第十七話 溜めて持ち上げるんですか?
道也の言葉にミーナは呆れ顔をした。
「どうせ、人を助けて傷つくのが見たくないとかでしょうけど、甘いわよ」
「うっ……だが、あんなボロボロな姿になるなんて……」
「どんな能力にもリスクはあるわ、もちろんあなたもよ、あなたに溜め攻撃を教えたけど、あなたの今の段階で使い続ければ腕が壊れるわ、私がもし居ないときにでもしてみなさい、あなたは壊れた腕のまま敵と対峙しなければいけないわ、つまり一撃必殺で相手を倒さなきゃいけないの」
「諸刃の剣て事……」
道也は自身の手を眺め、考える。超能力者同士の戦いを一撃で済ませなきゃならない辛さ。喧嘩でも相手を一撃で倒すにはコツが居る。道也が普段狙ってるのは顔面だが、溜めた攻撃で顔面を狙うなら不意打ちはできないという事。
「喧嘩向きじゃねえな、この能力」
「練習を重ねれば、私の原初の能力の様にいつでも使えるわよ」
道也は推が言っていた九魔島を思い出す。あそこに行けば、出来るかもしれない。行くことは無いだろうが、少し興味が湧きだした。
「道也君、ニーナちゃん、取り込み中のところ悪いけど、これから徒歩で迂回して本家に行っていたらかなりの時間が掛かるわ、一度店に戻って新しい足を取ってこないと……」
道也とニーナの元に、すみれは焦りながらそう言うと、ニーナは考える様子を見せた。
「あの鉄くずを退かして扉から歩いてそこに行くのはどうかしら?」
「え、でもどかせないわよ、何しろ、未だに火の粉は舞ってるし、持って退けるには大きすぎるわよ」
「ふふん、では道也に任せようではないか」
ニーナは鼻を鳴らして、道也の方を向くが、道也は理解できなかった。
「ボケてる男ね、練習よ、練習」
「練習ってバイクの残骸を殴って壊せって事!?」
「そんなことしたら二次災害よ。違うわ、持ち上げるのよ」
道也には理解が出来ず、苦笑いをする。
「はぁ……良い? 溜めた力を放つんじゃなくて、溜めたままにしてバイクを持ち上げるのよ」
「まず溜めた事もないんだが」
道也の文句に対し、ニーナの目が輝く。きっとろくでもない事を言い出すに違いないと道也は思う。
「気合! 根性! 努力!で、いけるものですよ、うふふ」
「は? はぁ……?」
道也はそんな受け売りみたいな言葉を聞かされ、頭を悩ませたが試してみるかと言った風にバイクの残骸に向かう。
「あつっ……」
近づいただけで火の粉が道也の行動を遮る。道也は拳の握り、溜めるといった動作を思ったようにしてみた。
「んんんん……、えい!!」
道也はバイクの残骸に触れようと手を伸ばすが、不意に動きが止まる。これは確実に火傷する。道也の勘はそう告げていた。
道也は苦笑交じりの表情でニーナを見る。
「どうしたのですか? 道也? 早く持ち上げなさい、練習よ練習」
「やっぱり無理よ、あんなもの持ち上げられないわ」
「あれはああ見えて度胸があるから大丈夫ですよ、ねえ! 道也!」
「確かに何とか持ち上げそうなイメージは湧くけど……」
ニーナとすみれはあれこれと言っているが、道也はそのせいで後には引けなくなってしまった。ここで逃げたら男の恥。それだけは避けたい。道也は、勇気を振り絞ってバイクの残骸を掴んだ。
「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!! 手が焼けるうううううううううううううううううううううう!!!」
バイクに触れられはしたが、ものすごい熱さで道也は腕を押えながら飛び回りながら、ニーナの元に駆け寄る。
「まじで熱い!! 無理無理!!!」
「大丈夫!? 道也君!?」
「何ですか? 情けないですね、もうギブですか?」
すみれは口を押えて心配していたが、ニーナは道也の様子に呆れた様にそう言ってのけ道也は青筋を立てた。
「そんなに言うならニーナが持ち上げてみてよ!!」
「練習にならないじゃない」
道也の助けは一刀両断されるも、
「そうね、助言としては身体の中心から外側に集中させて溜めるってイメージよ」
ニーナの助言に耳を貸し、道也は拳に体の中心から力を溜めていくイメージを作る
すると、不思議なことに腕に力が溜まっていく感覚があり、自分の腕とは思えないほどだ
「なんだろ、この感覚」
「力が溜まっていってるのよ、さあ、その力を解き放たずに持ち上げなさい」
「ふんっ!!」
道也は掛け声とともに残骸に手を触れる。
「熱くない……!」
「ふふん、当たり前よ、力が皮膚全体に広がって壁の役割をしているのだから」
「すごいぞ、これ、ふん!!」
道也は感嘆しながら残骸を持ち上げるため、力を入れる。
バイクの残骸は破片を落としながら道也の手の中に収まった。
「持ち上がった!」
「それをどこか邪魔にならない所に置いておきなさい」
「す、すごい……」
すみれの感嘆の声を聞きながら道也はバイクを突き当たりの壁に置き、もう1個のデカイ残骸を持ち上げた。
「よいっしょ!!」
「すごいわね、まるで子どもにおもちゃを与えたような気分だわ」
「誰が子どもだ!」
「私にとっては子どもよ」
「え、ニーナっていくつ?」
「え? なあに? 何言ってるかわからないわ」
青筋を浮かべながら聞いてくるニーナの言葉に首を振って答えると、そそくさともう1個を持ち上げ、突き当たりに置いた。
「終わったよ」
「お疲れ様、で、さっき年齢がなんとかって……」
「さっさと滝ちゃん救いに行こう!!」
道也は何事も無かったかのように扉に触れると突然扉が吹き飛んだ。
「なんだ!? また敵か!」
「いいえ、溜めてた力が気を抜いたせいで出ていったのよ、力を溜めたら放出しないと腕が爆発するわよ」
「マジで!?」
「嘘よ」
ニーナの嘘に道也の顔は少しキレかけるが我慢した。
「でもどうする? 堂本も倒れてるし、運んで行くにも……」
「私が光吉くんの所に居るから、後で追いかけるわ」
すみれは光吉の身体を起こしながら言うと、道也は少し考え、うなづいた。
「敵が井伊さんを操ってたなら様子を見に来るか、操りに来るかもしれないのでトンネルから離れた場所で介抱してください」
「わかったわ、気をつけてね、そうだ、本家で困った事があれば米野しづるていう人が居るからその人を頼って」
米野? すみれ同じ苗字だ。道也は一応どういう関係か聞いてみた。
「どんな関係なんですか?」
「妹よ、今は本家の雑用なんかを請け負ってるわ」
「妹さん……ヤクザの本家って、何しでかしたんですか……」
道也の頭の中で、姉妹で姉はキャバ嬢、妹は本家の雑用。きっと訳があるんだろうなと勝手に妄想してしまう。
「え? いや、何もしてないわよ、私の父も蘇原木組の幹部でね? 蘇原儀組の組長さんが仲が良かったからコネで働かせてもらってるのよ」
道也は変な事を考えていた自身に苦笑いをしていると不意に袖が引っ張られた。振り返るとニーナだった。待ちくたびれたといった感じだろう。
「ほら、さっさと行くわよ」
「うん、そうだね、早く行かないと、そろそろ大吾達も付いてる頃じゃないかな?」
「どうでしょう、あなたの相棒を含め、あの三人は少々いえ、大分抜けていらっしゃるようだから」
「た、確かに追ってる途中で巻かれてたりしてるかもしれない、推の能力があるから大丈夫だとは思うが……」
道也は変な汗をかきだした。まさか先に追いかけたあいつらが先に着いて決着を付けてしまっているのも嫌だが、自分たちが追っている達史が着いて居ないとなると強いとはいえ幼女と一緒に本家にカチコミに行けなければならないハメになってしまう。
「まぁ、深く考えてもしかたないわよ、行きましょう。いざとなれば助けるのでご安心を」
「小さい女の子に救われるのはなんだか、プライドが……」
「プライド云々言っていては、助けられないわよ」
「そ、そうだね、よし、行こう」
「あ、待って!!」
道也とニーナが扉から出ようとした時、すみれさんの声で動きを止めた。
「あの、お願いがあるの」
すみれさんは少し悲しい顔をしたが、すぐさま笑顔になって言い放った。
「達史さんに会ったら伝えて?」
すみれさんの発言を聞こうと真剣な表情になる道也は、耳さえも研ぎ澄ました。
「あなたの選択した事だけを信じて……って伝えてほしいの」
道也は一言一句胸に刻んだ。この人の願いを届けなくてはと胸に誓った
「分かりました、必ずお伝えします」
「ありがとう……」
すみれの涙を堪える声が聞こえた。だが、慰めるのは自分の役割ではないと分かっている道也はニーナと共に扉に入った。
扉を出ると薄暗い場所に出た。段ボールが山積みに置いてあった。だが、中はカビ臭く、埃が宙を舞っていた。
「誰か居たようね、私たちが入る前に埃が宙に舞っていたわ、つまり誰かがここを物色してたのね」
ニーナが分析し答える。薄暗く表情は見えないがきっとこんな臭い部屋でも無表情なのだろうかと道也は思ったが確かめる術が無かったので黙って先を歩いた。
先には普通の木で出来た扉があった。
「この扉からそのヤクザの本家に行けるようね」
「俺が開けるよ」
「当り前よ」
一言多いなこいつ。道也はそう訴えようとニーナを見るが薄暗くて多分あちらにも見えていないだろう。
「そんな目で見て何かしら?」
「あ、ごめん、今、開けるからさ」
見えてた。怖いわ超女。道也はそれ以上何かアクションをするのを止め扉を開いた。
出たのは崖の上に位置した場所で噴水の付いた広い庭に、建物の奥には一面の海という豪華な洋風な屋敷が見える森の中の小さな小屋だった。
「ヤクザなのに洋館なのか……」
「そこら辺は趣味なのでしょう」
森の中から様子を見ると、やはり大きい門があり、その上に監視カメラが何台もあった。
そして極めつけは大きい木板に書かれた「蘇原儀組」という文字。
「どうやって中に入るかなって、やっぱりあいつらついてないっぽいな」
「とりあえず、中に移動するわよ」
「いやだからどうやって?」
「私をあなたが見えていなかったのはなぜだと思う?」
「姿を隠してたから……、なるほどね、俺も隠せるってわけ?」
「ええ、そのとおりよ」
ニーナが俺の手に捕まると、俺もニーナも姿が消えた。自分自身の手さえ見えない。
すると、急にニーナは道也を引っ張って森を駆け下りだした。
「危ない危ない!!!」
「ちゃんと捕まってなさい!」
木に度々ぶつかりそうになるが、なんとか避けてニーナの手を握っている道也だったが、急に体が浮きだした。ジャンプでもしたのか!? などと思いながらもうどうにでもなれ! と目を瞑った。
「あだっ!!!!」
道也は何かにぶつかった。目を開けると下半身が思いっきり門にぶつかっていた。
「俺の大事な所つぶれてないよね!?」
道也が心配になって下半身を見渡しているが透明化しているせいで見えず、ニーナの方を見ると突然腕が下がり下に引っ張られていく。
「いや!! 削れるから!! 待って待って!!」
非難の声を上げるが悲しくも下半身を削りながら道也は門の中に落下していく。
「ぐはぁあ!!」
落下した道也は背中から落ち、地面をじたばたと暴れ出した。
「いでええ!! ほんとあんたと行動してから碌な事がない!!!」
「うるさいわよ、はしゃぐのもここまでよ」
「はしゃいでないよ!! ってあれ?」
ニーナの声が聞こえると透明化が切れたのだろう自身の手が見えた道也。だが、ニーナの姿は見えない。
「あれ? ニーナ?」
「ここよ、悪いけれど、透明化のペナルティで私当分は消えたままになってしまうの、でも大丈夫よ、見えてる見えてないのしか変わらないわよ」
「そうなのか……めんどくさいね能力って」
「そうね、でも私は練習しても鍛錬を積んでもペナルティは消えないけれどあなたは乗り越えれるわ」
「そうらしいね……」
何年後になるのやらと道也は思いながら立ち上がって洋館を見つめた。
「さーてと、カチコミいきますか」
道也は勇んで足を踏みこんだ。
次の話は月曜日です。




