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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
20/27

第十八話 潜入成功してますか?

 見事に暗くなった世界の中、その豪邸は輝いていた。ライトに照らし出される見事に手入れされた庭。更には噴水の清らかな水の音が静かに聞こえ、拳銃の音が響いた。


 「あれ!! 本物の拳銃だろ!!! あぶね!! 今当たるとこだったよ!?」


 「私有地で高台の家だからこそ出来る荒業ね」


 道也たちは叫びながら広い庭を走り回っていた。道也は冷や汗をかきながらの全力疾走だった。ニーナは透明で分からなかったが声からしてなんともないといった感じだった。


 「おどれらああ!! ここが蘇原儀組の本家って知っての狼藉かぁ!!!」


 「止まりやがれ!! 捕まえてミンチにしてやらぁ!!」


 道也たちの背後から聞こえてくる荒々しい怒号、それに混じって撃たれる銃弾。道也は振り向く余裕もなく、走り続けた。


 「くそっ!! 潜入は成功したのになんでこんな!」


 「仕方がないわ、まさかあのタイミングで玄関からぞろぞろと来るとは思わなかったもの」


 道也たち、主に道也が苦労して入った矢先に、玄関が開き、さらにはそこから強面ヤクザが何人も出てきたのだ。透明が切れていた道也はバレてしまい、庭で追いかけっこの真っ最中というわけだ。


 「悪いけれど、道也。私は先に玄関から中に入るわ、ここは任せたわよ」


 「は!? 嘘!?」


 道也が驚愕した声を出すが、言ってしまったのだろう、返事が来ることが無かった。


 「あのクソ女! 俺を透明にしてから行けよ!!」


 遅すぎた叫びはヤクザの声にかき消されてしまう。だが、道也は走っているうちに屋敷の隣奥にライトが微かにかかったある場所を見つけた。

 そこは古びた倉庫できっと物置場だろう。ひとまずあそこに隠れたかったが、先にヤクザの追手を振り切らなければならない。


 「いちかばちかでやってやる!」


 道也はヤクザを背後に置いたまま走るのをやめると、拳を固めた。道也が止まったおかげか、銃声が鳴りやんだ。道也はそれが分かると振り向き、ヤクザ達を見据えた。


 「やっと止まりやがったか……ってよく見たらガキじゃねえか」


 「どうやって入り込みやがったんだ?」


 ヤクザ達は道也の外見に驚いている様子だったが、その拳銃を仕舞おうとはしなかった。


 「いやー、僕、迷子で迷い込んだだけでほんとにただのバカな中学生なんですよー、あはは!」


 苦し紛れに言い訳をする道也だったが、ヤクザ達はジリジリと近寄ってきて、遂に道也の目と鼻の先に立った。どいつもこいつもみんな豪胆で強そうだった。


 「そんなわけねえだろ、うちの門のセキュリティは万全だ。てめえみたいなガキ入れるわけねえだろ」


 「あはは、こ、故障とかは……」


 「まず、門が開いてなかったろうが! それとも門をよじ登ってきたのか! どちらにしろ故意で入ってきたんだろうが!!」


 最近のヤクザは頭がキレるらしい。道也の言い訳を見事に打ち砕いていく。道也は握る拳を目でチラッと確認すると顔を伏せ、しゃがみだした。


 「おい! 土下座したって許さねえからな! ガキだろうが容赦しねえ! てめえをオヤジのとこに突き出してやる!」


 ヤクザは道也の頭を掴み、上げようとしたその時、道也は地面に向かって拳を振り下ろした。


 「な!? あぁああ!!」


 道也の拳を中心に四方八方に小さな地割れを引き起こしたのだ。地面は盛り返し、亀裂が入る。ヤクザ達は足場が不安定になったのもあるが、道也の地割れを起こすほどの拳の威力でヤクザ達はそれぞれ地面などに背中sから落ちていき、気絶したものまで現れた。


 「よし、なんとかなるもんだね」


 道也は自分の地割れが起きていない中心から地割れの比較的少ない場所を移動しながら、屋敷の隣奥を目指した。屋敷に今すぐ入ろうとも思ったが、ヤクザの数は未知数だし、溜め攻撃も連続で使うと腕が壊れると聞き、普段の自分の腕力と微力の超能力を合わせた喧嘩技だけでは数多くのヤクザには勝てないだろうと判断し、一旦隠れることにした。


 「くそう! どこ行きやがった! あのガキ!!」


 道也が大分地割れ地点から離れると怒声が聞こえてくる。無事だったヤクザが叫んでいるのだろう。

 そして、道也は倉庫にたどり着いた。倉庫は鍵が掛かっておらず、スライド式の鉄扉はすぐに開いた。


 「げほっげほっ! 埃臭いな」


 倉庫の中は埃が舞い、清潔にはされていなかった。だが理由が判明した。きっとここは使われなくなったものを置く物置なんだろう。

 大量の段ボールに壊れた大工道具、古い本に、骨とう品などが置かれていた。

 道也は、見物をしながら段ボールが積み重なってる影に潜んだ。


 「さて、これからどうしたもんかな」


 道也としてはすぐにでも滝を救いたかったが、このまま突っ込んでは自滅だろうと考えていた。ひとまず、ここで外が落ち着くのを待とう。そう思ったが、突然扉がガタガタと揺れ始めた。

 誰か来たのか。道也はすぐさま扉に近い場所にある段ボールの山の身を隠した。


 「さぁてと、帯人様の本~」


 陽気そうな女性が入ってきた。メイド服を振り振りさせながら段ボールを開けていく女性。道也には気づいていないようだ。道也は女性が背後を見せると同時に忍び寄り、女性の口を押えた。


 「んんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!」


 「大人しくしてください、さもないと首の骨を折ります」


 声にもならない声で叫ぶ女性に出来もしないハッタリを言ってみるが、この女性には効果的だったようで涙目になりながらコクコクと必死そうに頷いた。


 「よし、じゃあ手を口から離すけど叫ばないようにね?」


 道也は恐る恐る口から手を離すと、女性はむせながら道也を見た。その顔は煌びやかで整っており、とても綺麗で先ほど共に行動していたすみれに似ており、道也は確信した。


 「あなたの名前は?」


 「私は米野しづる……」


 ビンゴ。道也は口元をニヤリとさせ、しづるを見た。


 「あなたのお姉さんを知っている」


 「え? え??」


 「あなたのお姉さんの歓楽街でキャバ嬢をやっている米野すみれさんを知っているて事です」


 困惑するしづるに丁寧に説明するとしづるは驚いたような顔をした。


 「え!? どうして君みたいな子が!? てゆうかその外見で20より上はかなり好みだよ!」


 「しっー! 静かにしてください!! ちなみに俺は堂本光吉の同級生であるきっかけで知り合っただけです」


 「あ、ごめん……」


 しづるは興奮を自身の口を押えて納めていく。年齢について謝ったのか、叫んだことについて謝ったのかはわからないがこの人多分天然かなんかだと道也は苦笑いをするがすぐさま質問を開始した。


 「聞きたいことがあります、この屋敷に今日、俺くらいの女の子が連れてこられませんでしたか?」


 「女の子……? あ、うん、来た来た」


 「ほんとですか!? 今はどこに!?」


 「え、えっと、今は帯人様と幹部様たちの会食に居るかと……」


 「そ、そっか!」


 道也の興奮具合に引きながら答えるしづるだったが、道也は気にせず喜びを顔に表し、興奮をギリギリで押さえつけた。まだまだ聞きたいことがある。


 「あのさ、堂本達史さんって知ってる?」


 「うん、私のお姉ちゃんの恋人だもの、知ってるよ」


 「その人は? 居る?」


 「ええ、達史さん大けがしてるみたいだったけど、会食に出たわよ」


 「わかった」


 つまり、大吾達は巻かれたということだ。道也はこめかみに指を這わせると考えた。


 「そういえばしづるさんはなんでこんなとこに?」


 「ああ、私は帯人様の本を取りに来たの」


 「そういえば帯人様って誰?」


 「帯人様はここの組の組長さんよ」


 「つまり、しづるさんは今から本を組長さんのところに持っていくわけだ!」


 「はい、そうですね」


 なんというグッドタイミング。道也は運が回ってきていると考え、しづるを見た。


 「俺も探すの手伝うよ! どんな本?」


 「え? あ、ありがとう、えっと、帯人様が裸で映ってる本」


 「は?」


 ヤクザの会長が裸で映ってる本? どんな需要があるんだ? 道也は頭の中で考えを交錯させるが今はそんな事はどうでもいいと割り切り、了承すると本を探し始めた。


 「お、これじゃないですか?」


 段ボールに多く敷き詰められた本の表紙には確かにスキンヘッドのおっさんがマッチョポーズで映っており、大変気色悪かった。


 「そうそう! これこれ!!」


 「にしてもこれ何の本……うわっ」


 道也は少し気になり、パラパラとめくると裸のおっさんがポーズを取っている写真が次々と視界に飛び込んでくる。これが本当の視界の暴力てやつだ。


 「は、はい、これ、なんか気分悪くなってきた」


 「だ、大丈夫ですか?」


 「う、うん、でさ、お願いがあるんだけど……」


 「?」


 「俺も屋敷の中に入れてくれ!!」


 「え!?」


 道也の急なお願いに驚いたがすぐに首を横に振る。


 「無理無理!! バレたら殺されちゃうし! 何よりどうやって入れるの!? そんな権限無いよ!」


 しづるの必死な否定に道也は頭を悩ませるがふと目に入ったしづるの服に道也は目を奪われ、さらには苦悩のしている表情になった。


 「いや……背に腹は代えられない!!」


 「え!? 急にどうしたの!?」


 道也はしづるを指さし、こう告げた。


 「俺がメイド服を着れば問題なし!!」


 「ええ!? 本気ですか!?」


 「マジ! 本気と書いてマジよ!!」


 「その割には冷や汗と口調がぶれててすごいけど……」


 道也は隠しきれない嫌悪感に押しつぶされそうになりながらもグッと堪えた。道也にとっての女装はとても屈辱的で、よく昔は顔の可愛さから女装をさせられていた。道也のトラウマである。だが、今回はどんな手も使うと決めており、道也は覚悟を決めた。


 「う、うーん、でもやっぱりバレた時が……」


 「大丈夫、俺が脅したことにすればいい」


 「そんな上手くいくかなぁ?」


 「為せば成るて言いますよ!」


 道也の謎の自信にしづるは少し考える素振りを見せると諦めたようなため息を吐き、ほほ笑んだ。


 「分かったわよ、協力してあげる。姉さんの知り合いみたいだしね、そこで待ってて?」


 「ありがとうございます!」


 服を取りに行ったしづるを見送ると、道也は頭を抱えた。


 「さらば羞恥……!!」


 道也の目には涙が溜まった。

19話は明日です!

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