第十三話 首を絞めて落とすって本当ですか?
「道也君!! ねえ!! 起きて!!」
少年のようなでも高い声が道也の耳に木霊する。滝……の声じゃない……。
道也は少しづつ目を開いていく。目に映ったのは推だった。
あの少女はどこにも見当たらない。
「やっと起きた! いくら待っても階段の下に来ないから心配で見に来たら倒れてて心配したよ」
推は肩をなで下ろして優しく微笑みながらそう言うと、手を差し伸べてきた。
「ほら、立って、道也君」
「ああ……」
道也はいかにも寝起きといった様子で推の手を掴むと、勢いに任せて立ち上がった。
「どれくらい時間たった?」
「うーん、5分くらい?」
推は指を広げて答えると、心配そうな顔を見せた。
「大丈夫? 色々あったから疲れたと思うけど、これから超女との直接対決が始めるんだからしっかりしないと」
「……皐月さんは誰かに守るって約束したことありますか?」
唐突な道也の質問に推は目を細める。
「言われた事ならあるよ」
「その人は守ってくれた?」
「うん、守ってくれたよ」
推のその言葉に道也は少し顔を俯かせる。
「そっか、そいつはすごい男なんだな」
自嘲気味に道也はそう呟くと、推はニッコリした。
「少し君に似てる」
「それは嘘だよ、俺は守れてないから」
「そういう所が似てるんだよ」
「え?」
推の言葉に道也は驚かされっぱなしだ。道也は推の顔を見た。
「約束したのにできなかったとか、大切な物の為に冷静を欠いたりするところとか」
「でも、その人は守ってくれるんだろう?」
「うん、でもいつもじゃない、居てほしい時に居なかったり、たまに突き放されたり」
「それって守られてるっていうの?」
「どうなんだろ、でも、たまに変な所で来るんだよね、助けにさ」
「俺は守れてない! 昔約束したのにどんな所でも俺は何もしてない!」
道也が怒号を上げると、推は少し悲しそうな顔をしたり、嬉しそうな顔をしたり、まるで百面相だ。
推は少し間を置いて話した。
「道也くんがさ、幼馴染を守れてないとか思ったりさ、なにか後ろめたい事があってもさ、今、守りに行って守れればそれでいいと思うよ」
道也はその言葉に対し、何を思ったのだろう。黙り込むと、上の空になった。
「道也くん……ほら、行こう? 幼馴染を救いに行こう?」
そんな道也に推は優しく語りかけると、道也は少し口角を上げた。
「今、助けにいったら約束守れてなかったとしてもさ、嫌われたとしてもさ、滝ちゃんは救われるんだよね」
「うん、そうだよ、このままだと幼馴染に何が起きるか分からないからね」
それを聞いた道也は、覚悟を決めた。拳を握り、リットの待つ場所に一歩一歩確かに前進していった。
推と道也はリットの場所まで急ぎ足で戻ると、そこには大吾がリットの後部座席の扉にもたれ掛かって立っていた。
「よう、道也」
「大吾? 大丈夫なのか?」
「おう、大丈夫だぜ」
と言ってる割には、頭には痛々しく血が滲んだ包帯や、顔には絆創膏やらガーゼが貼られており、お世辞にも無事とは言えない状況だった。
『おい! 道也からなんとか言ってくれよ! 大吾の野郎、大丈夫じゃねえのに大丈夫だの一点張り出よう! 挙句の果てには外に出て待ちてえとか言い出してよ!』
リットは興奮気味にそう機械音は発され、道也は呆れ顔になりながら大吾を見た。
「大吾、安静にしてないとダメだろ、その怪我で大丈夫は通じないよ」
「うるせえ、男は気合と根性でなんとかなるもんなんだよ」
「そんなわけないよ! お兄さん無理し過ぎだから!」
道也と推の非難に大吾は煩わしそうな顔をしたが、何かを思いついたのか道也の側まで少し駆け足で向かいだした。
「おい、危ないぞ、大吾」
「大丈夫……っと!!」
道也は言わんこっちゃないと思った。途中でバランスを崩し、コケそうになったのだ。
道也は急いで、大吾の元に駆け寄ると大吾の腕を自身の肩に回し、しっかり固定した。
「足滑らせただけだからな! んなことより、さっさと救いに行こうぜ」
「救いにいったとしても、大吾は戦いに参加すんな」
道也の言葉に大吾は不満顔だ。
「んでだよ! 俺だって戦える!」
「その身体で戦えるわけないだろ! 相手は殺す事なんて簡単にやってのける連中かもしれないんだ!」
道也が声を荒らげると、大吾は珍しく押し黙り、道也を見る。
「俺は滝ちゃんを守らなきゃいけない、でもお前に死んで欲しくないんだ」
「道也……、なら俺だってお前に死んで欲しくねえさ、なんたって初めて出来た親友なんだからな」
「なら、俺を信じろ、俺だって強いんだ、今度は俺が身体張ってあげるよ」
道也は満面の笑みを浮かべ、大吾に答えると、大吾は少し口元をニヤつくとと、大吾は目を閉じた。
「んじゃあ、後部座席で寝てても文句言うなよ」
ニヤ付いたまま言う大吾に道也は苦笑いをした。
「安静にしてくれるなら何してくたってかまわないさ」
「じゃあ、俺は後部座席占領させてもらうからな」
大吾は道也の肩を叩くと、後部座席に入ろうとして、動きを止めた。
「そういえば、前の方に誰か居たのか? 俺、多分、そいつが扉を閉めた音のせいで起きちまったんだ」
「え!?」
滝が急いで、運転席を見るともぬけの殻になっていた。
「前の人どうしたの!?」
『お? なんか起き上がってすぐに出て行っちまったぜ?』
「なんで止めなかったの!?」
『いや、声かけようとしたけど、切羽詰まった様子でどっか行くからよ』
リットの説明を聞いた推は困ったような顔をしてた。
「まずい、こっちの戦力を超女側に伝えられちゃう」
「今から追いかければ間に合うんじゃないですか? 相手は手負いですし?」
「そうだね、リット、私がこの運転席に残ってるあの男の匂いから探知するから全速力で追いかけて?」
『了解だぜえ!!』
リットは推の案内に従い、スピードを出しながらビルを後にした。
その際、大吾は宣言通り、後部座席で爆睡をこき始めたが、道也たちは承諾した以上何も言わなかった。
しばらく走らせていると、歓楽街にまで戻ってしまった。
「この街の店のどこかにでも隠れられてたら見つけるのは難しいな……」
道也が悩む素振りを見せて呟くと、推は一旦リットから降りて回りを見渡した。
「匂いが多かったら流石の嗅覚でも紛らわされちゃうんじゃないですか?」
「ううん、大丈夫、そのためのハンカチだから、このハンカチは拭った物の匂いを保存してくれて、これを嗅げば混ざってわからないってことは絶対無いから」
推の説明に道也はなるほどと関心を示していると、推は見渡すのをやめ、ある一点に視線を集中させた。
「あそこの通りの右に曲がった路地から匂いがするよ!」
推の指す方向にはキャバクラがあり、その横の路地裏に居るという。道也と推は、人込みをかき分けながら路地裏に入っていく。
少し広めの路地裏で、店の裏口から出ていくための物だろう。
「達史さん!!」
その路地裏で、達史を見つけた。キラキラのドレスを着て髪も派手な綺麗な女性と居り、この恰好と店の裏口の扉が開いてることから、ここのキャバクラのキャバ嬢だろう。
達史は何やら鍵を受け取っている様だった。
「悪いが、後は任せた」
達史は道也たちを見て驚く様子もなかったが、キャバ嬢の肩を軽く叩くと足を引きずりながら路地から出ようと道也たちとは反対の出口に向かっていった。
「待って! 達史さん!」
道也が静止の声を上げるが、達史は聞く耳持たずと言った風についに路地裏を進んでいった。
「追いかけるよ! 道也君!」
推の言葉に反応して、道也が勢いよく駆けだそうとした瞬間、視界が黒く染まり何かにぶつかった。道也は反動で尻もちを着いたが、すぐさま体制を整えた。
顔を上げて確認するとそこには黒スーツを着た男が二人、立っていた。裏口の扉の中には先ほど達史に鍵を渡したキャバ嬢がこちらを見据えていた。
「悪いけど、達さんに頼まれたから仕方ないの。にしてもかわいい顔の子ども達ね、あなたたち、手加減してあげなさいよ」
「「うっす!」」
黒いスーツの男たちは、威圧を掛けるように道也を睨みつけ、一人が前に出るが、達史に比べれば全然怖くなく、道也は拳を構えた。
「ここで止まってるわけにはいかないんだよ、もう前みたいに自分の為じゃなく、滝ちゃんのためにふるうこの拳は止められないよ!!」
道也は軽やかなステップで、相手に拳を浴びせれる間合いに飛び込むと、右ストレートを黒スーツの男の顔面がある斜め上に放った。
「うっ!? 早い!?」
黒スーツの男の一人が油断していたんだろう、右ストレートを受け止めるモーションを作れず、咄嗟に防ごうと、両腕の前腕でガードの体制を取ったが、道也の右ストレートはガードをしていた男の腕をこじ開け、相手の顔面真正面に拳を浴びせた。
「がぁぁ!?」
黒スーツの男は後ろにすっ飛んでいき、後ろの残った男が思わず回避すると、路上に沈んだ。
「え!? どんだけ手加減してんのよ! あんたたち!」
キャバ嬢は目の前の光景を信じられず、叫んで非難すると残った男は頭を掻きながら笑う。
「いやいや、このバカめ、ガキに油断しすぎだ! おい、坊主! 悪いが俺はこんな風には……んん!?」
残った男の言葉が止まり、男は代わりに息苦しそうな声を上げた。
「急いでるんだよね、私たち。だから不意打ち卑怯とか言わないでね?」
男の苦しみの原因は推だった。推は男の首を細い足を絡め、どこからそんな力が湧いているのかは知らないが男の苦しみ方からして相当な物なのだろう力で男の首を絞めていた。
見ていた道也は首を抑えて息をのんだ。
「うっ! ぐう……」
遂に男は落ち、その場に倒れこみ、推は器用に首元から地面に着地した。
「殺したの……?」
「私のか弱い足で男一人殺せるわけないじゃん!」
「いや、意識を奪ってる時点で相当ゴリ……」
「え? なんか言った?」
「なんでもないです」
道也は言おうとした事を我慢すると、キャバ嬢の方を見た。
キャバ嬢は逃げようと、店の中に入ろうとしたが、推の素早い動きで服を引っ張られ、路上に倒れこんでしまう。推はすぐさま倒れたキャバ嬢にマウントを取る。
「さっさの達史って人の組っていう所が最近何をしているのか教えて?」
「さ、さぁ? 知らないわ」
「言わないと、そこの男たちみたいに気絶させなきゃいけないんだけど良い?」
「甘いわ、私たちの世界じゃあこの状況、指を取られたってしょうがないのに気絶させるなんて脅しにも入らないわよ、それに私はキャバ嬢、組のそれこそ達史さんを癒してあげれても、組が何もしているかなんて知ってるわけないじゃない」
キャバ嬢は強い意志を持った目で推を睨んだ。プライドがあるのだろう。
「これ以上、ここに居たらほかにも来ちまう、達史さんを追って捕まえて聞こう」
「そうだね、じゃあ、ここを離れ……!?」
すると、ゴミ箱が曲線を描きながら推の身体に降ってきた。推は寸での所で避けると周りを見渡した。すると、道也たちが入ってきた場所に一人大男が立っていた。
「やいやい!! 道也! てめえ! 姐さんから離れな!!」
道也を知っている。道也もその場を見ると、そこには顔に包帯を巻いた男が立っていた。
「あ! 堂本君!?」
その男は、夕方に道也に負かされた光吉だった。
サブタイは適当じゃないです!断じて!!
続きは明日火曜です!




