016 ニコさんとアルガスさん2
2017/08/20 誤字修正。天空の王を天海の王に変更しました。物語に影響はありません。
「始祖、だとッ!?」
「そう、始祖よ!!」
アルガスさんは思わず椅子を蹴って立ち上がっていました。
驚愕を張り付けたような顔のアルガスさん。
ドヤ顔シリアスバージョンのニコさん。
あけ放たれた窓から一陣の風が吹き込み、二人の髪がサラリと揺れます。
落ちた肩をそのままに、ニコさんはトンとベッドから降りました。
「私はね、アビスから来たのよ」
アルガスさんは続けざまの衝撃に、何のリアクションもとれませんでした。
演出家のニコさんの雰囲気にのまれてか、シリアスな驚き顔のまま固まっています。
それに気を良くしたニコさんは、まだ俄然残っているお酒も手伝って、更に芝居がかった口調で話を続けました。
「私はね、アビスで生まれたの。アビスで生まれ、アビスで生き、アビスの王と出会ったわ」
「…アビスの、王」
アルガスさんは阿保みたいに言葉を繰り返しましたが、その実期待に胸をドキドキさせていました。
自分の求めていたモノに至る鍵を、目の前の女性が持っているかもしれない。
例えるなら、初めて彼女の家に行ったら、お約束通り「今日両親いないの」って言われた時の中学二年生男子のような気持ちでしょうか。
それはともかく、ニコさんはまるで細い通路を歩くようにアルガスさんの前を歩いています。
「そう、貴方が探していたネロよ」
ニコさんはふぅーっと紫煙を吐き出します。
アルガスさんは慌てて口元を手で押さえました。
うっかり笑いが漏れそうだったからです。
「ネロはね、自分を囚人と言ったわ。そして、私に一つ、願いを託したわ。始祖の吸血鬼であるこの私に、ね」
凄く偉そうです。
めっちゃ始祖の吸血鬼を強調します。
ネロさんが適当に進化させただけなのに、まるで自分が出来る女だから仕事を任された、そんな雰囲気すら醸し出しています。
目を細めて微笑み、斜め45度の視線で射貫くという高等テクニックを使っています。
「天海の王を解放してほしい、とね」
「フラウ、か」
アルガスさんは完全に飲まれていました。
ニコさん劇場に完全に飲まれていました。
「そこでね、アルガス。私は貴方に手伝って貰おうと思うのよ」
ニコさんは巾着から一つの石を取り出します。
「天海の王、フラウを解放する鍵よ。私はこれでフラウを解放し、ネロのところに連れて行く。でも私は深淵で生まれ育った身。地上の案内人が欲しいのよ」
アルガスさんはゴクリと唾を飲み込みます。
「どうかしら、私と一緒に来ないかしら」
アルガスさんは一度大きく深呼吸してから椅子にドッカリ座りなおしました。
そして目を閉じて、考えました。
たっぷり時間をかけて考えました。
結構時間が掛っていたので、ニコさんは「ちょっと過剰演出だったかしら」とか冷や汗をかき始めました。
「分かった。だが、それなら一度ネロに合わせては貰えないだろうか」
「…それは難しいわ」
ニコさんも少し考えました。
ニコさんは地上まで転送された身です。
再びあの道程を攻略するには、かつての体よりも目立ちすぎます。
バイオレンスゴリラやカオスドラゴンが見逃してくれるとは到底思えないのです。
それにアルガスを連れて行くとなると、危険度は更に跳ね上がります。
ニコさんが魔法で転移出来ればいいのでしょうが、ぶっつけ本番は怖すぎます。
この要望にはハッキリ言って答えられません。
だから正直に答えました。
「正直、今の貴方を連れてあの道を行くのは厳しいわね。知ってる?バイオレンスゴリラってヤバいのよ?」
この時、アルガスさんの気持ちを一言代弁するなら「知らねぇよ」の一言ですが、ニコさんの目は酷く真剣でした。
そうなれば、アルガスさんは引くしかありません。
「…わかった。今すぐアビスに、ネロに会うのは諦めよう。そして、貴女の申し出を受けようと思う」
ニコさんは少し拍子抜けでした。
アルガスさんの目的はアビスに行くことだったのですから。
演技を忘れてポカンとしてしまっても仕方がないというものです。
「ハハ、そんな顔するなよ嬢ちゃん。そんな間抜けな顔をされたら雰囲気が台無しだ」
「間抜けって!ちょっと失礼じゃないかしら!?」
ニコさんの演技力はもうすっかり演技力が切れてしまったようで、真っ赤な顔で講義しました。
「いやまぁ、アレだ。行きずりの綺麗な女と旅をするってのも、男の浪漫だろ?」
弁解するようなアルガスさんの理由が何処までも不誠実でしたが、「綺麗な女」という言葉でニコさんは許してやることにしたのでした。
ダンジョン感が消え失せてますね。
ニコさんはいつダンジョンを攻略するのでしょうか…。




