017 ニコさんと神々の物語
神々の物語。
それは、ニコさん達が住まう世界に伝わる神々のお話です。
ニコさんの目的を考えれば、このお話を知っておいて損はない。
そう思ったアルガスさんは、ニコさんにこの物語の本を渡しました。
「この世界はな、三柱の神が作ったと言われてるんだ」
昨日夜更かししてまった二人は、さっき起きたばかりです。
今はとりあえず街をブラブラ歩いています。
街はとっくに起きているので、人々の営みで街は活気に満ちています。
「創世神アルビス、星の神デネロス、天の神フラウルの三柱だな。確か原書はかなり古いもんだって話だけど、今から300年前、突如魔物やら魔族、果ては魔王なんてモンが現れてな」
「魔王!?」
テロスの街並みは煉瓦造りの街並みで、どこか暖かい印象を受けます。
ここは太古の迷宮に近いこともあって、最果てという割には人も多くかなりの賑わいがあります。
迷宮には魔物がいますから、ニコさんが食べていた魔石も採れますし、その他にも鉱物や迷宮にしか生えない薬草や生き物もいます。
それを目当てに探索者と呼ばれる人種が集まり、探索者から提供される資源を研究する研究者が集まり、その資源や研究結果を取引する商人が集まりと、基本的に迷宮が存在する場所には人が集まるのです。
そうして作られた街は迷宮街と呼ばれたりします。
「んで、人類と魔族の大規模な戦争があったのさ。その時に、神アルビオの加護を得たエマって女性が勇者として祭り上げられた。ここで良いよな?」
「勇者!?」
ニコさんとアルガスさんは適当な定食屋に入ると、適当なテーブル席に腰を下ろしました。
中途半端な時間なので、客は疎らです。
アルガスさんが勝手に日替わり定食を二つ頼むと、メニューを眺めていたニコさんがぶーたれました。
「悪いな、もう金がほとんどないんだ。嬢ちゃんお前さん、金持ってのかい?」
アルガスさんがカラカラ笑うと、ニコさんもそっぽ向いて口を噤みました。
ヒトが生活するにはお金が必要です、これからはお金のことも考えないといけません。
「んで、戦争が終結すると、その戦争の話も物語に追記されたのさ。神々が関わっちまったからな。しかもそのエマってのが、ホントか嘘か神デネロス、フラウルの人間としての姿、深淵王ネロと天海王フラウの子供って説があってな」
「もう、物凄いRPG感がヤバイわね」
「そのRPG感ってのは分からんけど。その当時丁度、人類間の戦争もかなり激化しててな。そんな人類をまとめるに祭り上げられたもんだから、勇者は当時かなり神聖視されたわけだ。しかもキッチリ魔王も討伐してるから、文句の付けようがないな」
「ふーん」
話しているうちに日替わり定食が来ましたね。
美味しそうなパンと具がたっぷり入った赤いシチューに、先程はぶーたれたニコさんも目を輝かせて「いただきます!」と匙を取りました。
アルガスさんも食事前の略式の祈りを済ますと、パンをシチューに浸しました。
「勇者エマは戦争終結後、人間主体の国であるイリシオの第二王子と結婚してな。その時の話がまた冒険譚になってるんだが。その王子はこれがまた奔放な奴だったみたいで、戦時中勇者の仲間として活躍したんだが、魔王に封印されたネロとフラウを解放するって旅に出た戦争の後勇者がその封印を解く旅にも付いてったそうだ」
「ああ、ネロとフラウって魔王に封印されたのね」
ニコさんもパンをひとかけシチューに浸すと、口に放り込みました。
「ああ、ネロとフラウは魔王を止めるために突如現れ、そして魔王に負けて迷宮に閉じ込められた。ネロはアビスに、フラウはセレスティアにな。このことがあって、人類は魔王のヤバさに気づいたのさ。そんでな、勇者と王子はとうとうアビスを見つけてネロに会ったんだが、結局封印を解けずに国に帰ったって話だ」
「ふーん、確かに私もネロからネロ自身の封印の話はろくに聞かなかったわね。勇者たちはフラウを探しにはいかなかったのかしら」
「いや、ソレらしいのは見つけたらしいが、門が開かなかったらしい」
ニコさんは「門ねぇ」とふと食べる手を止めると、巾着からいそいそ石を一つ取り出しました。
深い蒼が中に灯っているような、不思議に光る宝石です。
「ネロから貰ったのよ、セレスティアの鍵って」
「マジか!?そうか、ネロが鍵を持ってたのか!!…じゃあ、なんであの時勇者に渡さなかったんだ」
「知らないわよ!!」
ご飯を食べ終わった二人はドアベルをカランカラン鳴らして店の扉を潜りました。
まだこの体と外の環境に慣れていないニコは、太陽の光にちょっと焼かれて慌てて番傘をさしました。
「アツツゥ、そうしたら今のシナリオはなんちゃらクエスト2的な感じなのねぇ。もしくは3くらい?」
焼けた肌を気にしながらそんなことを呟いたニコさん。
そんな姿を横目に「吸血鬼の始祖っても不便なもんだな」とアルガスさん。
「私もつくづくそう思うわ!」
ニコさんも力いっぱい同意しました。
「そういや嬢ちゃんよ。お前さんダンジョン生まれ、ダンジョン育ちなんだろ?俺みたいな奴が居なかったら、どうするつもりだったんだい?」
「別に急ぐ旅じゃないわ、適当に各地をブラブラして手掛かりを探すつもりだったけど?」
アルガスさんの問いに、ニコさんはコックリ首を傾げ、真っ直ぐ伸びた赤い髪が揺れました。
「ノープランってわけね、それもそうか、そりゃそうか」
アルガスさんは嘆息すると、「とりあえず」と頭をガシガシやります。
「俺はしばらくここで太古の迷宮に潜りながら、金を稼いでアビスを探す予定だったんだ。有り金がな、ほとんどないのよ」
「金何て私もないわ!ナマクラ売った時のおつりだけよ!」
「安心しろ、お前には期待していない」
「失礼な奴ね!」
まぁ、ダンジョン生まれの蝙蝠がお金なんて持っているわけありません。
ゲームじゃあるまいし、魔物倒してもお金なんか落としませんし。
魔族ならお金落としますが。
「天空の迷宮の入口はここからはかなり離れてるからな。要所要所で路銀を稼がないといけない。少なくとも、旅の間の食料はテロスで確保していかないと飢えちまう」
「ありきたりな話なら、組合からの依頼でお金を稼いでって話よね!」
「まぁ、それが一番手っ取り早いな」
「やはりそれしかないか」と言うように組合へと足を向けようとしたとき、ニコさんは「あっ」とあることに気づきました。
そして、ニヤリと悪い笑顔をアルガスさんへ向けたのでした。




