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自分とは





教会から帰ってきた。

まだ夕食までには少し時間がある、俺は迷わず先生の部屋を目指す。


ドアの前に立ち一度深呼吸。


コンコンーーー

「先生、ヴィンセントです今大丈夫ですか?」

「どうぞお入り」


「失礼します」本日二度目の院長室。

一度目と同じ様に先生は机に座って書類に目を通していた。


「お帰りヴィンセント」そう言って先生はソファーに移動し腰かける、「ただいま戻りました」挨拶をし俺も倣ってソファーに腰かける。


「何か聞きたいことがあるみたいじゃの」そう問われる。


「はい、ステータスの事で…司祭様には誰にもステータスは見せないように、分からないことは自分で調べるようにと言われましたが……」


「ステータス見せないようにって事は聞くのはいいんですよね?」取り合えず思っていた事を聞いてみる。


「フォッフォッ、そう来たかヴィンス本当に君は面白いの~」

笑われた。真剣だったのに。


「じゃがな、ヴィンス」先生の声色が低くなる。


「司祭様の言葉通りじゃ、ステータスに関しては一切他言無用、誰にも話してはならぬ、勿論儂にもじゃ場合によっては命に関わるものとなる良いな?」今までに無いほどの先生の雰囲気、怒った時とも違う恐さがある。だからと言って俺も引くわけにはいかない。……別に自分で調べる事をめんどくさいとか思ってないからな!


「一つだけ教えて欲しいことがあります、本当は分からない事いっぱいあるけど、一つだけ!お願いします!」頭を下げる。

他の事は後でゆっくり調べればいい、でも此れだけは今すぐ知りたい。どうしても…。


「………ヴィンス頭を上げなさい、分かったよ一つだけ答えよう」


「本当ですか!ありがとうございます!…実は俺の種族がハイヒューマンってなってるんですが、ヒューマンとは違うんですか?」


そう聞いたとたんに、先生の顔色が変わる。


「……そうか君は………」


先生が此方を向く。


「ハイヒューマン…まさか儂が生きている内に出会えるとはの」そう言って目元を緩ませた先生の目はとても嬉しそうだった。


「君も知っているであろう、精霊族にはエルフとハイエルフが存在する。エルフは今やどの町にも村にも生活拠点を構えておる、じゃがハイエルフはそうではない…彼らは先祖代々の仕来たりを守り、カルミナの森からほとんど出ることはしない、また同族しか受け入れぬ故に数もそう多くはない」


“カルミナの森”

精霊族と妖精族以外は立ち入ることができない不思議な森。この森を出たエルフ達も決して場所を明かさないため何処に在るのかは解明されてない。


「唯一の例外を除いてはな…」


「その例外がハイヒューマンですか?」


「さよう、じゃが詳しい理由は分かっとらん何故ヒューマンは駄目でハイヒューマンは受け入れられたのか……まぁその前にヒューマンとハイヒューマンの違いもよく分からんのじゃ」


「なによりも君が聞きたかった事じゃろうがな…。

勿体ぶってすまんのヴィンス、正直儂もハイヒューマンについては詳しく分からんのじゃ、唯一分かってるのは数十年前に滅びた種族言うことだけ」

そう言うと先生はソファーの背凭れに身を預け目を瞑った。


俺も少しだけ体の力を抜く。

確かに今の話ではハイヒューマンについては結局なにも分からないままだ、今の話が本当かどうかも分からないし、もしかしたら誰かの作り話かもしれない、でも、もうそれでいい気がする。

別にハイヒューマンについて興味を無くしたとかじゃない、むしろもっとハイヒューマンについて自分について知りたい、でも今焦ったところでおいそれと分かる訳じゃないし今は未だ分からなくてもいい。…そんな感じ!

もう少しで俺も孤児院<ここ>を出ないと行けないし、その時はハイヒューマンについて調べる旅に出るのも悪くないな!


「ヴィンセント…儂が教えることが出来るのはここまでじゃ、おぉ!もうすぐ夕食の時間じゃな!先に行きなさい儂もすぐ行くでな」


先生が立ち上がり机に向かう。


「はい、先生ありがとうございました!」立ち上がり頭を下げる。そして部屋から出ようとドアノブに手をかけると同時に「ヴィンス」と呼ばれた。


振り返ると先生が机に座ったまま此方を見ている。

「君は特別な存在じゃ、決して誰にもステータスを見せるでないぞ」改めて釘を刺される。


「分かってます、失礼しました」今度は軽く頭を下げて部屋を出る。


ハイヒューマンとか滅びた種族とか何か悲劇のヒロインならぬヒーローになった感じだ…全然そんな柄じゃないけど。

特別と言われてもそんな実感無いしなぁ…

俺は平和に平凡に生きていきたい、もちろん楽して。

そう思いながら俺は食堂に向かった。


さて俺の今日イチの仕事を済ませるかな!

ハワード…覚悟しろよぉ…


ーーーーーーーーーーーーーーーー


<院長室>


パタンッ


廊下の軋む音でヴィンセントが去ったことを確認する。


「まさか、あの子がハイヒューマンとはな…………」


椅子に深く腰かける。

ふと、ヴィンセントが孤児院に来た日を思い出した。


それは16年前の風が吹き荒れる日。

余りにも風が強いため戸締まりの確認と窓の補強を行っていた時、微かに声が聞こえた。

院生が外に出てしまったのかと、慌てて玄関に向かうと其処には籠に入れられた赤ん坊が居た。


何時から其処に居たのか、誰が連れてきたのかも分からない。

全てが謎に包まれていた少年。


しかし、今日その謎が少しだけ解けた気がした……。


「ヴィンセント…君は自分とどう向き合うのかのぉ…」

此れからのあの子への心配と、あの子なら大丈夫という期待で心が波打つ。


「さて、そろそろ行くかのぉ…皆が待っておる」

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