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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
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第二十二話 殺しってなんですか?

 白いもやを抜け、なんとか扉から出れた道也とニーナ。食卓では未だにうめき声と唸り声が木霊していた。


 「達史さんたちは……」


 「こっち!! こっち!!」


 道也の心配もつかの間、しづるの元気な声が階段下から聞こえてくる。覗き込むと、護衛役のヤクザやお付きのヤクザ達が一斉に階段の下で達史を見つめていた。


 「堂本のアニキ!!!」


 「しっかりしてくだせえ!!」


 堂本の部下なのだろう。三人のヤクザ達が一番オロオロとしているのが見えた。


 「心配すんな……てめえら、俺を誰だと思ってる……」


 「でもよ! あにきぃ! その腕え!!」


 腕が千切られ、見るも無残な事になっているだろう場所はスーツで隠されているが、スーツが血で滲み切っていた。


 「てめえら!! ヤクザのくせにうろたえてんじゃねえ!! 良いか? まず、俺は一回、散らばってる部下を集結させる。その間はお前ら三人しか俺の直参は居ねえ、だから落ち着け、頼りにしてんだからよ」


 「うう、兄貴ぃ」


 「兄貴! わかりやした!!」

 

 「俺たちが兄貴を全力でサポートします!!」


 達史の言葉に三人は興奮を隠しきれず大声で誓い合っていた。


 「暑苦しいわね」


 「ええ、あれ見て感想それなの……? もっと……」


 「あまり興味ないもの、ちなみにあなたのメイド服に触れないのもあの状況だったのもあるけれど、興味がないからよ」


「それはどうもありがとう!」


 その指摘は要らなかった。道也は顔を赤くしながら皮肉を言うが、それより大事な事を聞きそびれていたと態度を改める。


「その猿の置物さ、滝ちゃんが入ってるんでしょ?」


「ええ、そうよ、ここには滝が入ってるわ、奪還は成功よ」


「よっしゃ!! じゃあ早く出してあげよう!」


道也は喜びながらそう言った。やっと謝れる。助けられた。道也は今までにない程の喜びを感じていた。


「それは無理ね」


「え、どうして?」


道也の喜びをニーナが一刀両断してしまう形になってしまう。

だが、ニーナもこれ以上ないと言うほど苦しい顔をしていた。


「この猿の置物は五野目という女でしか操作できないもの」


「嘘だろ! じゃあ何で逃げたのさ!」


「あなたが戦っていたあの男、あなたとの相性最悪だったの、だから、私が霧を吐いて彼を引き離したのよ。あのまま苦戦を強いられて勝ったとしてもあの五野目という女が居るのよ、これは戦略的撤退よ。滝も確保出来たし、彼らもようやく辿り着けたようてわすし、一度体制を整え……て道也!!」


 道也はニーナの話を聞かずにまた食卓に飛び込んでいた。戦略的撤退だろうとなんだろうと、あんな猿の置物から出せてないならそれは救ったうちには入らない。道也はガムシャラに走り出す。


 「ごげえええ!!」


 怪物のような叫び声が轟き、壁の方向から何かが飛び跳ねているような音が響いていた。


 「意識がない超能力者か……」


 道也は油断せずに歩くと、長テーブルにたどり着いた。長机を手探りで触り、端の方を触りながら白い靄を進んでいく。

 何かが確実に飛び跳ねている。だが見えない。


 「はぁ、はぁはぁ」


 道也は異様な緊張感とこれまでの疲れで息が荒くなっていく。


 「くそっ、何も見えや……!!」


 道也の頰から血が垂れた。頰に何かが掠ったのだ。

 驚いて辺りを見渡すと、またも前方から何かが飛んで来たのだろう。道也のこめかみから血が溢れた。


 「ここに居たら不味いな」


 道也は長机上に上がって様子を伺っていると他に誰かが長机に乗ったのだろう。

 長机がガタガタと揺れた。


 「今度はなんだよ、びっくり人間ショーもいい加減にしてくれ」


 軽口を叩くが道也は少し苦しそうだった。道也は長机から反対側の方に降り、まっすぐ五野目が居た場所を目指す。


 「はぁはぁ、滝ちゃんを助けなきゃ……」


 滝を助ける。道也はその一心で恐怖も不安も抑え、前へ前へと突き進んでいく。


 「うがああああああ!!」


 咆哮が食卓に響く。その瞬間、道也の身体が宙に浮かんだ。といよりも吹き飛ばされていた。


 「ああああ!!」


 壁に叩きつけられ、道也は先ほどの四足歩行の男を思い出す。


「やっぱりお前か……」


 道也の考えは当たった。四足歩行のオトコが道也が見える範囲に顔を突き出したのだ。

 だが、そんな事よりも道也には不可解な事があった。

 その男が悲しそうな顔をしていたのだ。


 「……くれ……」


 「え?」


 男の方から何かが聞こえたが、聞き取れずなかった。

 道也はもう一度、耳を澄ませた。


 「助けてくれ……助けてくれよお!!!」


 道也は衝撃を受けたが、それどころではなくなってしまう。男は自分の意思なのかはさておき、道也には飛び掛って来たのだ。


 「く! おらっ!!」


 普段の溜めてない道也の拳が男の身体に当たるが、男の身体はとても硬く、道也の手の方が痛くなってしまう。

 男はそんな道也の右手肩に噛み付いた。噛まれた右肩に男の歯が突き刺さる。


 「いってえな!!」


 道也は左拳を握りしめ、噛まれている肩を思いっきり下に引いた。


 「うぐう!!」


 肩から肩の上に掛けて、メイド服が破れ、そこには痛々しい傷が広がっていた。

 先ほどのでかい口の男ほどではないが、やはり人間の歯よりも強い気がした。

 だが、そんな事は気にしていられない道也の行動が予想外だったのか、少し出遅れる男の腹に溜めた左拳を食らわせる。男は数メートル吹き飛び、白い靄に姿を消した。


 「たす、たすけてくれえ……」


 白いもやの中で男の悲痛な声はあいも変わらず聞こえるが、道也には今、どうしようもないと言うのが本音だ。


 「どうやったら助けられんだ……」


 「殺すしかないわよ」


 辛辣な言葉が道也の耳に入り込む。

 白いもやの中、道也が認識できる範囲にまでニーナは近づき、道也の顔を上目遣いで見た。ニーナはジト目でこちらを見たが、道也には理由がありありと分かっていたので触れないようにする。


 「あ、あのさ、さっき殺すしかって……」


 「元々、あの飴は北の超女が仲間を増やすために使っている手なのよ、それを九魔島の研究者が作ろうと躍起になったらしいけど、南の超女を敬う九魔島で南の超女の身体から何かを採集しようとすればそいつはすぐに罰せられられるわ、でも、五年前の戦争である能力者が北の超女の力を何割か切り取ったの、それを利用して出来たのがあの飴ってわけ。でも、今の飴は未完成。能力者にするだけで、意識も理性も奪いさる。あの男のように理性が蘇るなんていうイレギュラーもあるようだけれど」


 「じゃあ滝ちゃんも……!!」


 「あれは私が作った私印の飴よ? 最初は少し暴走するけどすぐ治るわ」


 道也の心配は杞憂だったが、ニーナはやれやれといった風に首を傾ける。


 「にしても、九魔島の研究者達はそれを作ってどうしようとしてたの?」


 「人員補充に使うつもりだったのよ、本島の人を使ってね」


 「そ、それって、日本人が全員、超能力者になるってことか!?」


 「いえ、日本人どころな地球の人全てよ、そんな薬日本だけで秘匿したら戦争になって、それこそ超女の思う壺よ」


 まるで妄想を聞かされてるかのような感覚に襲われる道也だったが、ニーナの言葉は全て本当なのだろうと変換されていく。


 「で、この食卓に居る人達を救うには全て殺すしかないわ、彼らは不幸ね、知らないうちに制御出来ない力を与えられて、戦わされ、殺されるだけなんて……」


 ニーナのは言葉に反して顔はいつも通りの真顔だったが、感情がにじみ出ていた声だったのに道也も少し悲しくなる。


 「あなたが殺さないならわたしが殺すわ、本当は体制を整えたかったのだけれど、どこかのバカが先走るから……、まぁ遅かれ早かれ彼らは殺さなきゃいけない存在だから……」


 ニーナも本当は殺したくないのかもしれない。道也はそう思って、声をかけた。


 「いや、俺もやる。ニーナにばかり負担はかけられ無いよ」


 「あなた、人を殺すのよ、良いの?」


 「殺してあげなきゃ救われないんでしょ?」


 道也の顔は至って真剣だった。もう覚悟が決まっているのか拳を握りしめていた。


 「もう、二回も使ったでしょ」


 ニーナはそんな道也に微笑むことも悲しむ事もしなかったが、優しく手に触れ握りしめた。

 腕から暖かい物が込み上げてくる。下を見ればニーナは上目遣いだが、真顔で道也を見る。


 「無理はしないほうが良いわよ、お互いのためにね」


 「ああ、分かってる」


 「きっと五野目という女とつるつるオヤジは食卓の奥の部屋ね」


 「知っているの?」


 「いいえ、見えていただけよ」


 「そういえば、いつからあそこに居たのさ」


 「ずっとよ、あなたが来る前から、ずっとあの女が滝の入った猿を出すのを待っていたのよ」


 だが、なら助けに来てくれなかったのだろう。道也は疑問に思った。ニーナは見抜いたように咳ごみをする。


 「あの男の腕が食われる時に助けなかったのは私には関係ないから。あなたがピンチの時すぐ来なかったのはあなたの力を試したかったから、分かった?」


 関係ないから。すごく冷たい言葉だが、ニーナにとっては確かにどうでもよかったのだろう。道也は責めなかったが何も言わずに両拳を握りしめ、白い靄を走りだした。


 「……返事をしなさい」


 ニーナの呟きはもやの中の消えていくように響きもしなかった。


 道也とニーナが向かっていると最初に襲ってきたのは四つん這いの男だった。

 飛びかかってくる男の顔にストレートをねじ込み、さらに左アッパーで相手の顎を砕いた。

 確実に相手を戦闘不能にし、下手したら殺している。

 だが、男はフラフラと立ち上がる。


 「立ち上がらないでくれよ……」


 道也の拳が少し震える。殺すために拳を振るうのが初めての道也にとって、この闘いは喧嘩の比じゃない。


 「あ、あがっ、ががっ、がっ!?」


 男が道也に寄ろうとした時、男の後ろに二ーナが周りこみ、拳を男の胸に突き刺した。すると、男は少し痙攣すると動きを止め、人形のようにニーナの腕に垂れ下がる。


 「道也、油断しないで、殺すっていうのはこういうことよ」


 死体を刺したまま冷静に言うニーナにも驚くが、道也は何よりそこに死体があり、それが見えているという状況に吐き気を覚えた。それを察したのかニーナは死体を放り捨てると、道也の口を押えた。


 「吐かない方が良いわ、どんな能力者が居るのかわからないんだから」


 「りょ、了解」


 道也は自分で口を押え直し、何とか我慢し先を急ぐことにした。

 いざ、目的地が見えないと広いがただの一室の食卓が先が見えない道のように錯覚してしまう。


 「……! 来るわよ!」


 ニーナは道也の腕を掴んで後ろに下がる。すると、音だけだが、地面に何かが突き刺さる音が聞こえる。


 「さっき俺になんか飛ばしてきてたやつか……」


 「さっさと倒して、五野目たちを追うわよ」


 ニーナの言葉に道也は頷くと、構えを取り始めた。

続きは月曜日です。今日の更新が遅れて申し訳ありません。

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