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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
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第十一話 臆病者ってなんですか?

 幸いリットの中に医療箱などがあり、リットが治療できるということなので、大吾を一度リットの中で寝かせておくことにした道也たちは、階段を降りていた。


 「大吾重すぎ……皐月さん大丈夫? 沈んでない?」


 「だ、大丈夫……」


 道也と推はそれぞれ大吾の肩を持つとあまりの重さに推は足が震えだしていた。

 だが、なんとか耐えながら下に降りると、大吾が突き落とした達史が階段から投げ出され、倒れていた。


 「達史さん……生きてる? 皐月さん、大吾は任せて、少し診てくれない?」


 「わかったよ」


 推は大吾の腕を退けると、達史の胸に耳を当てた。


 「心臓は動いてるから生きてるよ、敵だから助ける義理はないけど……」


 「いや、大吾を運び終わったら達史さんも治療しよう」


 推の提案に首を振り、助ける事を提案した道也に推は少し不満気だった。


 「お兄さんをこんなにした人を助けるの?」


 「この人はたぶん、悪い人じゃないよ、多分手加減してくれたのも本当だよ、本気だったらこういう職業の人たちにかかれば、今頃大吾は殴り殺されてるよ」


 「……わかった」


 推は納得はしていたが、やはり不満気に呟くと大吾の肩を持ち直して、リットを目指した。


 少し離れた場所に置いていたせいで少し手間がかかったが、リットの前にたどり着いた。


 「ふう、やっと着いた」


 『おいおい! 大吾! 大丈夫かよ! 今、治療してやるからな!!』


 リットの後部座席に大吾を丁寧に寝かせると、後部座席の下から五本指の機械のアームが二本現れ、一つのアームには救急箱が握られていた。


 「すごいね、リットが居れば無敵じゃないか?」


 「リットは元々最先端軍用車だからね、空も飛ぶし、治療も出来る、リット本人も言ってたけど九魔島は超能力で色々作れるんだよ」


 『褒めんなよ! 推!! 照れんだろうがよ!!』


 リットは推に褒められ、上機嫌な機械音を出す。


 「あと一人居るから待ってて? リット」


 『お? まぁ、良いけどよ!』


 推と道也は達史の元に行くと、大吾同様に肩を持った。


 「大吾よりは軽いな」


 「でも、お兄さんより筋肉質で身体が固いや」


 推と大吾はそれぞれ感想を言い合いながら、リットに戻る。


 『そいつだな? そいつは前の座席においてくれや!!』


 言われた通り、運転席と助手席の方に達史を寝かせると、後部座席同様に、アームが二本伸びでて、看病を始めた。


 「さて、二人は任せたよリット」


 「ありがとうな、リット」


 『困ったときはお互いさまってな!!』


 リットに二人に任せ、推と道也はビルの二階に戻っていった。



 「あの中に滝が……」


リットから移動し、通路に戻った道也が問題の扉をマジマジと見る。あの中に滝が居る。見捨てた罪を償える。そう思え、道也は急いで扉に向かっていった。


「急がないで、道也くん、最初は私が調べるから」


不意に推に止められ、道也は推に任せたという素振りをすると、推は扉を見つめ、匂いを嗅いだ。


「うん、罠はないし、中に超能力の気が2人」


「行こう、皐月さん」


危険確認が終わり、扉のドアノブに手をかける道也。開けっ放しだったのか、簡単にドアは開いた。

道也と推は黙り込み、玄関の通路を抜けた。


「滝ちゃん!! 迎えに来た…よ…?」


道也は通路を抜けると同時に感極まって叫んだが、そこには滝は居なかった。

だが、代わりにグレーのコートを身にまとった2人の男女が居た。


「陸聖先輩に落音先輩……?」


先輩というのは、戦いの最中、行方不明になった人達の事だろう。

でもなんでここに……? 道也は疑問に思うが、相手の出方を見るためあえて黙った。


「推、無事だったか?」


「はい、陸聖先輩こそ……」


男ーーー陸聖という男の方が、優しい笑顔で推に問いかけると、推も感極まったのか、笑顔で頷く。

陸聖は長髪気味で、外見から優男といった感じだが、背中にあるバスターソードがひ弱さを隠している。


「あはは! 強くなったな! お前は見込みがあるとずっと思ってたよ」


「あなたにずっと憧れてました……落音先輩……」


女は豪快に笑いながら同じく優しく微笑む。

褐色の肌が目立つその女性はいかにも軍人といった感じだ。


だが、どうして突然、現れたのか、ここには残党と滝が居るはずだ。

達史が嘘をついてるとも思えない。

滝の部屋でもそうだ、少し離れてる間に滝は居なくなっていた。


「感動の再会のとこ、悪いけどあなたたち2人はここに居た残党と女の子を知らないかな?」


道也が2人にそう尋ねるが、2人は道也の方を向かず、ずっと推の方を向いていた。

推も感動して、周りが目に入っていないのだろう。道也の問いかけを聞き直してはくれない。


「なあ、無視しないでく……れ……?」


道也は我慢出来ずに落音の肩に触れた。すると突然、落音の肩が崩れ、腕が落ちていったのだ。

道也は目を見開き、感動していた推もその光景に唖然としていた。


「道也くん!? 何したの!?」


「俺はただ触れただけだよ!」


道也は弁明しながら、腕が崩れ落ちた落音の腕があった場所に注目した。

なんと、そこかは流れているのは血なんかではなく、木のクズだ。

そして、落音はついに身体全体が崩壊し、木のクズとなったのだ。

同様に陸聖に触れても結果は同様に、木くずとなって消え去ってしまった。


「な!? こいつら人間じゃない!?」


「やられた……これ、木人形だ……」


「木人形?」


「残党の1人の正体がやっと分かったよ」


残党の1人、きっと滝を連れ去ったやつだろう。道也は滝の言葉を待った。


「残党の中に元々木彫り職人の女性が居てね。木を媒体として使った転移や木人形を扱って戦う人だったの、まさか一度戦った先輩たちの木人形をもう作ってるとは思わなかったけど……」


「元々って、ていうかその口ぶりまるで知り合いみたいだね?」


道也の問いに少し間を置くと、滝は答えた。


「超女の残党の中には、超女が作った超能力者と元々九魔島を繁栄させてきた能力者も存在するの」


 「え、つまり裏切ったってこと?」

 

 「全員が裏切りってわけじゃないよ、今の体制に不満がある人だって加入したりするから」


 「難しいんだな」

 

 「うん、木彫り職人の人には五年前の戦争では私達も苦しめられたよ」


 苦々しい表情で笑う推は、ハンカチを取り出し、木くずを撫でた。


 「これで、また追えるけど、イタチごっこにならないようにしないと……」


 「何か弱点とかないの?」


 道也の問いに、少し悩む推は顔を上げて答えた。


 「戦争のときは、媒体の木が不足して負けたけど、正直、あまり参考にはならないかも」


 「どうして? ストック不足を狙えば勝てるんじゃ……?」


 「戦争は時期が長かったの、彼女は単騎でタウン島ていうばショッピングや娯楽の街で警官隊と12時間戦っていたらしくて、正直警官隊の人海戦術が無ければ負けてたと思う」


 道也は頭を悩ませた。そこまでのやつが相手で、推の話を聞いても勝ち目が無いのだ。


 「どうする? 助けに行くのやめる? 道也君?」


 推は道也の感情を表情で読んだのだろう。道也の顔を覗き込み聞いてくる。

 だが、道也は少し間を置いて、答える。


 「いや、行くよ」


 道也の言葉に少し訝し気な顔を見せた推は、すぐににっこりと表情を変え、ハンカチの匂いを嗅いだ。


 「じゃあ行こうか、道也君」


 場所が分かったのだろう。推は部屋にもう未練が無いかのようにそそくさと部屋から退出した。

 道也も後を追って行こうとしたその時、部屋の隅に似つかわしくないものを見つけた。


 「女の子……?」


 部屋の隅に小さい女の子が体育座りをしてこちらをじっと見ていたのだ。

 

 「ごきげんよう、微力のお兄さん、もう見てられないから、我慢が出来なくなったわ」


 少女は綺麗な黒いワンピースのスカート部分を抑えながら立ち上がると、道也に挨拶をした。


 「微力のお兄さんって何のこと……?」

 「あなたの事よ、微力な超能力しかないお兄さん、そしてそれを自覚してるのに目を逸らしている」


 「俺の超能力が微力……? お嬢ちゃん、もしかして、滝の言っていた……」


 道也はこの少女を聞き及んでいた。滝の話通りなら飴を渡したのはこの少女だ。


 「なぁ、どうして滝に飴を渡したの?」


 「話も逸らすの? あなたは臆病ね」


 「俺が臆病……?」


 「そうよ、あなたは親友がやられているところを見るたびに思っていたはずよ」


 少女は一拍置いて、言い放つ。


 「俺の超能力で倒せるとは思えないってね?」


 道也は胸を締め付けられるような思いになった。

 大吾が警官に捕まった時、大吾が達史と戦って倒れた時、道也は睨むだけで行動を起こせなかった。

 なぜなら……。


 「なぜなら、あなたは木彫りの猿の置物と対峙した時に、心を挫かれたのよ。でも、これまではカラ元気でやってきた。だって自分のほかに戦おうとしてくれる人が居るんだもの。戦おうと思う事自体に恐怖を覚えてしまったのよ」


 「……!?」


 心が読まれた。そうだ。少女の言う事は当たっていた。道也は戦うのを避けてきた。怖かったからだ。自身にもあるという超能力を相手も持っており、それを出されたり、圧倒的な力に心を挫かれるが怖かったからだ。


 「あなたは幼稚園の頃と同じ、臆病者よ」


 「う、うるさい!! 俺は滝ちゃんを助けるんだ!!」


 「そう言うのは楽でしょうね! あなたはそうやって目標を言っているだけ! どうしてさっき、超女の残党の一人の話を聞いてすぐ諦めたの!」


 少女はこれまでとは違う怒気を含めた声で道也を叱咤していく。道也は頭を抱えた。


 「違う! 俺は本当に助けようと思ってる!!」


 「嘘よ! 昔と同じよ! 喧嘩に巻き込みたくないから彼女を否定したんじゃない! あなたはただ己の力に酔いたかったから!! 今回もそう! ただ、喧嘩をやめるために喧嘩と無縁の滝と関係を修復させてまともになろうとしただけ!! 滝が可哀想……あなたは身勝手なガキ大将と同じよ! あなたは逃げた自分が責められるのが怖いだけ!!」


 「あ、あ、あ、あああああああああああああ!!!!!」


 滝を否定した。あの頃、ガキ大将に勝った後、滝を否定した。なぜなら、その後、悪評判を滝にも向かないよう、滝を否定した。


 「滝の傍に居たら、いつまでも俺は泣き虫のままだった。だから、俺は……」


 「捨てた。大事なものを邪魔だと判定し、捨てたのよ、身勝手な理由の為にね」


 道也は頭を抱え、涙を流し、その場に崩れ落ちた。


 「あなたに夢を見せてあげる。あなたはそこで再確認するべきよ、まもりたいものを……」


 道也は意識を投げ出していた。黒く暗い世界が目の前に広がった

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