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異世界迷宮は女神と共に   作者: ピース☆
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第二話 遭遇

 「グゴォォォォォ!!!」


大地を震撼させんばかりの咆哮。それを放っているのは巨大な熊の怪物。


 筋骨隆々な肉体と、何でも切り裂けてしまいそうな鋭利で長い爪、そしてギラリと恐ろしげに覗くこれまた鋭利な牙。瞳は赤く、トランス状態というか、興奮状態にあるのだろう。何度も叫んでは、周りの木々を豪快に薙ぎ倒していく。


「≪エレファントベア≫ですか……。≪危険度:S≫の危険指定魔獣……」


「……で、でけぇ…」


「大きい個体だと、全長5mを優に超えるそうです。目測ですが、目の前に居るのは子供でしょうか、体長も3m前後でしょうし」


「いや、十分でかいがな…」


全力疾走する事三分。

俺は乱れた息を整え、フィアは然して疲れた様子も無く、木陰から様子を窺っている。


「…そう言えば、≪危険度≫ってのは…魔獣とか、そこ等辺のランク付けみたいなもんなのか?」


先程ぼそりとフィアが呟いた言葉を言及してみた。

まぁ、意味合いと目の前の現状を加味して察するに、まんまその意味であるというのは理解出来るが。


「そうですね。FからSSSまでのランクで分別されています。あ、≪七魔王≫は対象外ですよ?」


「あ、あぁ、まぁ…それは分かる」


「危険度S……。まぁ、国に仕える≪騎士団長ナイトマスター≫レベルと、≪魔道士団長ソーサラーマスター≫レベルの混成編隊で、約十人と少しくらいの実力ですかね」


「良く分からんが、取り敢えずやべえのは理解出来た」


その時、ギロリと赤い双眸が此方を見据えたのを俺は察知した。

フィアはきっと振り向く瞬間にはもう理解していたのだろう、さっと木陰から飛び出す。


「啓一様は、そこで隠れていてください!!」


本来なら立場は逆のはずなのだが、しかし俺はその命令をしっかりと聞き入れた。

今の俺では役不足所の話ではない。風に吹かれる石の如く、ころころ転がされて御仕舞いだ。


だが、フィアは違う。


 少しだけ見せてもらったフィアの力は、凡俗な俺にも理解出来る。圧倒的だ。他を凌駕するその実力は、逆に何故、彼女がその力に傾倒して驕らないのかと不思議になるくらいに強大なのだ。危険度が云々という話を聞かされても、フィアの動じない表情を見ていると、無性に安心してしまう。


本来なら、巨大熊と女子高生の対決など、火を見るより明らかなのだが…。


宇宙の 法則が 乱れる!


まぁ、異世界なんぞに飛ばされた時点で宇宙とか次元とか乱れてるんですけどね。


「さて……それじゃ、多少はお手本になれるように…遊んであげましょう」


「グゴォォォアァァァ!!」


巨大な熊━━≪エレファントベア≫が猛進する。

ドスドスと一歩一歩が地震のような揺れを伴い、迫り来る巨体と合わさると、最強の圧迫感だ。


しかし、怯む事無くフィアはするりと突進を回避。

ずざぁ……とトラックの轍のように、二足の足が地面に二つの垂直なラインを描く。


「英霊の神風よ、先を爆ぜろ。≪エアストリームブラスト≫!!」


フィアは、両腕を≪エレファントベア≫に向けて突き出した。

突如、その突き出した両手の掌に歪な形の円形が生まれる。

それが、ゴゥゴゥと音を上げなければ、風が密集しているという事に俺は気づかなかっただろう。


バスケットボールサイズまで膨らむと、ビー○マンよろしく、弾かれるように吹き飛んだ。

風の抵抗を無視してか、強引に突き進むそれは、≪エレファントベア≫の胸部に直撃した。


「グガァ!?」


「まだまだ…! 爆炎の猛り、我が右手に宿せ。≪イグナイトブレ-ド≫!!」


何処からとも無く現れた火炎は、フィアの右手に収束され、何時しかそれは剣の形を成していた。

傾いた上半身を立て直す≪エレファントベア≫、しかしフィアはその一瞬を見逃さない。


「狂い咲け━━≪百花繚乱ブレイブファンタズマ≫!!」


高速で切り裂かれる≪エレファントベア≫

時折燃え上がる白い炎が、まるで薔薇のように美しい花の輪郭を描いていく。


 どでかい図体は無数に切り刻まれ、飛び出す鮮血は振るう炎によって一瞬で蒸発し、焼き切ったように皮膚は爛れていく。まな板の上の鯉のように、ひたすらに切り裂かれる運命を辿っていく。たかだか数秒の出来事ではあるが、瞬きを二回ほどし終えると、≪エレファントベア≫は消えていた。


いや、残っているのは砕け散った少量の骨だけである。

血は無論、肉さえ残っていない。


「………」


俺は、息をする事さえ忘れていた。


 目の前で起きたのは、ある種の殺戮行為だ。本来なら、俺は漂う異臭と、目の前で起きた残虐な戦闘行為に意識を失っていたことだろう。しかし、俺は最早そんな事を気にしてはいなかった。


「綺麗……だ…」


そう、それはまるで流麗な舞踏のように。

全ての動作に、しなやかで艶やかな、人間とは思えない美しさが宿っていたのだ。

剣を振り、風を穿ち……人間離れした所業は、フィアの流麗な動きと何故か絶妙にマッチしていた。


「啓一様、もう大丈夫ですよ」


「……」


「啓一、様?」


「え、あ、わ、悪い」


「いえ…? お怪我はありませんか?」


「大丈夫、平気だ」


流石に本人を目の前に「見蕩れてました」とは言えない。シャイボーイだからな。

取り敢えず、無意識に見蕩れてしまった気恥ずかしさからか、少しぶっきらぼうな返答をしてしまう。


フィアは小首を傾げたが、俺は毅然とした態度で平気を装うと、元の柔らかな笑みを浮かべた。


「それにしても……すごい、な。あんな動きが出来るものなのか…?」


「一般人には無理だと思います。私はこれでも剣技の訓練を、魔法の訓練と並行して行ってきましたし、女神となった事で身体的・精神的にもブーストが常時掛かっているような状態ですから」


「そ、そりゃそうだよな…」


実際、迫り来る巨体を鼻先スレスレで避けながら、後方にバックステップなんて出来るはずがない。

瞬発力とか、反射神経とか、運動神経とか、そういうレベルじゃない。

ロールを殺しきらずに、回転の勢いをそのまま後方に下がる動きに加えているのだ。


尋常ではない脚力と、何事にも動じない精神、屈強な三半規管。

彼女がさり気無く行った今の戦闘、その中の動作一つ一つは、人体の限界を軽く越えていた。


「ですが、啓一様なら可能かも知れませんよ?」


「何でだ…? 俺は運動に関してはあまり良い思い出がないんだが…」


「いえ、あくまで推測です。ですが、啓一様はこの世界の住人では在りません。つまり、根幹からして啓一様の身体能力は、我々≪ミッドガルズ≫の人間より遥かに上である可能性も否定は出来ないのです。あ、けど……勿論、逆も然り…ですが……」


言ってて気づいたのか、バツが悪そうに苦笑しながらフィアは告げる。

可能性から言うと、確実に後者だ。俺にあんな動きは到底出来るとは思えない。


「だけど、ワンチャンあるんだな……」


「わん、ちゃん?」


「あ、あー、まぁ、チャンスはあるんだな、って事」


「は、はい! その為にも、鍛錬は欠かせませんね」


勿論、その通りだ。

一朝一夕であの動きが出来たのならば、苦労はしないだろう。

目指すなら高い場所が良いが、高すぎて結局見上げるだけの結果になっては意味が無い。


一歩一歩、着実に。

あの動きに、あの速さに、あの美しさに。

近づけるよう努力していくしかないだろう。


「さて、では本題ですね。≪トルクメーラ≫に向かいましょう!」


「あぁ、急ごう」


俺とフィアは、言うが早いか、早々にその場を立ち去った。






◆      ◆      ◆






 活気に溢れる街の中心地。


小さな城壁で城下町は守られ、王城は城下町と橋で区切られている。

小国家≪トルクメーラ≫。規模としては東京サイズだろうか、或いはもう少し広いかもしれない。


「ここが、トルクメーラか…」


「はい。北東方面ではそれなりに大きな国家なんですよ、ここ。相対的に見ると小国家なんですが、地図もあるくらいには広くてですねぇ…」


雄弁に語るフィア。

俺はそれを半分流し聞きしながら、周囲を見渡した。


 行き交う人々の顔は、日本人のそれではない。理解していたが、やはりここが地球の日本と言う国家ではない事を俺は実感させられた。建て並ぶ建築物も、大体が総煉瓦作りで、道端には露店が並んでいる。取り扱っている商品も、食べ物から衣服、果ては武具やら馬具までと様々だ。


「啓一様、聞いてますか?」


「へ…? あ、あぁ、聞いてたぞ」


「それじゃあ、私が今何て言ったか、答えて下さい」


「バナナが食べたい」


「言ってませんよ!? 私をゴリラか何かと勘違いしてるんですか!?」


「いや、さすがにそれは無いけど…。うん、聞いてなかった」


「…最初っからそう言って下さいよ……。もう一度言いますね」


そう言うと、手に持っていた羊皮紙の地図を広げた。

フィアは無言で在る一点を指差し、ぐい、と俺を見上げる。


「ここが、≪冒険者ギルド≫です」


「裏路地にあるんだな」


フィアが指差した場所は、人で賑わう大通りから何本も外れた狭い路地だった。

俺のイメージとしては大通りの目立つ場所とか、コーナーに聳え立ってるもんだと思っていたが…。


「一応裏稼業ですからね。国家は黙認していますが、一応非公認なジョブです。国を守る騎士団とは違いますから、戦闘で命を落としても自業自得って感じですし。それに、発注されるクエストも、個人からの依頼が多くて、時折国家から発布されるものもありますが、非公認である事を明記している以上、目立つ所で国家の依頼を遣り繰りされては困るんですよ、面子もありますしね」


「なるほどな…。大手を振って歩けるほど、誇れる仕事じゃないわけだ」


「まぁ、所詮腕の立つゴロツキの集団ですからね。ただ、≪ダンジョン≫に潜ってひたすら敵を狩り続けていては、日銭を稼ぐ時間も少なくなってしまいます。それなら、一石二鳥に、鍛錬と仕事を並行出来る≪冒険者≫が一番手っ取り早いですし、簡単かと。後、変な連中に絡まれた時の対処とかも学べますし、損は無いですよ」


「……一生絡まれそうな気もするがな」


俺、どう考えてもひ弱そうだし。

取り敢えず、当面の目標である≪冒険者ギルド≫への登録はスムーズに終わりそうだ。


「それじゃ、向かいましょうか」


「そうだな」


こうして、賑わいを見せる大通りを外れて、俺とフィアはメルクトーラの路地裏を突き進む。



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