パンドラ奇譚
眩しい。
……ああ、君は開けてしまったんだね。
今まで決して開くことのなかった箱。
それを君が開けてしまった。
……いや、開いてしまったと言うのがいいかもね。
どんなに鋭い剣や、どんなに火薬を詰めた爆弾でも壊すことができない。
ついさっきまで開くことのなかった箱。
それが、君という存在に触れて、ひとりでに開いた。
僕はそれを責めるつもりはないよ。
いつかは、誰かがその役目を果たしただろうからね。
ともかく、君はそれに驚いて、急いで箱を閉めたんだ。
でも、長い永い、永遠とも悠久とも言えるような時間が流れた。
その間、ずっと閉じ込められていた、この世を形作るもの。
箱が開くのに伴って、溢れて、出ていっちゃった。
楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、それに、辛いこと。
ありとあらゆる災禍が放たれていったね。
みんなみんな、溢れていった。
……ねぇ、どうして謝るの?
僕は今とっても幸せだよ?
君に感謝しているくらいさ。
ようやく、息苦しい思いをしなくて済むからね。
……でもやっぱり、間違いだったかも。
だって、この中には僕しかいない。
世界には僕しかいないんだ。
それになんの意味があるだろう。
居たら居たで疎ましく思っていたことも、居ないなら居ないで物寂しく思うんだ。
我ながら、わがままな奴だと思うよ。
……うん、やっぱりみんなが必要だ。
みんなが居たからこそ、僕がいる意味が生まれる。
そんな気がするんだ。
そこで、君にお願いがある。
なに、心配することはないよ。
とても単純明快で複雑怪奇な頼みだからさ。
君は必ず僕の頼みを聞いてくれる。
ずっと昔からそう決まってるんだ。
この箱を開けた君だからね。
それじゃあ、僕を連れて一緒にみんなを取り戻そうよ。
君の一生を僕にちょうだい。
僕が君を支えてあげる。
……僕の名前が知りたいって?
そうだね、これからずっと一緒にいることになるだろうから。
僕の名前は、『 』。
ちゃんと聴き取れたかな。
君が閉めた箱の中に、唯一残った僕だから、きっと君と上手くやれると思うよ。
さあ、行こう。
僕が入った箱を、懐に入れて。
これは、君の運命の物語だ。




