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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
6/27

第四話 怖いことってあるんですか?

 滝が笑っていますように。ただ風邪をこじらせただけですように。

 道也はそう願いながら滝の部屋の扉を開けた。


 だが、滝の部屋は様相を一転させていた。


 「な、なんだ? これ……?」


道也は部屋を見渡した。床は黒く染まり、壁もおどろおどろしくなっていた。そして、一番の目玉は、寝ている滝のお腹の上にポツンと置かれている小さい円筒型の木彫りの猿の置物だった。

猿の置物は目が見開かれ、無数の穴が開いていた。道也はこちらをじっと見ているかのような置物を不気味に感じたが、滝の容態を調べるため、ベッドに駆け寄ろうとした。


 「なんでだ!! 床がない!!」


 道也は不思議な感覚に襲われた。まるで宙を歩いているかのように、足場の感覚が無かったのだ。道也はおかしくなりそうな頭に悩まされながらも、一歩一歩、少しづつ、歩いていった。

 部屋から四歩程度で着くベッドに少し時間をかけてしまったが、まもなく滝の居るベッドに着いた。


 「滝ちゃん!? 大丈夫!? 滝ちゃん!?」


 道也は早くこの部屋から滝を連れ出したいと思い、必死に呼びかけるが返事は無かった。代わりに喘息は止まり、小さい息を繰り返し、眠りに落ちていた。道也は一安心し、滝の髪をなでると、意を決したように滝を抱き上げようとした瞬間、道也は動きを止めた。


 「キィッ!!キィイ!!」


 不意に滝のお腹あたりから声が道也の耳に入ったのだ。道也は驚き、たじろいだ。そして、目線を恐る恐るお腹あたりに持って行った。そして、道也の顔が恐怖で歪む。

 

 滝のお腹の上で扉の方を向いていたはずの猿の置物はその見開いた眼をこちらに向けていたのだ。

 先程まで、扉側に向いていた顔が道也の居る場所に目線を向けていたはずが、いつの間にかこちらを向いていたのだ。


 「くそっ! こんなもの!!」


 恐れた道也は、猿の置物をベッドの下に落とそうと手を振り上げ叩いた。

 道也には理解が追い付けない。猿の置物はベッドから落ちるどころか宙に浮いたのだ。


 「なっ!? 嘘だろ!?」


 道也の恐怖心は留まるところを知らなかった。信じられないものを見せつけられ、道也は冷や汗をかいた。大量の汗に濡れた道也だったが、構える余裕もないほどに狼狽した。

 

 「もうわけが分からない、頭が変になりそうだ……!!」


 道也は自分の理解に及ばないものを相手になんとか平常心になろうと道也は目を瞑った。目先が暗闇に覆われ、落ち着こうとした束の間。


 「キィイイイイイ!! キィイイイイイイイ!!!」


 先ほど耳に入った猿の置物らしき奇声が鮮明に大きく耳に響いてきたのだ。


 「やめろ! うるさい!!! 黙れ!!!」


 道也は苦痛の声を上げるが、猿の置物の奇声は道也の悲痛な声を掻き消した。今すぐここから逃げ去り、現実に戻りたい。道也の脳内は恐怖や苦痛に汚染され、どんなやつにも喧嘩上等だった男が今はまるで狩人を目の前にしたうさぎのようであった。


 「もういやだ!!! 居なくなるからその奇声をやめてくれ!!」


 道也の懇願に応えたかのように、猿の置物は奇声を消し、今度は奇声とは違い、まさしく猿といった笑い声を発しだした。


 「キィーーーーー!! キキキキ!!! ウキキキキ!!!」


 「もう俺は消える! ほら、もう出てくから!!」


 慌てて滝の部屋の扉まで駆け寄る道也はすごい勢いでドアノブをつかんだ。ドアノブから少し歪な音が聞こえたが、道也に気にかけている余裕はなかった。

 そんな道也のとても情けない光景に満足したのか、猿の置物は笑うのもやめると滝のお腹の位置にゆっくりと降下し、元の位置に戻っていった。


 道也はそんな光景にさえ、恐怖し、自分の保身を優先し、滝の部屋から逃げ出した。


                   ♦

 

 不知火 大吾は迷っていた。

 アタッシュケースを一人で開けるか、道也と開けるかに悩まされていた。大吾は好奇心旺盛な男で、アタッシュケースの中身に興味津々なのだ。


 「道也のやつ、俺にこれ持たせて女追いかけるとか、もはやドラマの域だな」


 河川敷に座り込んで、ブツブツと独り言を言うこの男は、道也にアタッシュケースを押し付けられた挙句、置いてけぼりを食らい、河川敷に一人取り残されたのだった。


 「にしても、そろそろ連絡手段が家電だけってのもも不便だし、iPhoneでも買おうかな」


 道也も大吾も携帯電話をもっておらず、いつも家電で連絡を取り合い出かけており、基本二人で行動し、離れることはなかったのだが、こういう事態になるととても不便と感じざるおえない。


 「もう待つのも考えるのもめんどくせえし、直接出向いてやるか、確かあの女て幼馴染で道也の家の隣に住んでるんだったけかな」


 大吾はため息を一つ吐くと立ち上がり、アタッシュケースを持つと道也の家の方角に歩き出した。もう完全な夜道で街頭も一つ二つ離れた距離にぽつぽつとあるだけだったが、大吾は目を凝らそうとも、足元に気をつけることもなく悠然と歩いた。まるで夜目を持っているようだった。さらに目を鋭くして歩き、外見も合わさりさながら狼のようであった。


 「怖い怖いお兄さん!! ちょっとそのアタッシュケース見せてください!!」


 大吾が道也の家がある住宅地に入り、しばらく歩いていると、急に女性のような声が聞こえ、大吾は咄嗟に声の主を探し始めると、住宅街のとある一軒家に目が留まった。そこの家の前で女性が手を振っていたのだ。

 大吾は用心しながら歩み寄ると、女性の姿が外灯の光で露わになっていった。

 

 「あんまりジロジロ見ないでね! 一応レディだからね!!」


 あっけらかんと言う女性の言葉とは裏腹に大吾はこの女性の外見をマジマジと見てしまっていた。ただ、下に白いショートパンツを履き、黒い袖なしジャンパーのその恰好はまるで少年で惹かれはしなかった。

 顔を見ると整ってはいるが、やはりどこか少年っぽく、髪もショートカットの金髪だった。ただその金髪はとても綺麗で大吾はその髪に注視してしまった。


 「ねえ、怖いお兄さん、私の顔見てどうかした? 大丈夫?」


 大吾よりも低く、道也と同じくらいの背のこの女性は、心配そうに大吾を見上げながらニコニコと笑うその顔もとても可愛らしかったが、大吾は平静なまま口を開いた。


 「いや、大丈夫だ、で? お前、誰?」


 「えー? ほんと? 私の事ジロジロ見てたくせにー、感想くらいないの?」


 「ジロジロなんか見てねえ、さっさと用件を言いやがれ」


 「嘘だー! 見てたじゃん!! もしかして照れ屋さ……うぐぅ!?」


 軽口を続けようとする女性の両ほっぺを片手で挟んだ大吾は獰猛な目で女性をにらみつけた。


 「あのな、お前と雑談がしてえわけじゃねえんだ、こっちも忙しいんだ、用件がねえならとっとと失せろ!」


 大吾は吠えると、そのまま女性の頬から思いっきり手を離した。女性は急に離された勢いで後ろから転びかけたが、両手を広げバランスを上手く保ち、自身の頬を撫でながら大吾に笑いかけた。


 「いたた、怖いお兄さんは性格も獰猛で怖いね! もう怒らせたくないし、そろそろ本題言うね!」


 女性は頬を撫でなるのをやめると、大吾の持つアタッシュケースを指さした。そして、笑顔を崩さずににんまりと笑った。まるでほしいおもちゃが落ちてたのを見つけた子どものようだった。そして、子どもがねだるように言った。


 「お兄さん! それちょーだい!」


 「断る」


 「ええ!? なんで!?」


 子どものような可愛らしいスマイルもおねだりも大吾には効かず、大吾は無慈悲に断った。そんな大吾に女性は心底驚いたかのように声を上げた。


 「名前も何も言わずに人をおちょくるだけおちょくってそれよこせはねーだろうが」


 大吾の正論に口を尖がらせて悩み始める女性。腕を組み、目を瞑り、時節首を傾げてる辺り、かなり悩んでいるのだろう。


 「個人情報はちょっと……あ、ほら! お兄さんも名乗ってないし! お相子ってことで!」


 「んなわけねーだろ! 俺はあんたにこれっぽちも用はねーし! 話しかけてきたのはそっちだろうが! なめてんのか!?」


 相手の暴論に耐えかねた大吾は声を荒げて反論した。女性は怯みも恐れもしなかったが、またもやうーんうーんと悩みだした。大吾は付き合ってられんと思い、踵を返した。

 女性は自分から離れようとする大吾の腕に抱き着いて止めようとするが腕力の差でズルズルと引きずられてしまった。


 「ああ! 待って!! お願いだよ!! それ渡して!? ね! お願い!」


 女性は必死に問いかけるが、大吾は無視を貫き道也の家の方向に向かっていった。


 「ちょっ! ちょっと! どこ行くのさ! 話を聞いてよおお!!」


 女性はズルズルと引きずられながらも懸命に離れないように必死に大吾に腕にしがみついた。

 大吾は一瞬足を止めようかとも思ったが、すぐに考え直し歩みを進めた。女性はとても軽かったので引きずるのは造作もないが、耳元で騒がれ、無視するのも限界が近かったが、この女と会話をするのは面倒だとと思うと不思議とキレなかった。


 数メートルそんな状況で歩き、道也の家が目と鼻の先に現れた頃、不意に腕から重さが消え、引きずるような音も消え去った。ついに諦めたのかと、大吾が振り向くと、そこには、さっきまでと打って変わって別人のようになった女性が居た。子供のような笑みが消え、にがにがしい顔で立っていたのだ。


 「どうした? 怒ったのか?」


 「ねえ、お兄さんってどこ向かってるの?」


 「は? もうそこのダチの家だが?」


 大吾が道也の家の方を指すと、少し安堵した顔を見せる。


 「そ、そっか、その隣の家ならどうしようかと……」


 「あ、でもダチが自宅に居ねえなら隣に行くぜ? 幼馴染の家って聞いたことあるし、居るかもしれねえからな」


 「え!? なんで!? 行かない方が良いよ!?」


 隣の家を指した瞬間、女性はまたもや焦りながら否定の言葉を強く言い募った。


 「なんでだよ? 幽霊でもいるってか?」


 「幽霊の方が良いよ……」


 「幽霊の方が良かったて思えるくらいの代物があそこにあんのか?……まぁ、とにかく、ダチの家、確認して居なかったら行くからな?」


 「私は付いていきませんからね!!」


 「いや、勝手に付いてきたのおめえだろうがよ……!」


 大吾が青筋を立てて指摘するも、女性はそっぽを向いたまま、とぼけ始めた。


 「おめえな!いいか……あ?」


 大吾は背後に気配を感じ、すぐさま振り向くとそこには道也が居た。


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