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異世界迷宮は女神と共に   作者: ピース☆
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第一話 森を抜けたら

 「………という事なのです。御理解頂けましたか? 啓一様」


にっこにっこにー、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべたフィアが尋ねる。


 あれから数時間。彼女からこの世界━━≪ミッドガルズ≫について、色々とレクチャーしてもらった。初っ端からぶっ飛んだ説明で、俺の理解の範疇を遥か超えた内容ではあったが、その手の知識に関しては最早ジャパニーズカルチャーである「二次元もの」に描かれる推測や憶測でカバーするしかない。と言うか、真面目に体内で全ての話を濾過するとなると、年単位の時間が掛かりそうだ。


取り敢えず、彼女の話を要約してまとめてみる。


 まず、≪ミッドガルズ≫は巨大な一枚岩の大陸≪エルフェギア≫と、それを囲むように浮かぶ六つの島々━━≪ケルフェス≫、≪ルーブラ≫、≪イオニス≫、≪ガーデンシャウト≫、≪ヘルポート≫、≪アライアンス≫によって形成される。島々、と言っても個々の島々が地球で言う所の中国以上の面積を誇っている為、もしかしたら惑星の規模としては、地球より大きいのかもしれない。


 次に、≪魔法≫。まぁ、これについては説明の余地が無いが、一応。≪魔法≫は全部で五つの属性、そして天性的に授かった≪聖属性≫を含めた合計六種の種族が在る。その全てが≪ステージ≫と呼ばれるもので区切られていて、1~6まであり、数が増えると威力や効果範囲が増加していく。また、全ての≪魔法≫は≪詠唱スペル≫を以て発動される。


フィアが使用したのは≪短絡詠唱ショートスペル≫。

威力を著しく失う反面、高速で≪魔法≫を発動出来る。初心者でも簡単に出来るそうだ。


勿論、逆に≪長調詠唱ロングスペル≫というものもある。

長い詠唱を経て、威力を一層増大させて放つ際に行う技だ。


 で、最後に。フィアの━━女神の仕事と、俺の責務について。俺がこっちの世界に呼び出されたのは、単純に死後の俺の魂魄が願望に変化し、結果それがこちらの世界と結びついてしまったからだそうだ。要は俺の願いの意思が強かったという話。そして、フィアの仕事は「世界の秩序を秘密裏に守る」というもの。各国のお偉い方にも、女神と言う存在は認められているらしい。


そんで、目下一番の問題が━━━≪魔王≫の降誕による、世界秩序の乱れである。


 ≪魔王≫は膨大な魔力と、人知を超越したあらゆる能力を持ち、その手で同族である≪魔族≫を生み出し、大陸に根付く猛獣達を飼い慣らして≪魔獣≫へと変貌させている。七人も存在するそいつら━━≪七魔王≫の手によって、≪ミッドガルズ≫は壊滅・崩壊の危機に追いやられているのだそうだ。


そこで、女神達は宿主を見つけて、その宿主と共に世界平和実現の為に尽力しているらしい。


 女神達は全員で十四名。その内の一人がフィアだ。フィアは≪魔法≫に関しては女神の中で頭一つ抜ける程の技量を持ち、その技術は世界一位と言われている(と語っていた)。


そんなわけで、俺もどうやら女神を従える≪勇者≫とやらになってしまったらしい。


「……御理解頂けたが、出来れば理解はしたくないな」


 微温湯な平和に浸かっていた俺が、突如として血で血を洗う戦争を繰り広げる渦中に突き落とされた所で、無駄死にする未来しか見えないのだが…。かと言って、最早世界レベルで危機感を募らせている案件に対して、仮ではあるがこの世界の住人となってしまった俺が断固として無視を決め込むのは、あまりにも虫が良すぎる話だ。何より、この世界において戦闘能力は必須事項に近いだろう。


一農夫をやるだけでも、日々オオカミやら猛獣と悪戦苦闘するらしいし。

何だかなぁ……。予想と全く異ならないが故に、自分がその境地に立たされると踏ん切りが付かない。


それはきっと、俺が常日頃から覚悟が足りなかったからだろう。


 こっちの世界の住人は、日々何事にも命を掛けているに違いない。猛獣と争いながら、日銭を稼いでは一日一日を満喫し、生きる為に懸命に戦っているのだ。それを、日々の安泰や平和を毎日ドブに捨てるようにして生きてきた俺が、受け入れる事が果たして出来るのだろうか…。


「私達女神だって、決して数が多いわけではありません。七の種族から二名ずつ、≪神託≫によって選ばれた者のみが成り得る特殊な職業です。選ばれた者の立場として、私は揺ぎ無い決心の下、己の責務を全うしたいと思っていますし、啓一様にもそれを助力して欲しい、と思っていますよ?」


「……それは、分かる。けど、不安だ。俺は別に喧嘩が強いわけでもないし、特別身体を鍛えていたわけでもない。フィアみたいに、戦闘能力が高いわけじゃないし、何より戦闘能力に関しては一欠けらも持ってないと思う。剣の振り方一つにしたって、俺は何一つ知らないんだ」


最初は驚いたし、感激もした。

やっと念願の異世界デビューだ、なんてはっちゃけて、形振り構わず喜びたかった。


けれど、この世界の惨状を知れば知るほど、如何に自分が愚かで低俗な人間かが分かってくる。


そんな心中を察してか、フィアは柔らかな声音で告げる。


「大丈夫です、啓一様。私が付いていますし、何より、最初から何でも出来る人なんて居ません。私も、長い練習や訓練を経て、今ここに居ます。だから、無理と決め付けるのは、やってからにして下さい」


俺はただただ、沈黙を貫いた。

今更になって、地球で過ごした平穏な日々が如何に素晴らしいものだったかを感じる。


すぐ目の前には死の恐怖があり、絶対的な安全が本質的に存在しない世界。


……だが。


「そうだな。悪い、フィア。俺、少し頑張ってみるわ」


「はいっ! その意気です!」


もう俺は諦めない。日本に居た頃のように、何も出来ない人間にはなりたくない。

フィアだって付いているんだ。素質も才能も無いかもしれないけど、それでも頑張るしかない。


そう、俺はもう高校生だった横溝啓一ではない。


≪ミッドガルズ≫の女神に選ばれた、勇者なのだから。






◆      ◆      ◆






 「啓一様、大丈夫ですか?」


「気にするな……!」


俺はジェラルの魔王が如く、力強くそう言った。

現在、≪精霊の森≫と呼ばれる≪エルフェギア≫の北東に位置する森を抜けている最中だ。


 フィアと一緒に世界に平和を取り戻す為、奮闘すると決めた俺。であれば、善は急げだ。俺とフィアはこの森を抜けてすぐにある小国家≪トルクメーラ≫で、≪冒険者登録≫をするつもりなのである。


 ≪冒険者≫とは、フィアや他の女神達のように≪魔族≫や≪魔獣≫を狩るのが仕事だ。だが、彼らの仕事に対する根幹の意識は全く別物で、フィアを仮に慈善の精神とするなら、彼らは利己的な欲望である。日銭を稼ぐ為に、≪冒険者ギルド≫で発注されるクエストをクリアし、報酬をもらっているのだ。


「≪冒険者≫になったら、階層の少ない≪ダンジョン≫で慣らしていきましょう!」


「そ、そうだな…」


≪魔王≫が生み出したのは≪魔族≫や≪魔獣≫だけではない。


≪ダンジョン≫


 ものによっては、超高層ビル並みの階層を誇る(無論、地下に、だ)迷宮。最下層に到着し、その≪ダンジョン≫のボス格を討伐する事で≪ダンジョン≫は自然消滅する。ボス格の討伐後、≪ダンジョン≫入り口へとワープ出来る特殊な鏡━━≪リータンミラー≫が出現し、≪ダンジョン≫の崩壊が始まる前に≪ダンジョン≫を抜けることが可能だ。


因みに、≪ダンジョン≫とは略称、或いは的確な呼称であり、正式名称は≪異世界迷宮≫だ。

俺からすれば異世界はここなのだから、何だか変な気分では在る。


まぁ、それより問題なのは俺の持久力の無さだ。


たかだか山を下るだけで体力を漠然と消費してしまっている。

こんな事になると事前に知っていたのなら、陸上部にでも入部していたんだがな。


「丁度中腹って感じですね。≪精霊の森≫は山地の上方部に存在しますから、下山に掛かる時間は後数十分と言ったところでしょうか?」


「そ、そうか。分かった…」


「啓一様、無理をなさらないで下さいね? 疲れた、と思ったら一言声を掛けてください」


「疲れた」


「早いですねっ!?」


いや、今まではフィアが会話をしながらも黙々と進んでいたから付き従っただけだ。

フィアが休んでも良いと言うのなら、お言葉に甘えさせてもらおう。


丁度いい所に腰を掛けれそうな切り株がある。

中腹、というだけあって、開けた場所も多い。

フィアは、隣接するように俺が座っている切り株の隣に腰を下ろした。


ふわり、とロングドレスが少しだけ舞い上がり、透き通るような白色を呈する足元が見える。


ひゅぅぅ……と少し強めの、涼しい風が通り抜ける。

無言の沈黙が舞い降りるが、全く以て苦ではない。先程とは大違いだ。


そうして数分した頃、俺の汗の出も収まりつつあり、体力も幾分か回復した。


「そろそろ行くか」


「はい!」


そう言って俺とフィアが立ち上がる。

その時。


「グゴォォォォォォォォォォォォ!!!!」


獰猛な咆哮が木々を揺らし、ゆったりと流れる風を裂いた。

瞬間俺は身構え、フィアの表情が真剣味を帯びる。


「な、なんだ!?」


「どうやら……付近の≪ダンジョン≫が≪オーバーフロー≫しているようです」


「お、オーバーフロー?」


「はい。≪ダンジョン≫はその中で無限に≪魔族≫や≪魔獣≫を生み出す、モンスターボックスです。しかし、階層が決まっている以上、中で生成される数には限度があります。人目に付かない≪ダンジョン≫では、限度数を越えた≪魔獣≫が飽和状態になるのです。勿論、秒単位で生まれるわけではありませんから、執行猶予はそれなりに有りますが……どうやら、今回はそれが裏目に出たようですね」


「ど、どうするんだ? 行くのか?」


「行くしかありません」


「そ、うか……。分かった、よし、行こう」


「啓一様も、ですか?」


「俺は役に立たないかも知れないけど、今回の戦闘を直に見る事で何か得られるものがあるかも知れない。絶対にフィアの邪魔はしないよ」


「……ふふ、そうですか。分かりました。でも、気をつけてください。先程の咆哮……只者ではありません」


「ああ、分かった!」


言うと、フィアは先頭を切って走り出した。

力強い走りだ。その素早さはきっとセーブしている状態なのだろうが、それでも十分早い。


「(……俺も、負けられないな…!)」


一応、男としての義理というか、矜持はある。

一刻も早く、フィアと肩を並べられるような力が欲しい。


俺はひたすらに目の前のフィアを追い続けた。



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