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どうやら私は女の子に好かれる体質みたいです!?  作者: 濡れた雑巾
まるで運命!?咲姫との再会!
4/6

第二話「驚愕の事実」


  暖かな風が桜の花弁と共に吹かれていく今日この頃、私達は授業を終えて、学校を後にしていた。


  いつもの登下校とは違い、今日は咲姫も一緒である。真希ちゃんと美里と一緒に、咲姫にこの町を案内してあげよう、という名目で集まった訳である。


  咲姫も長い間この町から離れていた訳だし、私としても咲姫には真希ちゃんや美里も仲良くしてもらいたい訳である。


  今日の咲姫を見ている限りでは、咲姫は積極的に人と話さないみたいである。誰かが話し掛けてきたら、少し間を空けて一言言葉を返すだけ、これではとてもクラスに馴染めないし、友達も作れるかどうか…。


  昔の咲姫はもう少し喋る女の子だったけれど……、やはり、転校初日という事もあって緊張しているのだろう、私もその気持ちはとてもよく分かる。


  私だって咲姫に偉そうにこう思ってはいるけれど、まだクラスにはあまり馴染めていない、恥ずかしながら本当の話である。


  というか、まだ始業式から一週間ちょっとしか経ってないのだから、なかなか初対面の子と急に仲良く話すのは難しい事である。私の場合は、大した趣味が無い事も話を切り出せない理由の一つでもある。


  美里はもう既にクラスの中心に溶け込んでいる、私も美里のようにどんな時でも即座に笑顔で人と話せる力が欲しいものである。


  しかし、そんな美里ですら、咲姫と仲良く話すのは難しいみたいである。


  今日もお昼休みの時に、美里が様々なアプローチで咲姫との距離を縮めようと試みていた。何か共通の趣味を聞いてみたり、ボディータッチをしてみたり、お弁当のおかずを勝手に交換したり……。


  しかし、咲姫はそれら全てを完全に無視した。表情はいつも通り無表情に近かったけれど、基本的には返事を返すはずの咲姫が美里にだけは無視を貫いていた、もしかして、咲姫は美里の事をあまり良くは思っていないのかもしれない……。


  夢原先生も、「咲姫と話すと時間が止まったように錯覚するなぁ」と笑いながら言っていた。本当にあの先生はデリカシーがない。


  とはいえ、なんだかんだで夢原先生も気に掛けているらしく、授業後には私に耳打ちで「咲姫がクラスに馴染むように頼む」と心配そうに呟いていた。


  まぁ、その後に続いて「クラスの評価=私の評価だから、な」と真剣な表情で呟いて去っていった時は、本当に夢原先生の事を信じて良いのか若干、不安にはなったけれど。


  何はともあれ、私は咲姫が早くクラスに馴染むように……いや、この町全体に馴染むようにしなければならない、そんな使命を抱いて現在に至るという訳である。


「いやぁ……それにしても、そんな漫画みたいな事、現実にあるもんなんだねぇ…」


  わたしがそんな事を思っていると、美里は独り言のようにそう呟いていた。「へぇ~…」と、未だに信じられないかの様にずっとブツブツと呟いているその姿は、いつものお調子者姿とは程遠い、本気で驚いているみたいである。


「…私と彩は、お互いにまた会う約束をして別れたの、だから、これは運命と呼んでも良い……ね、彩?」


「うん、そうだよね咲姫、これは運命だよね!そうとしか考えられないもん!」


「……そのなんかお互いに気が合ってる感じ……本当なんだ…」


  美里はそう再び呟く。何だか咲姫がいるといつもより大人しすぎて、何だか少し違和感すら覚えてしまう。


「う、運命……彩と、染花さんが……いや、そんなまさか……」


  真希ちゃんですら、何やらブツブツと呟いては何かを否定するように首を横に振っている、どうやら本当に驚いているみたいである。


  しかし、驚いているのは真希ちゃんや美里だけではない、私ももちろん、本当に驚いている。まさか、本当に戻ってきてくれるとは思っていなかったからである。


  あの頃は信じていた。


  咲姫は必ず戻ってきてくれると思っていたし、私もそのつもりで時折、咲姫と遊んだ公園へと出向いたものである、そこへ行けば、失ってしまった時間を取り戻せる気がしたものだ。


  しかし、今になって思えば、信じる事によって寂しさを誤魔化していた、というのが正しかったんだと思う。


  子供心ながら、薄々は気付いてしまってはいたが、なかなか諦めきれない気持ちもあったのだろう、今の私でもその気持ちは理解できる。


  しかし、結局は忘れ去ってしまっていたのだから、何だか胸が痛い。


  思えば、咲姫が居なくなってからこの数年間、私は最初の頃だけ悲しんでいたけれど、咲姫は今までずっと私の事を思っていてくれていたのだから、咲姫には申し訳ない気持ちで一杯である。


  やはり、人とは繋がり合うものであり、そしていつまでも繋がり続けるものであるみたいである、本当に凄いと思う、感動している。


「……それにしても、染花さんって小学校は何処に通っていたの?私達が通っていた学校には在籍していなかったわよね?」


  真希ちゃんはそう咲姫に聞くと、首を傾げた。


「あぁ……確かに、咲姫って何処の小学校に通ってたの?」


  真希ちゃんに続いて、私もそう咲姫に質問をする。言われてみれば、少し気になる。


「……隣町の方…だから、彩達が知らないのも、無理はない……」


  咲姫はそう返事を返して、そのまま俯いてしまった。


「そうだったのね……それにしても、彩ももっと早くに染花さんの事、伝えてくれれば良かったのに…」


「いや、何て言うか……真希ちゃんあの頃、剣道で忙しそうだったし…」


  元々、私があの公園に一人で行くようになった理由の一つも、真希ちゃんが忙しくてなかなか遊べなかったからだし、学校以外で真希ちゃんと一緒にいる時間が極端に減ったのも言えなかった理由の一つかも知れない。


  本当にあの頃の事を思い出すと、今でも胸が痛くなる。それだけ辛い時期であったという事なのだろう。


「……さて、じゃあこれからどうする?駅前のケーキ屋さんでも行く?」


「あー、まぁ良いんじゃない?」


「私も構わないけれど……染花さんはどうかしら?今日は染花さんの行きたい場所に行きましょう」


  真希ちゃんはそう私達に提案して、咲姫に声を掛ける。


「染花さん、何処か行ってみたい場所とかある?」


  真希ちゃんはそう咲姫に聞くと、「遠慮しなくて良いからね」と優しく声を掛けた。真希ちゃんのこういうところ、本当に素敵だと思う。


  そんな事を私が思っていた最中、咲姫は私達の方を見て静かに返事を返した。


「……めんどくさい」


「「「!?」」」


  咲姫からの思いもよらない返答に、私達は絶句してしまう。


「……帰りたい」


「さ、咲姫…!?え、えっと、何て言うんだろう……」


「……疲れた、歩きたくない、帰りたい…」


「咲姫…お願いだから!せめて思っても言葉には出さないで!」


  私は咲姫へとそう懇願する、そういえば、咲姫はとても素直女の子だったなぁ…、と今更ながらに思い出した。


「……そ、そう……その、なんて言えば良いのかしら…、とりあえず、私は気にしていないから、染花さんも気にしなくて大丈夫だからね」


「…は、はは……い、いや~、こんなはっきりと口に出せるなんて……染花さん、大物になるよ~……」


  真希ちゃんと美里はそう咲姫に伝えて、そのまま私と咲姫の前を歩き出した。


  ……真希ちゃんも美里も表情がひきつっていたなぁ…。


「さ、咲姫!みんなの前であんなはっきりと言っちゃダメだよ!」


  私がそう咲姫に耳元で言うと、咲姫は首を傾げて私に返事を返す。


「正直に言っただけ……もしかして、彩は嫌な思いした?」


  咲姫は私にそう聞いてくると、心配そうに私を見つめた。そんな目を見ていると、何だか怒る気にもなれない。


「わ……私は、別に嫌ではないけど……」


「じゃあ、大丈夫……」


  咲姫はそう私に呟くと、安心したように私の腕へと抱き付いた。そんな咲姫の様子を見て、私は溜め息を吐きながらも咲姫を連れて歩き出す。


  みんなと仲良くなってもらおうと思っていたけれど……何だか、逆に距離を遠ざけてしまった気がする。


  それに、咲姫も乗り気ではなかったみたいだし、私の余計なお世話だったのかなぁ……、そう思うと、とても悲しくなる。


  私はそう思いながらも、再び溜め息を吐いた。一気にブルーな気持ちにダウンして、気が重い。


「…………彩」


  そんな私の様子を見ていた咲姫が、私へと声をかけた。


「…ん?どうしたの?」


「……ケーキ屋に行くのは、めんどくさい」


「あはは……そっか、なら仕方ないよね、また次の機会にしようか」


「でも……私の家なら、別に良い」


「えっ…それって?」


  咲姫のその提案に、私は思わず聞き返してしまった。


「…だから───私の家に来て欲しい」


「……お邪魔しちゃっても良いの?」


  私がそう咲姫に返事を返すと、咲姫は歩くのを止めて、ゆっくりと頷きながらも呟いた。


「うん……、別に良い……」


「わぁ!咲姫の家に遊びに行けるなんて嬉しいなぁ…!ねぇ!真希ちゃんも美里も良いよね!?」


  私がそう真希ちゃんと美里にそう聞くと、真希ちゃんと美里は無言のままコクりと頷いた。どうやら、まださっきの事を引きずっているようである。


  それにしても、真希ちゃんは同じクラスじゃないから咲姫と交流するにはこういう時にしかできないだろうし、美里も咲姫との距離を縮める良いきっかけになるはず、それに咲姫も仲良くしたいだろうし、これはとても良い機会が生まれたものである。


  多分、私の気持ちを察した咲姫が提案してくれたのだろう、咲姫の気遣いに感謝するばかりである。


「じゃあ……私の家、こっちだから……ついてきて」


  咲姫はそう私達に言うと、そのまま家までの道のりを歩き出した。私達も、咲姫の後を歩いていく。


  しかし、この時の私は……私達は、まだ気付いていなかったのである。


  咲姫の、本当の正体を────。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


  

  今にして思えば、私は咲姫の事をよく知ってはいなかった。


  正確には、深く知る前に咲姫と別れてしまった、それだから、私が咲姫の事をよく知らないのも無理はないのかもしれない。


  とはいえ、それが自分にとって少しショックだった、というのも事実である。私は咲姫の事を知っているフリをしていただけだと思うと、尚更である。


  ただ、今こうして咲姫と再会できた訳であるし、これから少しずつ咲姫の事を深く知っていけば良い話で、ただそれだけなのだ。それが友達というものだと思う、心底そう思う。


  それに、咲姫の事を色々と知っていくうちに、例え何か戸惑うような事実を知ったとしても、私達の関係が変わる訳ではないし、それら全てを受け止められるくらいの度量は私にはあると思っている。


  でも───それでも、今回ばかりは驚いた、というより、今日は咲姫に驚かされてばかりである。本当に今日はビックリしてばかりだ。


  この広い世界を見渡して、今日の私のような経験をする人はどれくらいいるのだろう?───もしかしたら、私だけかもしれない───、そう思えてしまう。


  そんな事を思いながらも、私は咲姫の家へと着いていた。というより、もう既に家の中へとお邪魔していた。


「好きに寛いでて……」


  咲姫はそう私達に言うと、そのまま目の前にあるソファーへと腰を掛ける。そのソファーというのも、めちゃくちゃ大きい。


「ね、ねぇ咲姫……ここってさ、リビング?」


「……?そうだけど…」


「あ、そうなんだ……す、素敵だなぁ!」


  咲姫からの返事に私はそう返事を返し、自分の目の前にあるソファーへと腰を掛けた。


  ここがリビング……私達の通う体育館と同じくらいあるんだけれど……。


  そう、私達が何に驚いたかというと、咲姫の家の異常なまでの大きさである。大きな鉄の門、そこをくぐればお城のような大きな家が私達の前に佇んでいる。


  門から玄関までかなり離れているし、こんな豪邸に住んでいたなんて思っていなかった。


  そういえば、確かにこの家は昔からあった。


  誰が住んでいるのか全く分からないし、人が出てくる気配が無かった。というより、子供の頃は大きな家だなぁ…くらいの感想しか持っていなかった。


  まぁ、人が出てくる気配が無かった、ではなく、私が人が出てくるところを一度も目撃しなかった、という訳だったのだろう。それに、昔からここにあったという事はつまり───。


「…という事は、咲姫は昔もここに住んでたってこと?」


  ───つまりは、そうなるだろう。


  それに、私は咲姫の家があるこの地区は小学生の頃は歩いた事は無かった。この地区を通るようになったのは中学生からで、私が通っていた楠中学校はここを横切った方が私の家からは近い。


  その時には、咲姫は引っ越してしまった訳であるから、人が出てくる気配が無いのも無理はないだろう、まず人が住んでいないのだから。


  今思えば、咲姫が隣町の小学校に通っていた、という理由も合点がいく。つまりは、地元の子が通っていた小学校ではなく、私立の小学校に通っていた、という事であろう。


  思い返せば、初めて出会った頃も、咲姫は市民離れしたワンピースを着ていたし、お金持ちだと言われても普通に納得する事ができる。


「……うん、でも…私は、この家はあまり好きではないけど」


  咲姫は私の質問にそう返事を返して、そのまま話を続ける。


「お父さん……この家に来てからは、全く家に帰って来なくなった……お母さんもそう、小学校に上がってこの家に来てからは、両親と一緒に過ごした事はあまりないから…、引っ越す時にも来てくれなかった、私は親戚の家に少しの間お世話になっていただけ……」


  咲姫はそう私に伝えると、寂しげな表情で溜め息を吐いた。


「そ、そうなの…?」


  私がそう聞き返すと、咲姫はコクりと頷いた。


「お仕事が忙しいのね……」


  真希ちゃんもそう咲姫に言うと、心配そうに咲姫を見つめている。真希ちゃんなりに、何か思うところがあるのだろう。


  両親が仕事でいない、というのは一体どういう気持ちなのだろうか、きっとそれは寂しい以外に他はないのだろうけれど、私にはそんな経験があまりない。今となっては、私は両親も妹も一時的にではあるけれど家に居ない、確かに寂しく思うけれど、小学生と高校生では気持ちの変化があまりにも著しい。


「なんか、仕事で仕方ないとしてもさ、冷たい気もするけどね…私だったら、本当に嫌だけどなぁ……染花さんは凄いと思うよ」


  美里はそう咲姫に伝えると、続けて咲姫に質問をする。


「未だに両親は帰って来ないの?それに、帰って来れないとしても、何かしら連絡を取り合ったりとか、そういう親としての気遣いすらもない訳?」


「……言い忘れていたけれど、私のお父さんもお母さんも、別に仕事が忙しい訳じゃない…」


「え?それは、どういう…?」


「───岡田さん、もうこの話は良いじゃない、やめましょう」


  真希ちゃんは美里にそう切り出すと、咲姫に向かって言った。


「染花さん、ごめんなさいね、辛い話をさせてしまって…」


「……別に」


  咲姫はそう真希ちゃんに返事を返すと、「……ありがとう」と真希ちゃんにお礼を呟いた。真希ちゃんはその言葉を聞くと、安心したかのように微笑んだ。


「そういえば……何だか、私達以外に人が見当たらないみたいだけれど……もしかして、気を遣わせてしまっているのかしら…?」


「確かに……なんか、執事とかメイドさんとか、そういうのが沢山並んでるものかと思ってた、さすがにそれはドラマだけか」


  美里はそう私達に言うと、何か納得したように頷いている。かくいう私も美里と同じイメージを抱いていたのだから、何も言えない…。


  しかし、確かにこの家には、使用人とか、そういう類いの人達は見当たらない。というより……なんというか、本当に誰も住んでいなさそう、そんなイメージを持ってしまう。


  それでも、見たところでは部屋の中はとても綺麗だし、掃除もされているみたいである。やはり、気を遣わせてしまっているのだろうか。


「……大丈夫、誰も来ないから」


  私がそんな事を思っていると、咲姫は私達にそう答えて、そのまま下を向いてしまった。


「……そう」


  真希ちゃんもそう咲姫に返事を返して、何か考え事をするような素振りを見せる。


  そして、何か思い立ったように顔を上げると、「そろそろ帰りましょうか」と私達に切り出した。


「え、もう帰るの?まだ全然時間経ってないのに…」


  私がそう真希ちゃんに言うと、真希ちゃんはソファーから立ち上がって私に言った。


「もう17時を過ぎてるし、また別の日にしましょう。染花さんも色々と提出しないといけない書類もあるでしょうし……」


「あぁ……そっか、確かにそうだね」


  私は真希ちゃんのその言葉に同意すると、そのままソファーから立ち上がる。名残惜しいけれど、咲姫の事を思うと、今日は帰った方が良さそうである。


「じゃあ、咲姫。また明日ね」


「……待って」


  私達が咲姫にそう別れを告げてリビングを後にしようとした時、咲姫が私達を引き留めた。


「咲姫、どうしたの?」


「……彩だけ、少しの間残ってほしい…話しておきたい事がある……」


「話しておきたいこと?」


  私がそう聞き返すと、咲姫はコクりと頷いた。何だか思い詰めたような表情で、さっきとはまるで違う雰囲気が窺えた。


「……えっと、ごめん真希ちゃん、美里」


「…良いわ、じゃあまた明日ね」


「染花さん、また明日~」


  真希ちゃんと美里はそう私と咲姫に言い残すと、そのままリビングを後にしていった。おそらく気を利かせてくれたのだろう。


「…それで、話って?」


「その前に……これ、受け取って」


  私がそう咲姫に聞くと、咲姫は制服のポケットから私に黄色の巾着袋を手渡した。


「な…なにこれ?……巾着袋?」


  それは普通の、何処にでもあるような小さな巾着袋だった。私がそれを受け取ると、咲姫は私に小さな声で言った。


「それ……彩に持っていてほしい…中に入ってるものは、とても大切なものだから……私の生きてきた証…それを記したものだから」


  咲姫はそう私に言って、「お願い……」と私に小さな声で呟いた。確かに、巾着袋の中には、何か硬い石のようなものが入っている感触がある。


  ……これって、もしかして……。


「……これ、もしかして宝石とか…?」


  私がそうおそるおそる咲姫に聞くと、咲姫は「……内緒」とだけ答えた。


「今から話すこと……誰にも言わないで、お願い…」


  咲姫はそう私に伝えると、小さな声で私に話始めた。どういう状況か理解できていなかったが、私も咲姫の話に耳を傾けていた。


  そして私は───驚愕の事実を、咲姫の話から知る事になる。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「……あれ?真希ちゃんに美里…待ってくれたの?」


  私が咲姫の家の門から出てくると、真希ちゃんと美里が咲姫の家の門の前にいた。


「彩、随分と遅かったじゃない……何を話していたの?」


「えっと………咲姫が、今日はありがとうって、それと……失礼な態度を取ってごめんって、私から真希ちゃんと美里に伝えといて、って言われたんだ」


「……ふぅん…」


「……な、なに?」


「いや、別に何も……それにしても、随分と遅かったわね」


  真希ちゃんは私にそう再び問い掛ける。その瞳は、何かを疑うようにギラリと光る。


  さすがに、さっきの説明じゃ真希ちゃんは誤魔化せないみたいである。


「……私達には言えないようなこと?彩、日頃から、私達には隠し事はしない、って言ってたよね?」


  美里はそう私に言って、私の前で腕を組んで立ちはだかる。どうやら、美里にすらバレバレみたいである。


  しかし、どうしても今回の件ばかりは言えない、例えそれが真希ちゃんであっても、美里であっても、今回ばかりは言えない、言えないのである。


  ───今から話すこと……誰にも言わないで、お願い…───。


  そう、私は約束してしまった、咲姫と。


  ここでいきなり約束を破るなんて事は、私にはとてもできないのである。


「……ご、ごめん!真希ちゃん、美里!今はどうしても言えない!今だけはどうしても言えないの!」


  私はそう真希ちゃんと美里に伝えると、深々と頭を下げる。


「だ、だから、今だけは何も聞かないで!…絶対に後から事情を説明するから、約束するから!」


「……何を?」


「うわぁあっ!……なんだ咲姫か、驚かせないでよ…」


  背後から聞こえた突然の返事に、私は驚きながらもそう咲姫に伝える。


  咲姫は開けた門を閉めると、私の後ろに張り付くように隠れた。とりあえず、準備はできたみたいである。


「染花さん、単刀直入に聞くけど……彩と何を話していたの?」


「…っ!ま、真希ちゃん!?」


  真希ちゃんはそう咲姫に聞くと、私と咲姫の間に割って入った。


「私も……なーんか気になるんだよね、普通じゃないというか、何か隠してるような……何か私達に隠してない?」


  美里も真希ちゃんに便乗して、咲姫にそう問い詰める。


「ふ、二人とも落ち着いて!本当に何も隠して無いから!」


「へぇー…さっきまでは、今だけはどうしても言えない、とか隠し事を認めていたのに?」


「うっ…!そ、それは……」


  美里のその指摘に、言葉が出ない。これで完全に逃げ場を失ってしまった。


  どうしよう……でも、咲姫との約束だし、何よりこんな事言い出せないし……。


  私がこの状況をどうしようかと、思考を巡らせようとしたその時だった。


「……分かった、話す」


  咲姫は、そう真希ちゃんと美里に呟いた。


「さ、咲姫!?」


「良い……それに、彩の為にも、この二人には話しておいた方が良い気がする……」


  咲姫はそう私に伝えると、真希ちゃんと美里の方を見る。


「染花さん、ごめんなさい…でも、どうしても気になって……」


「別にいい……」


「それで、何を話していたの?」


「すとぉーっぷ!!」


  私はそう叫ぶと、咲姫の口を私の手で塞いだ。


  それを見た真希ちゃんと美里は、私の目をジロリと睨み付ける。


「いい加減、観念しなさいよ」


「そんなに私達に話したくないわけ?」


「ち、違う違う!……とりあえず、移動しよう?」


  私はそう真希ちゃんと美里に提案する。しかし、二人は瞬時に首を横に振った。


「私達はここで構わないわ……ねぇ?岡田さん」


「同意」


「本当にダメなんだって!えっと、なんでダメなのかは私もよく分からないけど…と、とにかくもう早く移動しなきゃ……!うわっ!?」


  私が二人にそう必死に伝えると、真希ちゃんは腰に巻き付けてある木刀を抜き出して私の首へと突き立てた。


「……彩、観念しなさい」


「は、はい……観念してます…」


  真希ちゃんのドスの利いたそのセリフに、私は冷や汗を掻きながらもそう返事をする。


「じゃあ、そろそろ言ってくれるわよね?……何を、話していたの?」


  真希ちゃんはそう私に問い詰める。しかし、どうしても今はこんな話をしている場合ではない。


「ま、真希ちゃん……とりあえず、今はどうしても話せないの…まずここから離れないと……」


「まだそんな事を言うのね……」


「ち、違う本当の意味なんだって!信じて真希ちゃん!!」


「……じゃあ、なんでここから離れないと行けないのよ?」


「それは───」


「私の家じゃない……」


  私が真実を口にしようとしたその時、咲姫はそう確かに呟いた。


「「……は?」」


  真希ちゃんも美里も、理解できていない様子である。しかし、それも無理はない。


  ───今から咲姫が言う事は、事実であるのだから。


「ここ……もう、私の家ではないから…」


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