018 ニコさんと錬金?術
アルガスさんは頭を抱えていました。
それはもう盛大に頭を抱えていました。
「どうよ!」
勿論原因はソコの赤髪ドヤ顔吸血鬼です。
今彼らの目の前には大陸銀貨と、明らかに偽造と分かる銀貨が一枚ずつ並んでいました。
あの後、ニコさんは非常に良い笑顔でアルガスがお世話になっている宿屋に引っ張って行きました。
ニコさんに腕を取られて部屋へと連行されるその姿は、宿屋でもゴシップの種になったのですがそれはまた別の話です。
とにかく二人は部屋に戻り、ニコさんはそのままアルガスさんをベッドに投げ出し自らもベッドにダイブ!何て展開になるわけでもなく…。
ニコさんは銀貨を一枚取り出しアルガスさんに見せると、「私魔法使いなの!」と得意気に胸を反らせたのでした。
つまり、この偽銀貨はご想像通りニコさんが魔法で造ったものです。
「犯罪だ馬鹿が!しかも似てねぇ!!」
「えー!?!似てるわよ!!」
ニコさんが偽造した銀貨は真ん中に象られた人物がかなりデフォルメされていました。
もういっそ、子供用の玩具と言っても良いくらいで、渋い顔したおじさんがゆるキャラになってしまった感じです。
アルガスさんはため息一つ吐きました。
「しっかし魔法使いだぁ?何もないとこからって、一流の錬金術師でもこんな真似出来るなんて聞いたことないっての」
「うふふ、それはそうよ。魔法と魔術は違うのよ」
錬金術は魔術の一種です。
「声が高い!お前が普通じゃないのは十分わかったが…。こんな事バレてみろ、間違いなく面倒事がやってくるに決まってるぞ!?」
「あー、もう!」とアルガスさんは頭をガシガシ。
ニコさんはドヤ顔でしたがアルガスさんの様子を見ると、不満げにちょっと頬を膨らませました。
「とにかく、こんなもん見つかったら余計な疑いが掛かるに決まってる!証拠隠滅だ」
「へーい」
ニコさんと偽造した銀貨を鋳潰して銀の玉にすると、アルガスさんに放りました。
「折角良いアイデアだと思ったのにぃ」
ニコさんはぶーぶー言うと、椅子にどっかり腰掛けます。
昨日の夜とは真逆の位置関係です。
「あのな、金銭ってのは労働の対価、ありがとうの気持ちだ。世の中に回ってる金ってのは須らく感謝の気持ちで出来てるだよ、こんなズルはアレだ。良くない」
「随分ぶっ飛んだ理論ね!!なんだか良く分からないけど、その考え方には異議を唱えたいわ!」
「うるせぃ!」
「まぁ、その高尚な考え方がこの世界の共通認識なら、それは素晴らしいことじゃないの?それならこんなのはどうかしら?!」
ニコさんはお次とばかりにガバっと椅子から立ち上がると、一本の金色の簪を魔法のように取り出しました。
「なんだそりゃ」
「これはね、こうするのよ」
そう言うとニコさんはスルスル髪の毛をまとめて簪を刺しました。
チャラチャラと水晶の様に透き通った赤と黄の花飾りが揺れて、とても可愛らしいです簪。
「へぇ、初めて見る髪留めだな」
「うふふ、どう?可愛いでしょう?簪って言うのよ」
「ほー、綺麗だな。それも魔法で作ったのか?」
ニコさんはその場でクルリと一回転すると、アルガスさんにドヤ顔を向けました。
実にドヤ顔の多い元蝙蝠です。
「勿論。因みに純金製よ!!」
「通りで金ピカだと思ったわ!!」
アルガスさんは呆れ気味です。
ツッコミ疲れか若干息が荒いです。
「フフン」と得意気なニコさんは、髪を解くとフルフル頭を振り、簪をアルガスさんに付きつけます。
「どう?これを売るならいいでしょう?」
「やっぱり何か釈然としないが」
「何でよ。もしかして、苦労や時間に比例して報酬が向上すべき!なんて考え方してる訳じゃないわよね?そんなに単なる自己満足に過ぎないわよ?」
「そりゃ分かってるんだが…。ってお前変な所でちゃんと考えがあるんだな。ダンジョン育ちの癖に」
「アラ、確かにそうね、なんでかしら」
ニコさんは不思議そうにコックリ首を傾げます。
「まぁそれでも、ソレ売るのは最終手段にしとけ」
「何でよ!」
「まぁ何だ、折角似合ってたのに勿体ないだろ?」
「あら、キザなこと言うのね!」
二人はなんだか可笑しくなって、同時に笑いました。
ニコさんの頬が少し赤いのは、やはり乙女心というヤツでしょうか。
一しきり笑うとアルガスさんは窓を開けてシガレットに火を着けて、ニコさんは何でもないように再び髪を纏めたのでした。
翌日、ニコさんとアルガスさんは大陸互助組合テロス支部を訪れていました。
あの後も色々二人で話をしましたが、結局堅実にお金を稼ぐ事にしたのです。
しかし、建物の中は何やらざわついており、少し様子がおかしいのでした。
少し気にはなりましたが、別に厄介ごとに首を突っ込む気はありません。
とりあえず、二人は今日の仕事を決めてしまおうと掲示板を眺めることにしたのです。
すると何やら近くにいた三人組が話しかけてきました。
「やぁ、先日の珍しい服の君じゃないか」
それはニコさんがダンジョンを出て最初に出会った三人組でした。
アルガスさんは、「何だ?知り合いか?」と肘でニコさんをちょんちょんします。
肘チョンです。
因みに話しかけてきたのはやっぱり鎧の男。
相変わらず鎧がガシャガシャ言ってます。
「あら、先日はどうも。お目当ての人間は見つかったのかしら?」
「いや、10層まで行ったけど、全く見つからなかったよ」
「10層?」
ニコさんはコックリ首を傾げます。
ですが、アルガスさんとの会話を思い出し、そういう事かと納得します。
あの時ニコさんは、地上から直ぐにアビスに繋がっていると思っていたのです。
ニコさんが最後にあの人間たちを見たのはアビスの6層で、太古の迷宮の6層ではありません。
「ああ、成程ね。だったらきっともっと先に行ったのかしら?」
ニコさんが彼らを見かけたのは太古の迷宮ではなくアビスだったのですから、恐らくずっと先でしょう。
「そうかもしれないね、ただ僕らだけだとあれ以上進むにはもう少し準備していかないとダメそうだったから、また日を改めることにしたんだ。一朝一夕で捕らえられるとも思ってないし、手配書がここまで回ってる限り、もうあの迷宮から誰にも見つからずに出るのも難しいだろうからね」
そうは言いつつも少し残念そうな鎧の男です。
「それよりも、今この辺りに吸血鬼が潜伏している可能性があるらしい。太古の迷宮付近で吸血鬼を探しているって男が見つかってね、今朝組合で事情聴取を行っているみたいなんだ」
「ヘェ、ソウナノ」
「吸血鬼と言えば魔族だし、この辺りではほとんど見かけない種族だからね。今年は魔王が復活するって言われてる年だから組合としても確認しておきたいんだろう。もしかしたら捜索隊でも組まれるかもしれないね」
ニコさんには探されるような心当たりがありません。
しかし、捜索隊が組まれるとなると、今は当事者でなくとも当事者に昇格する可能性があります。
何故ならニコさんも吸血鬼だから。
「捜索隊ね。その吸血鬼、見つかったらどうなるのかしら?というか、吸血鬼なんて人間とどう見分けるのかしら?」
あくまでも表面上は平静を保ちつつ、ニコさんは鎧の男に尋ねました。
「んー、まぁ身元がはっきりしていれば問題ないだろうけど、それ以外の場合は首輪が付けられるかも?」
「吸血鬼は確かに人間と見分けが付きにくいから厄介だけど、牙だけは隠せない」
鎧の男に加え、ローブの男が答えました。
「首輪?え?牙だけ?」
「うん、重犯罪者とか指定観察魔族に付ける首輪。管理者の意志次第でいつでもボンッ!出来る奴」
コレには軽装の女が明るく答えました。
ニコさんは「ボンッ!?」とアルガスさんの服の裾をギュッとしました。
人間は何と恐ろしいことを考えるのかとニコさんはビビリまくりです。
アルガスさんはニコさんを安心させるようにポンと頭に手を置くと、「成程な」と呟きました。
もうすっかり保護者みたいな感じですね。
「そうか、だから朝っぱらからこんなに騒がしかったんだな。教えてくれてありがとうな。んじゃ、俺らはそろそろ時間も惜しいから行くわ」
「ああ、引き留めてすまない!」
アルガスさんは適当な依頼書を一枚掲示板から剥がすと、ニコさんに「外で待っててくれ」と、受注カウンターに一人向かうのでした。




