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この不良、超能力は「肉体」のみ  作者: 創場
1章 その不良、超能力に出会う
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第十話 ヤクザさんと戦うなんて正気ですか?

 道也、大吾、推の一行はリットを適当な地に下すと、推の指示に従って移動を始めた。

 繁華街から少し離れた道路を突き進み、にぎやかさが段々無くなっていく少し横に広い二階建てのビルが見えた。


 『じゃあ、俺はそこらへん見張っとくからよ!! いってこい!!』


 リットを少し離れたところに置くと、道也たちはビルの前まで移動した。


 「ここっぽい?」


 推は少し首を傾げながら見上げた。下はフロント募集となっており、上の階は「堂本金融」と書いてある看板が掲げられていた。


 「ここって金融会社……闇金じゃねえか!!」


 大吾が驚いて声を上げるが、推はそそくさと上に通じる階段を見つけ、登ろうとしていた。


 「ちょっと待ってよ! ほんとにここ? 正直、この世で一番怖いのが分かりやすい人種の巣窟なんですけど……」


 「うん、ここから匂いがするよ? 早くいこ?」


 平然と言ってのける推に道也は愕然とした。正直、人生で関わり合いになったとしても大人になった時であろうと思っていた道也は、入るのをためらう。大吾も珍しくビビっており、階段の前で立ち尽くしてしまう。


 「もう! 男の子なんだから! 自信もって! ほら!」


 「自信がどうのの話じゃねえよ! お前、ヤクザって知ってっか?」


 「……? こっちの文化?」


 九魔島にはヤクザというものは居ないらしい。推は何のことかまったくといった顔だ。


 「あのな、この本島には、ヤクザっていうそりゃもう怖いやつらが居るんだ。しかもこの地域には蘇原儀組ていうヤクザの本家があってよ、そこの堂本どうもと 達史たちふみとかいうヤクザが居てバリバリの昔気質の武力派って話だ」


 堂本という苗字に道也の頭にモヤモヤが生まれる。どこかで聞いた苗字だ。しかも最近。


 「へぇ、本島にもそういう強い人居るんだね?」


 「皐月さんの本島知識はどれくらいなんだ……」


 道也が思わず疑問を声に出すと、推は少し首を傾げるもすぐに戻し、胸を張って答える。


 「とりあえず常識的な物はわかるよ! ただ固有名詞とかで知らないのもあるかな? あ、もしかしてヤクザって裁判官のこと? 一番怖い物!」


 「いやまぁ、ある意味怖いけどよ……怖さのベクトルが逆じゃねえか?」


 「九魔島の裁判官さんは怖いよー、街でガン付けられたらすっごいビビるもん、あ、でもいい人だよ!」


 「ガン付ける裁判官って何……」


 道也は少し思い浮かべてみるが思いつかない。眼力が強いという事だろうか? 

 想像力を総動員してもなぜかしっくりせずにもどかしくなっていく。


 「じゃあ、道也くんとお兄さんはそこで待っててよ。私、行ってくるから」


 「え!? 一人でか?」


 「うん、私は怖くないし!」


 推は怖がることをそこまでしないということは分かっていたが、その体の小ささとは裏腹に心は強いらしい。


 「女性が行くのに俺たちが行かないわけにはいかないよね?」


 「そうだよなー、しゃぁねえ、行くか!」


 大吾と道也も推の勇気に釣られて階段を上っていく。

 ビルの内階段を上ると、一直線の通路があり、手前に半円のスペースが見え、道也たちは急いでそこに身を隠した。

 目を凝らして様子を伺うと、一番奥に事務所の入り口のようなものが見え、同時に通路の壁に寄りかかって電話を持った男が居た。黒いコートを着用し、鼻に一文字の目立つ傷が痛々しく残っており、さらに眼光が鋭い男だった。身長は大吾より少し低いが、身長差が気にならないほどの威圧感を漂わしていた。幸い道也たちにはまだ気づいていないらしい。


 「どうする? 多分ヤクザの一人だな」


 道也が小声で囁くと、推はマジマジとヤクザを見た。


 「あ、やっぱり裁判官さんの事だったのね」


 「は!? だからどんな裁判官だっての! あれは逆に悪いことを率先してやる奴らだから! 裁く方が裁判官な!」


 「でもうちの島の裁判官さんも顔に傷があって眼光が鋭いよ?」


 「逆に法廷を見てみてえよ!」


 「おい、大吾、皐月さん、声がでかい」


 推と大吾はヒートアップしていた口を押えたが、遅かったらしい、ヤクザの男はこちらを見ていた。


 「あぁ、じゃあ、身体に気をつけてさっさと寝ろよ、迎えは要らねえからな、卒業式はちゃんと出ろよ、あぁ、あぁ、わかってる、あぁ、おやすみ、光吉……」


 「光吉!?」


 道也は、電話の内容を聞き、驚いた。ここが堂本金融であの男が光吉と親しみを込めて呼ぶということはあいつが堂本の兄貴。堂本 達史だ。


 「出てこい、てめえら、何の用だ」

 

 道也があれこれと考えていると、ヤクザの男は電話を切り、明確な敵意を持ってこちらを見据えた。

 道也たちは観念し、狭い通路に三人は姿を現した。

 

 「あ、あの俺たち」


 「超女の残党が居るでしょ! さっさと出した方が良いよ! 裁判官さん!」


 道也が何かを言いかけたが遮って推が怒鳴る。そして相変わらずあれを裁判官だと思ってるらしい。


 「推! あれが堂本達史だ!」


 「何!? どうしてわかったんだ道也!?」


 先に驚いたのは大吾だった。気づいてなかったらしい。


 「ここが堂本金融、さっきの会話してたのは堂本君だと思う。光吉って呼んでたし、つまり、あの人は堂本が言ってた極道の兄貴、堂本達史ってわけだよ」


 「なるほどな、納得だ」


 「あの人がお兄さんたちが言う怖い人ね」


 道也の説明に合点がいったのか、大吾は徐々に睨みを効かせていった。推も先ほどの説明を聞いた上だろう、身構える。


 「お前ら、光吉の知り合いか?」


 「一応、同級生ですが、なら、やっぱり、あなたが堂島達史さん」


 堂本---達史は、コートの胸ポケットから白い用紙を取り出すと、人差し指と中指で挟み、水平に軽く投げた。

 白い用紙は、道也たちの足元に落ちる。ちょうど大吾が近い位置に居たため、大吾に取るよう道也が促すと、大吾は特に迷いもなく拾い上げた。


 「堂本金融……堂本達史……本物だぜ」


 渡されたのは名刺らしい。堂本はマジマジと見ると、目線だけを達史に向けた。


 「こいつは受け取っとくぜ、達史さんよ、でだ、聞きてえことがあるんだ、超女の残党と女の子一人はここに居るか?」


 大吾にしては的確な質問だった。達史は少し考える素振りを見せると、すぐさま答えた。


 「光吉の同級生なら情報代はサービスだ。確かにこの中に超女がどうとかいう変人女と、女の子が居る」


 「!? 滝ちゃんを返してくれ!!」


 道也は居るという確認を取れた瞬間、声を荒げた。だが、達史は動じずに道也を見据えた。


 「悪いが、変人女を匿うのが俺の今の仕事で、あの女が連れてきた女の子を勝手に連れ出すのは無理だ」


 淡々と言ってのける達史を道也は睨みつける。


 「滝ちゃんは攫われたんだ! なぁ! 滝ちゃんは何も悪いことしてないんだ! 俺の事はどうなってもいい! 返してくれ!!」


 道也は必死になって懇願するが、達史の表情は変わらない。すると、傍に居た大吾が突然道也の肩を持って後ろに退きだした。

 退かれた道也は、大吾の背後に回されると大吾の肩を掴み、揺さぶった。


 「おい! 大吾! まだ話が終わってねえ!」


 「いいや、終わりだ。お前が何言ったって、あっちは退くつもりはねえだろうしな」


 大吾は声を低くして振り返らずに言った。大吾の目には堂本 達史しか映っていなかった。


 「よくわかったな、でかいの。オヤジの命令は絶対だからな、悪く思うな」


 「分かってるぜ、つまりはあんたを倒すしかないってことだ」


 大吾が指を鳴らしながら言うと、達史は呆れ顔になっていった。


 「若いからって蛮勇がすぎるな、お前は体格からして並みの大人でも勝てるんだろうが、見て分からないか? お前と俺との実力差が」


 「へっ、言ってやがれ、こっちはさっきも負けて若干へこんでんだ、あんたを倒して味直しがしてえんだよ」


 ますます挑発する大吾に達史は呆れ顔さえ、やめなかったがコートを脱ぎ、後ろに投げ捨てた。

 コートの中は黒いスーツに覆われており、達史はさらにネクタイを取りコート同様に投げ捨てた。


 「そんなにしたいなら相手してやるよ、まぁ、ちょっとは俺も本気出せるかもな」


 達史は構えは取らなかったが、大吾のから目を離さず、睨みつけた。


 「行くぜ、サシの勝負でいこうや」


 「俺は後ろのやつも一緒でも構わないが?」


「そうだよ、大吾、俺も戦うよ」

 

 達史の提案に道也は反応し、大吾に問うが、大吾は首を振った。


「このくそ狭い場所で2人で戦えるかよ、それに口直して言ったろ? 任しとけ」


「…分かった」


 確かにこの狭い通路で2人は、ただでさえ行動を限定されてるのにさらに、限定されてしまう事だ。道也は諦め、大吾に任せることにした。


「お兄さん大丈夫なの…? なんなら私が…」


「大丈夫だよ、見とけっての」


 心配の声を上げた推に大吾は笑って答えた。すると、達史が笑みを漏らした。

 

「賢い判断だな、馬鹿そうだなと思ったが訂正しよう」


「頭は悪いからな、ま、経験の賜物さ」


 「10数年しか生きてないのに大きい口だな、なら、先手は譲ってやる、かかってこい」


 「いくぜ」


 大吾は警官の時とは違い、軽いフットワークで達史に近づいていき、右拳を作り、直線に達史に放つ。

とてつもないスピードで達史の顔面を狙う拳。


 だが、達史はその右拳を左手で軽々受け止め、お返しとばかりに右拳を放つ。


 なんと達史の拳は大吾の拳よりも速く、大吾は反応しきれなかったが、達史の右手首をギリギリで握り止める。

どちらも両手を封じられ、睨み合う。


 「危ねぇな」


 「脇が甘いぞ」


 達史は睨み合いながらもすぐに次の手に出た。

 右足を思いっきり前方に振り、大吾の脛に向かって蹴り出した。

 大吾は反応しきれず、脛に達史のつま先を受けてしまう。


 「がぁぁ!!」


 大吾は激痛のあまり体制を崩し、通路の壁に自ら身体を叩きつけてしまう。

 だが達史はそれでもやめない、大吾の頭の側頭部を髪ごと掴むと勢いよく壁に叩きつけ始めたのだ。


 「がああああああ!!ああああああああああ!!!!!」


 「大吾!!」


 道也が思わず叫ぶが、現状の光景は酷いもんだった。

 鈍い音が響き、側頭部から血が出たのだろう壁が血みどろになっていく。

 何度も何度も叩きつけられていく大吾の光景に推は目を手で隠していた。

 大吾はフラフラとしながらも立ち上がろうとするが、腹を蹴り上げられてしまう。


 「ぐほぉ! げほっげほっ!!」


 「こんなもんか…」

 

 「待ちやがれ……。今からとっておきの見せて……やるからよ……」


 大吾は側頭部から血を垂れ流し、顔にまでかかっているのにも関わらず立ち上がり、達史の顔を睨みつける。


 「そんなボロボロの身体で何が出来る。いい加減諦めろ」


 達史は大吾の胸倉を掴み壁に叩きつける。


 「あのな、一応手加減してやってんだ。本気ならてめえは今頃、目が無くなってるからな」


 達史は胸倉を掴んだまま通路のコンクリートに大吾を叩きつける。


 「グッ!!」


 「ガッツだけは認めてやるよ」


 達史は瀕死の大吾を跨ぐとそのまま道也たちに近づいていく。


 「ほら、お前ら、あいつ持って帰んな」


 後ろを親指で指して言う達史を道也は睨むが、不意にその視点が後ろにいき、だんだんその表情は驚きに変わっていった。


 「やめろ!! 大吾!!」


 「こっち!! 道也君!!」


 突然、道也が叫んだと思うと、推が半円形のスペースに道也を引っ張る。

 その光景に目を見開いて驚いた達史が振り向いた瞬間。


 「おららああああああああああああ!!! とっておきだああああああ!!!」


 「な、なにい!?」


 達史は振り向き、驚愕した。達史が振り向いた直後、大吾が、捨て身でタックルを仕掛けてきていたのだ。

 達史は動けないと断定していた男がタックルしてきたのに驚き、反応しきれず、大吾の身体が直撃した。


 「なあああああああああああああああ!?」


 「大吾!!」


 「お兄さん!!」


 達史はタックルに押され、階段を転げ落ちていく。もちろん受け身を取れずに背中を殴打しながら一階まで落ちていった。

 一方、大吾は推と道也が背中を抱きしめ、落ちるのを止めていた。


 「大丈夫か!? 大吾!」


 大吾に呼びかけると、大吾はボロボロになった顔で振り向き、口を三日月にした。


 「こんな……もん、余裕だぜ……最高の喧嘩じゃねえ……か……」


 大吾はそこで力尽きたのか、目を閉じると小刻みに息をしだした。


 「こんな時に寝るなんてお兄さんはのんきだなーもう」


 「まったくだな、まぁ、手当くらいなら皐月さんとしてやっから感謝しろよな大吾」


 道也と推は、お互いの顔を見ながら笑うと、大吾を壁に寄りかからせた。

次の話は時間未定で明日か明後日です!

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