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どうやら私は女の子に好かれる体質みたいです!?  作者: 濡れた雑巾
まるで運命!?咲姫との再会!
6/6

第四話「失踪」


  窓の外はもう暗い。


  既に時刻は19時を過ぎている、いつもならこの時間帯には夕飯を終えてお風呂に入っているのだけれど、今日はどれもできていない。


  というより、そんな事をしている場合ではなかったのだ。


  今になって思い返せば、今日は色々な出来事があった。瑞季がお母さんの実家にお引っ越しして、咲姫が転入してきて、咲姫の家にお邪魔して────そして今、この現状である。


「なるほどね……大雑把には理解できたわ、あくまで大雑把、大体ね」


  私が真希ちゃんと美里にこれまでの経緯を説明し終えると、真希ちゃんは私にそう返事を返した。


  現在、ここは私の家で、リビングの中である。


  向かい合ったソファーには、真希ちゃんと美里が、そしてこちらのソファーには、私と咲姫が対面して座っている。


  私は真希ちゃんと美里に、咲姫の家で話したこと、私と咲姫の関係について、そして────咲姫の秘められた過去について、話していたところである。


「わ、分かってくれた……?」


「細かい所を無視して聞いていれば、ね。なんて言うか、言葉が足りない……と言ったところかしら?彩はもちろんだけど、染花さんもね」


  真希ちゃんは私と咲姫にそう言うと、腕を組んだままソファーに座っている。とりあえず、私と咲姫の現状については理解してくれたみたいである。


  正直なところ、真希ちゃんが話に加わってくれる事はとてもありがたい。私だけではどうしても不安で、咲姫へのフォローが上手くいかないかも知れないからである。


  もちろん、私も自分なりに咲姫への配慮には気を遣っているつもりだけれど、私よりも断然、真希ちゃんの方が気配りができるのは理解している。本当に真希ちゃんは頼りになるのだ。


「……なんか、私は全く話が入ってこないんだけど、何より気になるのは、染花さんは何に追われているの?時間?それとも人?考え……というか、染花さんの目的が分からない……」


  しかし、真希ちゃんの隣に座っている美里は理解できていないみたいである。


  静かに人の話を聞いているその姿は、いつもの美里らしくもない。美里も美里なりに、咲姫と真剣に向き合ってくれているみたいである。


「それに、あの大きな家……染花さんの家じゃないってのもどういうこと?なんか謎が多過ぎて全っ然理解できないんだけど」


  美里はそう私達に言って、お手上げと言わないばかりに天井を見上げる。やはり、美里も理解できないみたいである。


  ただ、理解できないのは美里だけではない、私もなのだ。


  まず、咲姫からの情報をまとめると、いくつも不思議な点が浮かんでくるのだ。転入、両親、家……そして、私が受け取ったこの巾着袋。


  謎だらけで何から紐解いていけばいいのか分からないけれど、解決できなければ当然何の進展もない。それでは咲姫が私に打ち明けてくれた意味がない、咲姫の為にも、私自身の為にもとにかくこの謎を理解しなければいけない。


「……とりあえず、私が浮かんだ疑問点がいくつかあるけれど、染花さん、質問させてくれるかしら?」


  真希ちゃんがそう咲姫に訊くと、咲姫はコクりと頷いて返事を返した。真希ちゃんは咲姫の返事を見て、微笑みながらもお礼を口にする。


「ありがとう……じゃあ、まず一つ目だけど、染花さんの両親……いえ、お父さんについてだけど、今もご健在なのかしら?…というより、まだあの家に住んでいるのか、というべきかしらね」


「ん…?ちょっと待って、どういうこと真姫ちゃん?」


  私は真希ちゃんが咲姫に訊いたその言葉を聞いて、真希ちゃんへとそう訊き返した。


  今の真姫ちゃんの質問、まるで咲姫のお父さんはあの家に居ない、つまり住んでいない、と受け取れてしまう。


  まさか、そんな事はないだろう。咲姫はあの家から引っ越して、あの家に引っ越したのだ。つまりは、咲姫のお父さんは住んでいるはずである。


「だから、染花さんのお父さんは、今もあの家に住んでいるのか、そう訊いたのよ」


「いや……なんでそんな…」


真姫ちゃんのはっきりとした口調に、私は圧されてしまう。私の聞き間違えではなく、真姫ちゃんは確かにそう訊いたみたいだ。


「染花さん、どうなの?」


  真姫ちゃんは真剣な表情で、咲姫にそう再び問いかける。すると、咲姫は俯いたままではあるが、静かに私達に呟いた。


「……お父さんは、住んでない。……言っていなかったけれど、お父さんは亡くなってる」


「「……え、えぇ!?」」


  咲姫からの予想していなかった返答に、私と美里は大きな声で驚いた。お互いに目を見合わせてしまったくらいだ。


「……ごめんなさい、薄々気付いていたけれど、どうしても染花さんに確認しておきたかったの」


  真姫ちゃんは咲姫からの返事を聞くと、咲姫にそう言って深々と頭を下げた。それを見た咲姫は、ゆっくりとソファーから立ち上がった。


「ど、どうしたの咲姫…?顔色悪いけど、大丈夫?」


「……大丈夫、お手洗い…借りる」


「あ…リビング出て左側の扉だよ!」


「……ありがとう」


  咲姫はそう私に返事を返すと、ふらふらとよろめきながらもリビングを後にする。


  ……何か、嫌な事でも思い出したのだろうか。


「…それにしても、なんで桐宮さんはそんなこと訊いたの?染花さんのお父さんがまだあの家に住んでいるのか、なんて」


  不穏な空気を感じ取ったのか、静まり返った空気を掻き消す様に、美里が真姫ちゃんにそう訊いた。


「そうね……染花さん、私達が最初に入ってから、こう言ったじゃない、この家に来てから両親とあまり過ごしていない、って」


  美里からの質問に、真姫ちゃんはそう答える。しかし、あまり理解していなさそうな美里は、再び真姫ちゃんに問いかける。


「うーん……それって、ただ染花さんの両親が仕事で忙しいって事でしょ?それが何と関係するの?」


「関係するわ、それもかなり重要よ」


  真姫ちゃんは再び返事を返す。表情はやけに強張っていて、緊張感のようなものを感じる。


「……彩、わかる?」


「……いや、全然…」


  美里からのその言葉に、私はそう返事を返す。それを見た真姫ちゃんは溜め息を吐きながらも、私達に言った。


「染花さん、その後にこう言ったのよ。両親とも、仕事が忙しい訳じゃない……って、覚えてないのかしら?」


「「……あっ!」」


  真姫ちゃんのその言葉に、私と美里は同時に声を挙げた。


  そうなのだ、咲姫は確かに言っていた。仕事が忙しい訳じゃない、それはつまり、仕事が理由で家に居なかった訳ではない、という事なのだろう。


  しかし、そうなると更に謎が深まってしまう、両親が家に居ない理由、それが全く分からなくなってしまう。


  ……そうなのだ、考えれば考えるほど、不思議な点がいくつも浮かび上がる。なんというか……これは、私が思っていた以上に恐ろしい事なのかも知れない。


  もしかして……。


「……虐待」


  私はそう呟いた。


  そう、これは虐待だ。咲姫は、おそらく両親に虐待を受けていたに違いないはずなのだ。


「虐待って……彩、それはどういう…」


「咲姫、両親とあまり過ごしていない、って言っていたけど……それって、両親は家に住んでいなかった……って事だよね…」


「まぁ、そうなると思うけど……それがなに?」


「考えてみてよ、両親が家に居ないって事は、誰が咲姫のお世話をしていたの?」


「────えっ」


  私のその言葉に、美里はようやく気が付いたようだ。


  育児放棄、つまりは、そういうことなのだろう。咲姫が曖昧に説明していたのも、それで納得がいく。


  虐待を受けていたなんて、とてもじゃないけれど普通に話す事はできないだろう。今更気が付いた自分が悔しくて仕方ない。


「で、でもさ、お手伝いさんとか、その時は雇ってたんじゃない?今日行った時は人の気配はしなかったけど……それに、もし本当にそんな虐待してたなら、育児放棄をしたのなら、咲姫はあんなに健やかに成長はしてないと思うけど…」


「……そ、それは…確かに」


  美里からのその反論に、言い返す余地がない。そこまで考えていなかった。


  確かに、冷静になって考えてみれば、両親が誰もお世話をしないで咲姫が成長するわけがないのだ。金銭面、体調面、世間体……それらが関係すれば、私のこの推理はまるでダメだ。


  私のこの推理も憶測に過ぎないのだ、咲姫の過去を紐解く事はできそうにない。


「なんかさ……もう、そっとして置いてあげたら。わざわざ過去の話を引っ張らなくてもさ、それって染花さんがまた嫌な思いをするだけかもよ?」


「……そ、そう、だよね…」


  やはり、それが一番なのかも知れない。


  咲姫の事を知ろうと必死になっていたけれど、それは例え知れたとしても、ただの私の自己満足なだけで、咲姫にとっては嫌な思いをするだけなのかも知れない。咲姫があまり詳しく話そうとしなかった理由も、言えなかった訳ではなく、言いたくなかっただけで、それを訊き出そうとする私の事を迷惑に思っていただろう。


  そう思うと、途端に自分の気遣いの無さに憤慨してしまう。よく友達を名乗れたものだと思う。


「……まぁ、彩だけが悪い訳じゃないって、私達も追及しちゃったしね」


  私のそんな思いを見透かすように、美里はそう私に言った。美里なりに、気を遣ってくれたのだろう。


「それに、何より私が気になるのは染花さんの家が、染花さんの家じゃない……っていう、なんかよく分からないアレだよ。あれはどういう意味なの?」


  そして、続けて私にそう訊いて、首を傾げた。


「……そういえば、どういう意味なんだろう…」


  言われてみれば、よく分からない。


  咲姫の家じゃない……しかし、現に咲姫は家に入っていたのだから、それがどうも不思議なのだ。それに、咲姫は数ある扉の中からでも、リビングの扉を開いたのだから、咲姫があの家を知っているのは確かなのだ。


  それに、なんだろう、この違和感……辻褄の合わないような感覚。考えれば考えるほど、深みにはまってしまう。


「……それくらい理解しなさいよ、二人とも」


  全く理解していない私と美里にとうとう痺れを切らしたのか、真姫ちゃんは私達にそう言った。


「理解って……桐宮さんはもう理解できてるの?」


「当然よ、彩の話を聞いた頃にはもう……でも、あまり言いたくはないわね」


「な、なんで真姫ちゃん?」


「……私の憶測であってほしいこの思考が、きっと当たっているからよ」


  真姫ちゃんはそう私達に伝える。どうやら、本当に真姫ちゃんは咲姫の過去について理解したみたいだ。


「お、お願い真姫ちゃん!私達にも教えて!咲姫の力になりたいんだ!」


  私はそう懇願すると、真姫ちゃんに頭を下げる。咲姫の暗い過去を拭う為にも、私はまず咲姫の過去を知る必要がある。


  例えそれがどんな結末でも、咲姫はそれを受け止めたのだから、私も友達として咲姫の全てを受け止めたいのだ。


「……分かったわ。でもこの話をする前に……彩、まず染花さんが話してくれた過去の話だけれど…両親はよく喧嘩をしていたのよね……そして、それは染花さん自身も見ていたって」


「うん…それがきっかけで、あまり家に居たくなかったみたいだね、でも、それが何かと関係してるの」


「変だと思わないかしら…?両親とあまり過ごしていないのなら、そんな夫婦喧嘩の存在なんて、認識しないはずよね」


「……あっ!」


  真姫ちゃんのその返事に、私はようやく理解する事ができた。


  確かに、両親とあまり過ごしていないのなら、そんな夫婦喧嘩を見る事はないだろう。しかし、咲姫は夫婦喧嘩をよくしていた、と話してくれていた。


  つまり、真姫ちゃんが言いたいのは、咲姫は両親とあまり過ごしていない、しかし、両親の夫婦喧嘩はよく見ていた、この矛盾点はなんなのか、という事である。


  しかし────これはあくまで、私達の見解である。というのも、期間が分からないからなのだ。咲姫が、一体どれだけの期間、あの家に住んでいたのか、それが分からない以上、決め付ける事はできない。


  夫婦喧嘩を見ていたのも一緒に過ごしていた頃だけなのかも知れない、咲姫はよく外に遊びに行くようになっていたみたいだし、もしかしたら、頼りになる親戚の存在があって、その時から既にお世話になっていたのかも知れない、だから引っ越し先も親戚の家だったのではないだろうか。


  両親がどちらともいないのに引っ越すなんて事は、いくらなんでも小学生だった頃の咲姫にはできないだろう。それに、生活していくとなれば親は絶対に必要だ、両親がいないなら、その代わりとなる人物はいたはずなのだ。


  しかし、どれもこれも私の想像、憶測に過ぎない。結局のところ、確信に結び付く決定的な情報がないのが原因なのだろう。


  ……やはり、全てを知っているのは本人だけなのだ。


「……それにしても、染花さん遅いわね、大丈夫かしら?」


「そういえば全然戻ってこないね……私、ちょっと見てくるよ」


  私は真希ちゃんと美里にそう伝えて、ソファーから立ち上がった。


  顔色も悪かったし、おそらく気持ちを落ち着かせているのだろう。私なりに声を掛けてあげれば、多少は気が楽になるのではないだろうか。


  そう思いながらもリビングから出て、私は左の扉をノックする。


「咲姫ー?えっと、トイレ中ゴメンね、大丈夫?」


  私はそう扉越しに咲姫へと声を掛ける。


  ……………………。


  しかし、返事が返ってくる事はなく、沈黙が不穏な空気を漂わせる。


「さ……咲姫?おーい、居るなら返事して…あ、声がダメならノックでも良いよ!」


  そう扉越しに伝えて、何度か扉をノックするものの、ノックが返ってくることも、咲姫の声が返ってくる事もない。


  ……っ。


  私は思い切ってドアノブを掴むと、そのまま下に引いた。鍵は掛かっていない。


  ……考えすぎかな。


  そう思いながらも、私はゆっくりとトイレの扉を開いていく。……もし、私のこの嫌な予感が当たっていなければ、私はかなり失礼な人になんてしまうけれど…それでも、開けずにはいられなかったのだ。


  ………っっ!!


  まさか…そんなはずがないのだ。


  私は急いで玄関へと向かう、確かめなくてはならない。あるはずなのだ、咲姫が……この家に居るはずなら…。


「っ…!?や、やっぱり…!」


  嫌な予感が的中してしまった。しかし、それを悔やんでいる余裕は無さそうである。


「み、みんな!大変だよっ!」


  私はリビングへと急いで戻り、真希ちゃんと美里の前へと立つ。


「ど、どうしたのよ彩……」


「落ち着きなよ……何があったの?」


  私の慌てふためく様子を見た真希ちゃんと美里が、私の方へと心配そうに駆け寄る。


「そ、それが…咲姫が!」


「染花さんがどうかしたの?」


「ま、まさか倒れてるとか…」


「…!!ど、どうなの彩!」


  美里のその言葉に、真希ちゃんは私の肩を掴んでそう訊いてきた。私は息を整えながらも、真希ちゃんと美里に言った。


「さ、咲姫が……咲姫が、家にいない!玄関に靴もないし……どうしよう───って、真希ちゃん!?」


  私のその言葉を聞いた真希ちゃんは、そのままリビングを駆け出した。私と美里も慌てて真希ちゃんの背中を追うと、真希ちゃんは玄関で靴を履いている。


「早くしなさい!今すぐに!」


  真希ちゃんは靴を履き終えると、私と美里にそう叫んだ。真希ちゃんにしては珍しく落ち着きがない。


「さ、咲姫を探しに行くの?」


「当然よ!説明してる暇なんてないわ!」


「き、桐宮さん落ち着いて……さすがに、状況が整理できないよ」


  美里は真希ちゃんにそう返事を返す。それを聞いた真希ちゃんは私達に背を向けた。


「彩…あなたは染花さんの何を受け取ったのか、それが解らないのなら……失望よ」


「えっ……ま、真希ちゃん!」


  真希ちゃんは私にそれだけ伝えると、そのまま玄関の扉を勢いよく開けて出ていった。それを見た美里は溜め息を吐く。


「どういうことよ、説明してる暇がないなんて…染花さんもなんで黙って帰っちゃうかなぁ」


「……美里」


「ん?なに」


「……私は、咲姫から何を受け取ったんだろう……真希ちゃんは、何に気付けたんだろう…」


  私はそう美里に呟いて、その場に力なく座り込んだ。


  美里が何かを言いながら私を抱えてくれているけれど、その言葉がまるで聴こえない。それほどショックだったのだろう、失望という言葉に。


  ───あなたは染花さんの何を受け取ったのか───。


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