゃん」
「私?!可愛い!?って変じゃないわよ!!」
お爺さんの可愛いという言葉に反応して顔が赤くなったり、変って言葉に憤慨したりニコさんは忙しそうです。
気持ちの波が激しいのは若い証拠でしょうか。
「ええのぉええのぉ。ええ反応じゃぁ、もうこの村にゃあ「ハイハイ、何ですか?」とか普通の返しよる女子しかおりゃせん。その初々しいリアクション、グーじゃ!愛いのぉ、愛いのぉ」
モグ爺さんはサムズアップしてウネウネしました。
流石のニコさんもこの変なノリには若干引き気味です。
ジェネレーションギャップでしょうか。
それとも種族間のギャップでしょうか。
何とも言えませんね。
「んで、お嬢ちゃんよ。お主カワエエから、この八裂丸やるわ」
「え!?ありがとう!動きはちょっと気持ち悪かったけど、お爺さん優しいのね!」
ナチュラルに気持ち悪かったとか言われたお爺さんですが、全く気にしてないようです。
お爺さんは八裂丸を渡すときにしれっとニコさんの手をペタペタ触ってました。
「ひょほー」とか言っています。
ニコさんは八裂丸を受け取ると、とりあえず腰の帯に差しておきました。
「まぁ儂、造るのが好きなだけじゃし?じゃがまぁ、もしお主にその気があるならその変な服を一着譲ってくれんかの。そろそろ孫の誕生日じゃから、何かプレゼントをと思っとったんじゃ」
「そうね、ただで貰うのもアレだし。って変じゃないわよ!」
ニコさんはモグ爺さんの希望を叶えることにしました。
着物はどうせ魔法で作れますし、孫に可愛い服を着せてあげようというモグ爺さんをとても微笑ましく思ったのです。
およそ元蝙蝠の思考回路ではないですね。
謎の取引が成立すると、モグ爺さんは「ちょっと待っとれ」と一度家に引っ込みました。
モグ爺さんを待つ間、四人は魔猪の肉と魔石の分配をすることにしました。
勿論魔石はニコさんが貰いましたが、肉はお手伝いのお礼としてそのほとんどを村に寄与しようとしました。
生モノで量も多いことから二人では食べきれませんし、その方が良いと思ったのです。
そうすると、村人の一人が保存の利くように加工くれると申し出てくれました。
それならば今日はうちに泊まると良い。ともう一人の村人が言いました。
ここの村人たちはとても大らかで人が良いみたいですね。
ニコさんは嬉しいことがいっぱいでニマニマが止まりません。
アルガスさんも村人に感謝を捧げます。
村人二人は捌いた肉を運ぶため、他の村人を集めに行きました。
随分な量だし、解体されてしまっているため流石に二人では持てなかったのです。
ニコさんとアルガスさんは特に何を話すでもありませんでしたが、お互いどこか満足そうに煙草に火を着けては肺一杯に煙を吸い込むのです。
少しの酩酊感と、燻る煙を楽しみながら、ニコさんは改めて村を眺めました。
ここは小さな村で、家はそこまで多くなさそうです。
人口は30人程度でしょうか、モグ爺さんの家を合わせても目視できるのは7件程です。
テロスとは異なり木造の家ばかりで、その家の周りには畑が広がっています。
農業が主体の村なのでしょう。
そんな牧歌的な風景を楽しんでいるとモグ爺さんが家から出てきました。
手にはヒラヒラと封蝋をした封筒を持っていました。
「待たせたのぉ!孫はマクリアにおるんじゃが、この手紙を持っていけば会えるはずじゃ。ホレ、持ってけ!」
どうやらお孫さんはこの村に住んでいる訳ではなかったようですね。




