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異常な日常

「あ、いましたいました。こいつらときたらゴキブリにも負けず劣らずしぶといですねー、いったいあと何体滅したらいなくなってくれるんでしょうか」

 三重県伊勢市、付近の山奥。暗闇に紛れた一人の少女が身の丈以上ある銃のスコープを覗き、愚痴をこぼす。

 銃はさながらSFのキャノン咆のようで、その長い銃身は生い茂る木々の隙間から微かにふ見える月を鮮明に映していた。

 少女は砲弾も余裕で入りそうな銃口を目標とするものに向け、鬱陶しげに肩にかかった長い髪を背中へはらう。

 射線上には黒くわななく無数の影が群れをなしている。誰かが率先している訳ではなく、魂が抜けたような足取りでただ何かを求めさ迷っている。無論人間ではない。

「この程度なら霊媒師さんでも祓えたんじゃないですかね。わざわざ私が出るほどでもなかったか…………なっ!」


 少女は躊躇なく引き金を引いた。途端に唸る奇怪な銃が仄かに熱を放ち、空気をその内に溜める。


 ―――数秒後、山を、森を、町を、光が全て覆った。


 光が薄れ、視界がはれると無数の影は最初からいなかったかのように忽然と姿を消していたが、他に特に変化はなかった。

 ふと、彼女が持っていた長方形のタブレットが震える、どうやら携帯のようだ。

「はい、こちら天照です。依頼どうりにしっかりと滅しましたよ……………ええ………はい、そうです………ええ!? 次は北海道ですか? 私、今帰ってきたばかりなんですが………え、ダメ?…………ちっ、こうなりゃ自棄です私歩いて行きますから! は? 方向音痴? 知ったこっちゃねぇですよ、少しでもサボ……もとい休憩がほしいんです!」

 通話相手がまだ何かを言っていたが、天照と名乗る少女は無理矢理通信を切り、近くのちょうどいいサイズの石に腰掛け特異な形状をした銃を撫でる。

「神様も楽じゃないですね……」

 ぼそりとこぼした独り言は虚しく森に消えていった。






「あぢ~~~~~」

 太陽は空高く昇り、俺を笑うかのようにセミが鳴く。そんな炎天下の昼下がり、俺こと柊秋人(ひいらぎあきと)は汗をぬぐいながら歩いていた。

「くそ、冷房の効いた図書館で宿題なんてするものじゃねぇな、同じこと考えてる連中がうようよ居やがったよ」

 それでも昼過ぎまでは順調に課題を終わらせていたのだが、見知った顔の学生が入ってきて俺はバレないように図書館を抜け出した。

 しかし暑い、マジで暑い……よし、アイスでも買って涼もう。

 そう思った時にはすでにコンビニの前に立っている俺。体は正直なようです。


 新商品のバナナミント味の棒アイスを口に突っ込みながら進路を自宅へ。

「うへぇ……不味い、ドレッシング味にすればよかったかも」

「お主またそんなゲテモノを食っておるのか」

 家と家の隙間、昼でも薄暗い猫の通り道のような路地から声がかけられた。

「よう魅鬼姫(みきひめ)か。相変わらずお前らって昼間はそうやって影に隠れてんのな」

 闇に目を凝らせばかろうじてその姿を捉えることができる。

 緑系でまとめられた和服にさらりと流れる長い髪。あと特徴があるとすれば中学生にも満たない身長と、歳相応の可愛らしい顔に似合わない年寄り臭いしゃべり方だ。

「ふん、昼間もひょうひょうと歩けるやつの方が異常なのじゃ」

「俺が普通じゃないって言いたいのか?」

「そうなるのう」

「俺からするとお前らの方が変なんだがな……」

 魅鬼姫はカカカと高らかに笑った。

「じゃが、異常ということは否定せんのじゃろ?」

「…………まあな」

 溶けかけのアイスをすべて口に収め、棒だけ抜き取る。残念、当たりを引いてしまった。

「さて本題に入るか――」

 嫌そうな顔をしているであろう俺の前で魅鬼姫が壁にもたれ、目だけ向けた。それまでの雰囲気がガラッと変わる。

 どうやら世間話をするためだけに声をかけられた訳ではないようだ。

「昨夜、組の一人が大怪我を負って帰ってきてのぅ」

「大怪我って、何やってんだよあいつら……」

「まあ怪我なんぞ日常茶飯事じゃしワシは気にせんつもりじゃったが、傷口を見てそうもいかなくなった」

 魅鬼姫は少し息を吸い、ゆっくりと言葉にした。

「――神につけられた傷じゃった」

「なんだと?」

 眉がピクリと動く。

「落ち着け、お主が危惧事態まではまだ確認できておらん。が、油断ができないのも事実じゃ。まぁこの程度の火の粉を振り払えぬようでは、契約者として未熟だと思うんじゃがのう秋人?」

 ニヤリと口を三日月につり上げる魅鬼姫。

 こいつ……俺の事情を知ってるくせに嫌がらせのように言ってくる。いや、知ってるからこそか。

「わかってる。精々足掻いてやるよ……元々そういう契約だしな」

「カカカ、その台詞小娘にも聞かせてやりたかったわい」

 それは勘弁願う。

「――たく、これだから鬼は……」

 魅鬼姫に分かるように大きくため息をつき、せめて曇ってくれよと太陽を睨んだ。

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