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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
14/27

第十二話 過去の自分は最低ですか?

投稿時間が安定しなくなってきました……

 道也が目を覚ますと、そこは昔通っていた幼稚園のとある組のガラス扉の前だった。


 (どうして俺はここに)


 不思議な事に声を出したと思ったら、声が出なかった。他にも、道也は背が低いとはいえ、幼稚園の屋根が遠く感じるなどおかしい。道也は観察するように周りを見ようとしたが動かない。まるで金縛りだ。

 道也は周囲を見る事を諦め、ガラス扉を見ると愕然とした。映っていたのは小さい時の自分だったのだ。


 (これ、身体が子どもの時になってる!?)


 道也が驚いていると、突然、動いてもないのに体が勝手に歩き出したのだ。


 (勝手に身体が動く……)


 身体は幼稚園の中へと吸い込まれていく。そして、入ると同時に一斉に声が飛んできた。


 「乱暴者の道也だ!」


 「せい君にいっぱいケガさせていけないんだ!!」


 「帰れ! 帰れ!」


 全てが罵倒だった。道也はデジャブを覚えた。


 (あれ、これなんか知ってるぞ……)


 そうだ。これはガキ大将に勝った次の日だ。


 「ほら、みんな! 道也君が言いたいことがあるそうよ!」


 後ろから女性の声が響く。道也の首が上を見上げた。

 

 (仙見先生だ……)


 道也はなつかしさに襲われ、仙見先生と呼ばれる長い黒髪を持つ美人な先生の顔をマジマジと見てしまう。


 「そんなやつ入れたら僕たちまでぶたれるから入れないで! 先生!」


 子どもたちの声は確実に心に突き刺さっているのだろう。道也の身体は震えた。

 だが、泣きはしなかった。道也の心には自尊心やプライドがメキメキと急成長していたからだ。


 (昔こんな事あったな、そういえば、強さに浮かれてた半面、いざ、こういう事言われると辛かったなぁ)


 道也は目の前の光景に少し悲しみを覚えたが、この時の道也は強がっていたのだろう。

 目の筋肉が動くのを感じ、これは睨んでるなと道也は思った。

 その証拠に目の前の子どもたちは黙り込んでしまう。

 

 「こらっ! 睨まない! 先生と一緒に言おう? ね?」


 何を言うのかは見ている道也はわからなかったが、子どもの頃の道也は素直に頷いた。次第に目の筋肉が落ちていった。

 仙見先生は、子どもたちの前に子どもの頃の道也の背中を押すように、でも優しくたたいた。


 「み、みんな、昨日は暴れてごめんなさい」


 「先生からもごめんなさい、先生がちゃんと見てなかったから悪いの。だからみんな昨日の事は許してあげて?」


 先生と道也は頭を下げて謝ると子どもたちはおとなしくなった。そして、先生が顔を上げようとしたその時。


 「先生はどうしてそいつの味方をするの!? 俺をこんな顔にしたそいつを!」


 組の教室に声が響いた。声の主は顔にでっかい絆創膏を張ったガキ大将---成だ。


 「成くん! 最初はあなたから手を出したと聞いています! なのに自分だけがと思うのはやめなさい!」


 仙見先生は庇うようにそう言うが、成の言葉は止まらない。


 「先生は道也の事が好きなのか! だからそうやって庇うんだろ!!」


 所沢の言葉に仙見先生は、怒らずはっきりと伝える。


 「私は、道也君だけじゃなく、成君もこの幼稚園に通ってるみんなが好きよ? だから喧嘩もしてほしくないし、この事もみんなで許しあいたいの、昨日、充分道也君はお父さんとお母さんと一緒に謝ったでしょ? だから今度は成君には道也君を許してあげてほしいの」


 「やだやだ! あんな痛い思いさせた道也は絶対に許さない!!」


 成は強情に首を横に振って答える。仙見先生も困り顔になっていき、言葉が詰まってしまう。


 (仙見先生、このころから迷惑かけまくったな……)


 道也の事を庇ってくれたのはこの先生だけだった。

だからこそ、成の態度に腹が立ち、成に勢いよく走り詰めると、小さい頃の道也は成に飛びかかった。


 「うわ! 何すんだよ!!」


 道也は拳を振り上げ、成の胸を殴った。


 「いてえ! いてえよ!!」


 成はされるがままに殴られていた。

 道也は自分の拳を自分で痛くなるまで振るった。


 「先生が謝ってるんだから許してよ!!」


 (今、思うとぶっ飛んでんな、この発言……)


 道也は幼い頃の自分に苦笑するが、不意に腕が掴まれ、視点が上を向いた。


 「こら! やめなさい!!」


 仙見先生だ。

 そして、仙見先生のビンタが道也の頬にあたった。


 「どうして……?」


 幼い頃の道也は悲しい声を上げ、腕を振りほどくと泣き出しそうになりながら、仙見先生を睨んだ。


 「先生もいじめっ子の味方なんだ!! みんな大嫌い!!」


 「道也くん!!」


 仙見先生の静止を聞かず、道也は組の扉を思いっきり開け放つと、遊び場に逃げていった。


 (今のは俺も悪いぞ……俺……)


 昔の自分の醜態を見て、道也は恥ずかしくなってくるが、昔の道也はお構い無しに、ジャングルジムに登り、拗ねだした。


 「みんな嫌いだ……」


 (俺、大吾と出会う前はこんなことずっと思ってたな……滝ちゃんにはどう接してったけかな)


 道也は考えた。よくよく考えたら滝の事を否定したのは巻き込まないためと言ったのは方便だったと分かる。

 この頃から、道也自身、人が怖く、脅したり、怒る者全てが敵に見えたのだ。


 「こら! 道也! そんな所で何してるの!」


 ジャングルジムの下から声が聞こえた。

 見慣れた幼馴染み。昔の滝ちゃんだ。

 

 「滝ちゃんには関係ないだろ!」


 「関係なくないよ! 今は私の組が遊ぶ番なのに!」


 滝がほっぺを膨らましながら怒ると、道也もムスッとしてしまう。


 「後で全体で遊ぶんだから、その時は一緒に遊んであげるから! 今は我慢して自分の組に帰りなさい!」


 「やだ!! 自分の組には帰りたくない!」


 「わがまま言わないの!」


 滝と道也はジャングルジムから言い合いをし、滝のクラスの子達が、野次馬となって見に来ていた。


 「道也くん! 降りてお話しましょ?」


 仙見先生がやってきた。酷く焦った顔をしていた。

 今の道也には本気で心配してくれてたんだなと分かったが、昔の道也は先生の顔見ると、顔を背けて、見ない振りをしてしまう。


 (いくら自分がした事とはいえ、なかなかに腹立つな)


 流石にわがまますぎるだろう。昔の自分はこんなだったか?と道也は疑問に襲われた。


 「先生がぶって悪かったわ、先生謝るから、降りてきなさい」


 先生は優しく諭すようにそう言うと、子どもの頃の道也は流石に心に来たのだろう。少し顔を先生に向けた。


 「先生は謝らなくていい、でもクラスには帰らない。もう家に帰りたい」


 子どもの頃の道也は酷く悲しそうな声を出して訴えると、先生は分かったわと承諾してくれた。


 「分かったよ、降りるよ、先生」


 道也は素直にそう頷くと、すぐさまジャングルジムから降りた。


 「ごめんね? 道也くん」


 「大丈夫、ごめんなさい、先生」


 道也も謝り返すと、先生は道也の頭を撫で、抱っこをしてくれた。

 幼い頃の道也は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてしまう。


 「もう子どもじゃないよ!!」


 「あら、先生にとっては子どもよ?」


 先生は優しく微笑むと、職員室に入れてくれた。


 「今、お母さんに電話かけるから待ってて?」


 道也を降ろし、そう言う仙見先生は、すぐさま受話器を持ち上げた。


 「もしもし、種草幼稚園の者なのですが……」


 電話が掛かったのだろう。仙見先生はゆっくりと冷静に話始めた。

 程なくして、母が迎えに来た。


 (この頃の母さんと今の母さんまったく変わんないな)


 道也の母はとても綺麗で、父が小動物系で可愛いと惚気くらいにとても人懐っこい性格の母だった。


 「すいません、うちの道也が……」


 「いえ、昨日の件も私達職員の監視不足もありますので……」


 仙見先生は責めはせずに、ゆっくりと大丈夫ですとだけ伝えた。


 「ごめんなさい、お母さん……」


 道也は母に頭を下げて謝ると、母は先生同様に頭を撫でた。


 「では、私達はこれで」


 「さようなら、先生」


 「うん、さようなら、道也くん」


 母と道也は、仙見先生にさようならを伝えると道也と母は、車で家に向かっていった


 「あのね、お母さん、今回は本当に僕が悪くて……」


 職員室で今回は自分が悪かったと子ども心に少し後悔した道也は、懺悔をするように母に謝る。

 母は助手席に座る道也ににっこり笑いかけると、片手でハンドルを握りながら頭を撫でる。


 「大丈夫、母さん、道也の事、叱れるような立場じゃないの、だから母さんが悪いと言えば悪いわ、だからあなたは悪くないわ、だから大丈夫」


 母は穏やかにそう言って頭を撫で続ける。今の道也でさえ、何のことか分からないけど、今は母さんの手がとても心地よかった。


 (母さんに撫でられたの何年ぶりだろう……)


 道也と幼い頃の道也は母の手に誘われ、眠りについてしまった。


 「おやすみ、道也…ほんとにごめんね」


 母の言葉の意味を道也は未だに理解出来ずに意識を手放した。


 次の日、何とか幼稚園に来た道也はあるものを見てしまう。

 幼稚園で滝がいじめられていたのだ。

 数人の女子と男子に囲まれ、水を掛けられ、服が泥だらけになっていた。

 道也は吠え、いじめっ子の男達を殴り飛ばした。いじめっ子の女の子達はその光景を見て散り散りに居なくなっていた。


 「滝ちゃん、何があったの?」


 「ううん、ただ、遊びがみんなヒートアップしちゃっただけよ」


 道也はそんな事を言う滝を睨んた。

 道也は幼いながらに理解出来た。

 俺のせいで、いじめられていたのだ。

 

 「滝ちゃんは俺が守るから」


 幼い道也は出来もしない約束をしてしまった。だが、今の道也には分かった。この言葉を俺は本気で言っていたのだ。


 (馬鹿野郎。そんな簡単なこと口にしてんじゃねえ……)


 反面、滝は嬉しそうににっこり笑う。


 「うん!! 嬉しい!!」


 幼い滝の顔はとても可愛かった。成長した後も可愛いのだ。昔も可愛いに決まってるかと、道也は後悔しながらその無邪気な笑顔を凝視した。


 それから、道也はますます滝と一緒に居るようになり、いじめはエスカレートしていった。

 先生も気づいた時には注意してくれたが、先生が居ないのを見図られ、軽いヤジなど飛ばされた。


 「あ、夫婦だ! お似合いだぞ!」


 「うるさい!!」

 

 道也は冷やかしてきた男子の腹に蹴りを食らわせる。男子は泣きながら膝を着いてしまう。


 「滝ちゃん、大丈夫?」


 「……うん!」


 この頃から滝ちゃんは、元気が無くなり、反対に道也は元気になっていた。

 突然目覚めた戦える力を振るいたかった道也にとって守るという大義名分が出来たからだ。道也は幼い頃の自分を見ているとそうに違いないと断言出来るようになってしまった。


 (俺てあの女の子の言った通り、最低だな……)


 自分で自分に唾を吐き捨てたい気分になるも、きちんと目を背けずに結末を見届けようと思った。


 ある日、滝は道也に俯きながら言った。


 「あのね、道也、こんなのやめてみんなに謝ろう? で、昔みたいに遊ぼう? それに私達結婚するとも言ったし、夫婦て言われても気になんないよ?」


 滝は夫婦の下りで照れくさそうにそう言うが、幼い道也は、思い出していた。


 「謝ったってあいつら許してくれない……」


 「道也……でも、ちゃんと謝れば!」


 「もういい!!」


 「そう言わないで!昔のように遊びたいの!!」


 道也はその時、何かが切れた……。


 「女となんかもう遊んばないよ。僕はもう強いんだから」


 「え、でも結婚するんだよね? 私たち」


 「しないよ? 僕、もう滝ちゃんとは結婚しない」


 「だって、もういじめられたくないんだ、あいつらに謝りたくない、俺は強いんだ」


 滝は泣き出した。あの強い滝が泣き出した。


 (馬鹿野郎!!! 守るんじゃねえのかよ!!俺の嘘吐きやろう!!)


 道也は言葉に出せずに叫んだ。自分を糾弾したのだ。

 昔こんな仕打ちをしたのを棚に上げて、滝にあんな絡みをした自分が許せない。


 道也は心の中で泣いた。






一三話は月曜になります!!

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