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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
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第七話 誘拐って身近にあるんですか?

 タバコの臭いが鼻先を掠め、滝は顔を歪めながら目を開いた。まるで永劫の眠りから目覚めたかのような気分だ。

 目を動かして様子を見ると、自分は事務所のような一室に居るのが理解でき、滝は色々あるオフィス家具の中でも偉い人が座るであろう大きいデスクの横に座らせらせられていた。

 誰も人は居なかったが、手足を椅子に縛られ、身動きが取れない。滝はさらに注意深く周囲を見渡す。壁には刀や額縁が数多くあり、床に書類や物が散乱していた。

 だが、中でも極めつけは自身の後ろを振り返り、目に入ったのは大きく立派な紙に達筆で描かれた『蘇原儀組』と書かれた代紋付きの額縁だった。

 滝はここがその筋の人たちの事務所と分かると、声にもならない唸りを上げて身体を大きく揺らした。滝は玄関に通ずるであろう通路を発見し、そこになんとか這ってでも行こうとしたが、椅子すら倒れたりせず、滝は無我夢中で暴れた。


 「んんんんんんんん!!! んんー!!!!」


 だが、滝の健闘も空しく終わり、滝は涙目になりながら祈った。


 (神様、仏様、助けてください! 道也にも優しくするから!!)


 すると、不意にドアが開く音がし、玄関に通ずるであろう通路にドアが閉まる音が響いた。


 (ま、まさかほんとに助けが来たの!?)


 滝は懇願の目でその通路を見つめているとやってきたのは真逆のヤクザの3人組であった。事務所に入ってきたヤクザの男たちは、手に大きい白いビニール袋を持っていた。


 (い、いやあああああ!!! あれに解体した私を入れる気だ!!)


 ヤクザたちは遠巻きに滝を見ていた。

 一人はスキンヘッドでグラサンを掛けており、一人は目の下に傷があるのが特徴の男、更にもう一人は、巨漢の男だった。これは堅気ではない。滝は反射的に大粒の涙を流しながら首を横に振った。


 (いや!! お願い!! こっちに来ないでね!!)


 だが、ヤクザの男たちの足は滝に向かっており、滝は涙を流しながら眺めることしかできなかった。


 (きっと売り飛ばされたり、海の藻屑になるかな……私……もっと人生楽しみたかったな……)


 滝は諦めたように目を瞑ると、道也の顔が思い浮かんだ。拒絶されたのがトラウマでも憎むことが出来ない相手、本当ならあのまま仲直りして、高校にも進んで……。滝は自身の悲運を感じながら想像してさらに涙を流した。

 そして、数分祈っていると、不意に目の前に人が立った気配を感じた。


 「お嬢ちゃん」


 低く威勢の良い声の主が滝の事を呼びながら肩を掴んだ。

 あぁ、私、もうおしまいだ。さようならお父さん、お母さん。さようなら道也。


 「できましたぜ! お嬢ちゃん!!」


 「……?」


 辞世の言葉を思い浮かべながら覚悟を決めていた滝の耳にわけのわからない言葉が入り、不思議に思った滝が恐る恐る目を開けるとそこには、二つの応接ソファーに三人が2、1で座り、応接ソファー挟まれている長テーブルに用意された皿にニコニコニコしながらアイスを分けている男たちが居た。


 「あ、あのそれはいったい……?」


 「え? お嬢さんの申しつけで買ってきたんですぜ?」


 サングラスの男は自分が買いに行かせたと言う、どうゆうことなのかわからず、滝は頭をフル回転させ考えたが、やはり、そんな覚えはなかった。


 「覚えてないんですかい?」


 「あれだけ暴れたのに覚えてないって逆にすげえや、あんなすごい能力まで使ったのにな」


 「ありゃ、もう食らいたくねえなぁ、有無を言わさず、バッタリだもんなぁ」


 ヤクザの人たちが何かをしゃべり始めるが、能力? まったく滝にはわからなかった。


 「あ、あの! 私が何かをしたのなら謝ります! だから命だけは!」


 咄嗟に命乞いをしたが、ヤクザたちの顔はなんのことかわからないと言った顔をしていた。


 「安心して下せえ! 五野目さんに無断で手を出したら殺されちまうからしやせんよ!」


 「五野目さんって……?」


 「あ、お疲れ様です!! 五野目のアネキ! 堂島の兄貴!!」


 五野目という人物の事を聞こうとした時、玄関の通路から、男女が二名入ってきた。

 男の方はドラム缶を担いでいた。


 「じゃあ、五野目、俺は弟の見舞いに行くからよ、これここに置いてくぞ」


 堂島の兄貴と呼ばれた男は入ってくるなり、そう言うと、机にドラム缶を置くと踵を返した。

 ドラム缶からは何か固形物が入っているようで、ガサガサと梱包紙が擦れる音を響かせた。


 「ありがとうね、にしても、弟さんが大好きねえ、あなた」


 微笑ましいと言わんばかりの笑顔で外に出ようとする堂島に話しかけるが、堂島は何も答えず、玄関の扉が閉まる音だけが響いた。

 五野目は気にしなかったのだろう、一直線に滝の方へ歩みを進めた。


 「お目覚めの気分はいかが? 島倉滝さん? もう暴れる気力はなくなったのかしら?」


 暴れる? 何の事か分からず、滝が少し俯くと、五野目は滝の顔を覗き込み、ニコニコとほほ笑んだ。五野目は魅力的な大人の女性といった感じで妖艶な雰囲気とマッチした綺麗な黒いドレスがとても似合っている。

 滝はいつの間にか警戒しなくなり、ドギマギしながら彼女を見ていると、五野目はどうかしたの? と朗らかに笑った。


 「あ、えっ、えっと、あなたは誰ですか?」


 「私は五野目 明、よろしくお願いするわ、あら、まだ縄で縛っていたの? 暴れないようだったら解けたら解くようにって言ったわよね?」


 五野目は、ヤクザたちの方を振り向くと、ヤクザたちは大慌てですいやせんと言い、縄を解いた。五野目はご苦労様とヤクザたちに微笑み、ヤクザたちはその言葉を嬉しそうに聞くとオフィスソファーに戻ていった。まるで子どもとお母さんだ。


 「ありがとうございます……あの、一つ聞いても良いですか?」


 「どうぞ?」


 「どうして私はここに居るのでしょうか?」


 「私が誘拐したからよ?」


 滝の顔に冷や汗があふれる。こんなににこやかな顔の誘拐犯など居るのだろうか。滝は実物を見たことがなかったのでわからなかったがきっと居ない。


 「も、も、もしかして身代金的な……?」


 「いいえ? わたしはあなたがほしいのよ」


 ねっとりとした妖艶な声で呟かれた滝は恥ずかしさで頬を赤くなってしまう。


 「私、そういう趣味はないです! ごめんなさい!」


 必死に弁明しようと手のひらを前に出して手のひらを振ると、五野目は上品にうふふと笑い、滝の頬から顎にかけて撫でる。滝はくすぐったそうに眼を瞑ると、五野目は撫でるのをやめた。


 「大丈夫?」


 「あ、あの、私、実は暴れたっていう記憶が無くて……どういうことなんでしょうか?」


 「覚えていないの? 能力を使って私たちから逃げようとしたじゃない」


 「能力?」


 聞きなれない言葉に戸惑いながら聞き返すと、五野目は滝にアイスの皿を持つように促した。


 「そうね、片手を貸してみなさい?」


 滝は言われるがまま。アイスの皿を左手で受け取ると、左手を差し出した。

 左手のアイスからバニラの匂いが漂い、滝の鼻を掠めるが、滝は、これから何が起きるのか、何が始まるのか、それだけが気になり、アイスの匂いが気にならないほどの緊張をしていた。


 「まず、左手の手のひらをあの三人に向けなさい」


 五野目はソファに座っている三人の方に、滝の左手の手のひらを向けさせた。


 「ちょっ! 姐さん!! また食らわなきゃなんですか!?」


 それに気づいた三人は慌てふためき、目の下に傷がある男が不満を言うが、五野目は気にもせずに滝に視線を向けたまま、説明をした。


 「左手に力を込めて、体外から力を吸収するイメージで力を込めて左手の手の平を三人の居る方向に向けて放つのよ」


 滝は恐る恐る説明通りにイメージをした。

 滝は驚愕した。イメージすると同時に自分の左手が光りだしたのだ。

 ただ、体外というよりも体内から力が湧いてくる感じだった。


 「こ、これなんですか!!」


 「いいから放ちなさい!!」


 五野目の叱咤に滝は勢い任せに左手を思いっきりを三人の方角に張り手の用に突き出した。


 すると、左手から光が弾け、部屋内を金色に染め上げた。

 滝は理解が追い付かずに、目の前のが光に覆われるのを見届ける。

 

 「なんなのこれ……」


 滝の疑問はさらに膨れ上がる。

 だんだんと光が消えていき、目の前が段々と先ほどの光景に戻ると、三人の男たちは全員ソファの上で気絶していたのだ。


 「これ、私がやったの……?」


 「ええ、そうよ!」


 部屋の中の人物がほとんど気絶している中、五野目は平然と滝の横に立ち、まるで念願の物を手に入れた時のような恍惚な表情で滝を見つめていた。


 「あなたが仲間に入ってくれれば、あの忌々しい島に難なく入れるわ!! あぁぁぁ!! 私たちの女神様をやっと救えるわ!!!」


 五野目は、興奮を隠しきれず、大声で歓声を上げた。滝は、そんな五野目に恐怖を抱き、恐る恐る椅子から立つと、身構えた。今の状態なら玄関まで走れる。正直、さっきの能力のことも気になるが、この女性のもとに居たら何か良くないことの片棒を担がされる。滝はそう思い、この女性から逃げ出す決意を決めた。


 「でもね、滝ちゃん、あなたを勧誘する前に、私ね、今、疑問があるの」


 急に話しかけれ、滝は肩を跳ねさせたが、平静を装い、五野目を見た。


 「あなたの能力はどこから手に入れたのかしら?」


 滝は首を咄嗟に振っていた。わからない。知らない。この言葉を出そうにも、出なかった。

 五野目の目だ。輪郭。目玉。全てにおいて、どす黒く、変に目じりが上がった眼は、まるで、魔女のようだった。先ほどの妖艶な女性から、一瞬の内に魔女と形容できる姿になってしまっていた。

 下手な事を答えたら殺される。滝はそう悟った。 


 「知らないはずないわ、あなたを最初、攫おうとした時は感じなかった能力の気が、突然、まるでフッと現れたの、あなたがあの微細な能力を持つ幼馴染と楽しくお喋りしている間に何をしたのかしら……ねえ?」


 「最初って、あの金縛り?」


 「そうよ、まぁ、金縛りというよりももっと物理的な物だけどね、私の同僚に頼んでやってもらったの、残念ながらあなたの幼馴染君に邪魔されてしまったけれど」


 滝は玄関で自身に起こった出来事を思い出す。滝は思い出した恐怖に震えながら、五野目の言葉の一言一句に耳を傾けていった。


 「どこで手に入れたのか教えてくれるなら悪いようには決してしないわ」


 五野目の顔はいつの間にか、魔女のような顔から美女の顔に戻っていた。滝は、今日の出来事を振り返り、ある出来事が頭に浮かんだ。大人びた少女の事だ。滝は意を決して話そうとした瞬間、玄関のドアが開く音が響いた。


 「あら? 誰かしら?」


 五野目は視線を滝から離し、玄関の通路の方を見る。すると、ほどなくして、先ほど、出て行った堂本という男が入ってきた。

 先ほどはすぐ居なくなってしまってわからなかったが、なんとなく漂う強者の雰囲気や鷹のように鋭い目に、真横一文字の傷が入ってる鼻、さらにオールバックという髪型もあって、先ほどの三人にも恐怖したが、見てきたヤクザの中ではこの人が一番怖いと滝は思った。

 

 「堂本さん? 病院の方は良いのかしら?」


 堂本は五野目の問いに応えず、部屋内を見渡すと、倒れている三人組を見つけ、駆け寄った。


 「またか……目覚めても暴れんならもう外に出しちまえよ」


 「これは私が無理矢理させたのよ、良い子よ、その子」


 五野目はニコニコしながら言うが、堂本は訝し気な目で滝を見つめる。


 「……もう暴れたりすんなよ」


 「は、はい、すいません」


 一拍置いて言う大吾に、滝は素直に謝ると、堂本は答えに満足したのか、顔を気絶している三人のヤクザの方に向け、三人の顔を一人ずつ手のひらで叩いていく。


 「おい、起きろ、お前ら」


 「あ、あれ? 堂本の兄貴? あ、俺たち、またお嬢さんの技食らって……」


 三人は次々と目を覚まし、状況を説明しようとするが、超能力者の彼らの知識では計り知れない事態に上手く説明出来ない様子だ。


 「分かってる、お前らは本家のオヤジのとこ行って、これからどうするか、聞いて来い」


 「おっす!」


 「あ! ちょっと待ってください!!」


 彼らは、気を取り直すと、威勢の良い挨拶と共に、部屋から出て行こうとしたが、滝が呼び止める。三人は、振り返り滝を見ると、滝は少し気まずそうにしながら口を開く。


 「最初の方は正直、覚えてないのですが、さ、さっきはごめんなさい!!」


 滝は勇気を絞り、気絶したことを謝ると、少し驚いたのか、ヤクザ三人はキョトンとするが、しばらく、間を置いた後、三人は気にしてないといった風に軽く会釈をすると、事務所を後にした。


 「あんた、良いやつてのは確かみてえだな」


 堂本はさきほどのやり取りを見て、呟いた。辛うじて聞こえた滝はそんなこと言われると思ってなかったのだろう、身体をビクッと揺らしながら、ど、どうもと軽く会釈をした。


 「あら? 私の言葉疑ってたの?」


 「あんたをこの事務所で匿って、一週間、一回も信じた事なんかねえよ」


 「私、悲しいわ、涙が出そうよ」


辛辣な堂本に涙を拭う振りをしながら訴えるが、すでに堂本の興味は机の上にずっと置いてあったアイスに移ったらしく、皿によそわれてるアイスを食しだした。


 「ん、まぁ、オヤジとあんたがどんな契約したかは知らんし、あんたのことは一切、信用してねえが、オヤジが匿えって言うなら匿ってやるし」


 堂本は、アイスを頬張りながら目を合わせず五野目に向かって話していたが、一瞬黙ると、アイスを飲み込み、五野目を睨んだ。


 「うちの組に手出したら俺が殺してやる」


 ドスの効いた声、殺意の籠った眼に一般人なら震えあがること間違いなしだろうが、五野目は違った。


 「ご自由にしてもらってかまわないわよ? 堂・本・さ・ん?」


 挑発をしているかのような声と言い方に堂本は睨むのを止めなかったが、そのやりとりをやめさせるように堂本のズボンから軽快な音楽な流れ始めた。


 「悪いが、また外に出させてもらう」


 ズボンから携帯を取り出して五野目に言うと、堂本はゆらゆらと外に出て行ってしまった。


 滝はそんなやり取りを見守るだけしか出来なかったが、一つ分かったことがあった。

 ここからは逃げられないということだ。 


 「道也……助けて……」


 力なくつぶやく声は響くことすらやめ、地面に落ちていった。

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