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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
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第二十三話 無茶な事って何ですか?

 ニーナと道也は白いもやの中で四方からのナイフに警戒しながら食卓の右の方にある壁を触りながら進んでいた。


 「なんでこんな視界不良なのに相手は的確に撃ってこれるんだよ……」


 「相手の能力はこちらを見通せる暗視スコープもしくは熱感知て具合かしらね、正直、私も生体反応があるのは分かるけれど、色んな生体が多すぎて把握が……左!」


 道也はすぐさま左を向き、拳に力を溜めつつ、腕を水平に重ねると同時に何かが道也の腕に弾かれる。時間と共に落ちてきたものはナイフだった。


 「ふう、少し遅かったら今頃ナイフで串刺しだったよ」


 「気をつけなさい」


 警戒を強めつつ、壁を触る道也。何かを探るように壁を手で摩る。


 「ないね、扉」


 「このあたりに扉があったはずよ、根気よく探しなさい」


 「はいはい、っと、これか?」


 道也の手にドアノブの様な金属の突起が触れ、道也は握ってみた。すると、冷たい風が道也の腕に当たった。


 「よし、ここだ」


 「やっと見つけたのね、急いで食卓を離れるわよ」


 ニーナの言葉に促され、道也は先にその扉に入った。ニーナも道也の後ろから入ると、扉をゆっくりと閉じた。

 部屋の中を見渡すと、一面白いタイルで覆われた通路だった。蛍光灯がゆらゆらと揺らめいていた。


 「この屋敷どうなってんだ……今度はまるで研究施設じゃないか」


 「あの偉そうなオジサマに五野目が作らせたのでしょう」


 「プロポーズのために用意したって……」


 「きっと五野目が何となしに言ってさりげなくオジサマの深層心理に刷り込ませたのでしょう」


 「つまりここは本当に研究施設……」


 「彼女らが動きやすいための隠れ家にもなってるはずよ」


 ニーナと道也が考察しながら眺めていると、不意に扉の方が道也は気になった。


 「ナイフ野郎追ってくるかな……?」


 「あの狙撃手に自我が無ければここまで追ってこないわ」


 「自我が無くてあの精度は凄すぎるよ」


 「そうでもないわよ、私たちがたまたまターゲットなだけで、元々狙撃を得意にしてた人が本能と直感で無意識に撃ってきてた可能性もあるわよ」


 「どんな偶然!?」


 さすがに話が出来すぎだろ、それは。道也はぼやきたくなるが、ニーナのこれ以上の反論は許さないという目が道也をぼやかせるのを止めさせた。


 「まぁ、とにかく追ってきても今度はこんなに狭くて見通しが良いのだもの、倒せる確率は高いわ」


 「こんな所で狙撃は出来ないだろうしね」


 「ナイフの使い手だった場合は終わりだけどね」


 「それはもう運だね……」


 ナイフの使い手だった場合、道也に勝てる見込みは無い。何しろ、これまで超能力者戦で楽勝したことがない。道也はここまでの道のりで既にボロボロだった。今の道也を立たせているのは滝を救う事。ニーナという頼もしい仲間が居てくれるからだ。


 「そういえば、迎えって誰が来てたの?」


 「あなたより先に行ったはずなのに着いてなかった人達よ」


 「やっとここに来たのか……」


 大吾と推。なんだか大分会ってない錯覚を覚えるくらいには短い間に色々あった気がする。


 ニーナと数メートルほど歩いているとふとよこにガラス張りの部屋が見えた。だが、そこに映っていたものに道也は驚愕した。


 「なんだこれ……」


 道也が見たもの。それは女の子の生首だった。綺麗な顔に黒髪の少女でまさしく人形と言っても差し支えない程に綺麗だった。

 生首だけ見ればとても残酷だが、少しおかしいのはその生首は厳重に保管され、生首の下には高級そうな布が敷かれ、周りには綺麗な花のブーケが周り一面に置かれていたのだ。


 「北の超女ね」


 「え!? なんで生首なんかが……」


 「花なんか添えられていい気味……はぁ」


 あれが噂の北の超女。五年前の戦争よりも前から恐れられていた女。それがこんな姿で……。道也は驚きの顔を隠せずにいたが、ニーナは呆れた顔でため息を吐くと先に進んでいってしまう。


 「ま、待ってよ! あれって……」


 「あれには何の意味もないわ、身体は九魔島のどこかで眠っているか、もしくは封印されているか……定かではないけれど、あんな状態じゃあ何もできないわ」


 「そ、そうなんだ、少しビビったよ」


 「ふふっ、もう少し度胸を付けなさい、不良のくせにそういう所で損をしているわよ」


 道也もそう思う。理解できないものに対して怯えが生じるのが自分の短所だと、元々はこういう性格じゃなかったためか、混乱するととても弱くなる。道也は苦笑いしか出来なかったが、見つめ直すには十分な言葉だった。


 「あそこの階段から地下ね」


 見ると、通路の先に階段が下りていた。道也は階段により、下を見るが何も見えない。どころか、とても長い階段の様だった。


 「うげっ、長いね、これ……」


 「しょうがないわね、少しショートカットしましょう」


 「ショートカット?」


 「壁を滑り下りるのよ」


 ニーナが指さした所を見ると、そこには階段を囲む壁しか見えない。道也は疑問に思う。


 「なぁ、壁ってあの何の変哲もない窪みさえ見えない白くてすべすべしてそうな壁の事?」


 「ええ、そうよ」


 「いや、無理だよ、下手したら死ぬよ?」


 「下手しなければ良いわよ」


 これまでも無茶ぶりをし続けたニーナだった上に酷い無茶ぶりも数多くされてきたが今回は本当に死の危険を感じてならない。


 「ニーナはどうするの?」


 「私は浮けるもの」


 「は?」


 「私は浮けるから下まで直行で行けるわよ」


 この女どこまでズルいんだ……もはや君、一人で良いんじゃない? 道也はそう思うとニーナはにっこり笑った。


 「私一人でも良いけどそれであなたは良いの?」


 「うっ! よくない!」


 「なら、覚悟決めて、力を溜めた拳で壁に穴を開けながら来なさい」


 「んな、むちゃくちゃな……」


 約束の件もあるし、まずプライドが許さないと道也は階段の下を覗かず、後ろに何歩か下がり、壁に向かって飛び跳ねた。


 「うりゃああ!!」


 道也はがむしゃらに右拳を壁にぶち当てる。すると壁は奇妙に歪みだし、道也の右拳が壁にめり込んだ。


 「もうなんだかスーパーヒーローみたいな気分だよ」


 皮肉交じりに道也はそう言うと、空いている左手を下の方に突き刺し、右手を抜いて下に移動する。


 「あなた何してるの?」


 「何してるって、言われた通りにしてるだけだけど……」


 「そんなじゃ階段の方が早いわよ……それに二回もボコボコ使ってたけど連続で使えないって言ってるでしょ」


 「そこはニーナが気力をくれるんじゃ……」


 「めんどくさいわよ、下に急降下していって途中で壁に突き刺していけば良いじゃない」


 「いや、それ本当に命の危険が……」


 つまり、この壁を飛び下りて適当な場所で拳貫通させて止まるのを繰り返せという事だ。道也は慈悲を求めるかのような目でニーナを見るがニーナの親指が不意に下の方向に向いた。下りろ。そう言いたいらしい。


 「南無三!!」


 道也は覚悟を決めて飛び降りた。めちゃくちゃ怖い。下は真っ暗だし、何より落ちる体感が怖すぎた。


 「うわあああああああああ! あぁああ!!! も、もう無理!!」


 道也は適当な所で壁に拳をぶち当てた。壁はいとも簡単に穴が開くが、ここでとんでもないアクシデントが起きてしまう。


 「んんんんんんんんん!!!!!」


 拳は壁の穴に確かにめり込んだが、止まらなかったのだ。火花を散らしながら腕は壁を下方向に亀裂を生み出していく。


 「止まれえええええええ!!!」


 道也はダメ押しとばかりに空いている拳を壁にめり込ませ、壁に足を当て、思いっきり踏ん張ると次第にスピードは落ちていき、やっとの思いで停止に成功した。


 「はぁはぁ、危ないところだった……、くそっ、靴がボロボロになっちまった」


 軽く足を上げ覗き込む道也は返せないなと落胆した。

 現在、メイド服に合わせるため軽いレディースの靴を履いていたが、今の行為をせいで靴の底が完全になくなっていた。だが、不思議な事に足の裏には何もなく、血さえ出ていなかった。


 「足にも溜めることが出来たみたいね」


 下からニーナがふわふわと降りてくると道也同様に、足を覗き込んだ。


 「足にも……?」


 「壁にくっつけられて力が入ったせいね」


 「じゃあ、足で攻撃も出来るわけだね」


 「隙はでかいと思うけれどね、足の場合は同じ体制のままでなくちゃ溜められないわ」


 「なら、隙どころか当たりそうもないね」


 道也は少し残念そうな顔して見せると、ニーナはそれも特訓次第よと言うと、下に降りて行った。


 「後どれくらいなんだ……」


 「もうすぐそこよ、もう飛び降りちゃいなさいよ」


 「え?」


 道也は下を見ると驚いた。もう二階建てのマンションから見える地面程には近く感じたからだ。一回飛んだだけで上から見上げたら長そうに感じた階段の距離も物の数分で着いてしまい、道也は自身の力のはずなのにとても自分の力の様に感じれなかった。


 「ほら、ぼさっとしてないで降りてきなさい」


 「あ、あぁ」


 道也は両拳を壁から抜くと、足を静かに地面に降り立った。眺めると蛍光灯が一本付いているだけの扉が見えた。


 「あそこから生体反応が何個かするわ、それに中は思ったより広そうね、警戒して入りなさい」


 「分かった」


 道也はそう言うと、ドアノブをゆっくり回し、なるべく音を立てないように扉を開けた。


 「いつもながらに驚きだな」


 扉の中は正方形で出来ており、真ん中にはガラス張りの正方形のショーケースが面積のほとんどを占めており、ショーケースの周りのスペースには機械類で埋め尽くされていた。


 「足元に気を付けなさい」


 ニーナと道也は機械のコードを踏まないように慎重に歩きだす。


 「何かを入れるためのショーケースだろうけど……」


 「……!?」


 道也が考察を始めようとした瞬間、ショーケースにライトが照らし出され、マイクの入る音が響いた。


 『マイクのテスト中。あーあー、戻ってくるとは思わなかったわよ、東の超女さん? あなたが本物の超女でいつどこで何をしてきたかに興味はあるけれど、私は今からショーを見なければいけないの。もしよろしければあなた方も見ていきなさい。いえ、見ないという選択肢は無いわ』


 五野目の声だ。冷酷で非情な声がこの部屋を支配しだした。どこから見ているか分からないが道也も負けじと声を響かせた。


 「さっさと出てこい!! 滝ちゃんを猿の置物から出してもらおうか!!」

 

 「道也、落ち着きなさい、あなたの目的は北の超女の復活のはずね、そのショーとやらが関係しているのかしら?」


 道也を遮り、ニーナが質問すると、五野目は微かに笑いだした。


 『うふふふ、あなた、超女になりたてね、私の考えもわからないんて……あぁ、でもわが女神ならきっとわかってくれるはずだわ……』


 「質問に答えなさい!!」


 『見ればわかるわよ』


 五野目は興奮しだしたと思うと、冷淡な声に戻ると、ショーケースの下底が開きだした。そして、何かが上昇する音が聞こえ始める。


 そこに現れたのは超能力者に改造された数十人のヤクザ達だった。


 『彼らを今から生贄にします。そう!! 女神のための……ね?」


 生贄。なんて残酷な言葉だろう。だが、道也はその言葉の意味よりも実際の光景に恐怖することになる。

 

続きは明日です!

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