番外編その1『地獄魔界大魔王将軍のあゆみ』
.一つの物語が終わっても、その中の人物達には続きがあります。
廃人として戦い切った彼らにも普通の人生が続いています。
超絶蛇足と評判のジョナレンジャー番外編。
ジョナレンジャー達と出合うより前の話。
地獄魔界大魔王将軍である山梨健人には、天国天界天使女帝という同僚の女がいた。
スタイルが良く、顔立ちも整った女だった。
戦闘員からの生え抜きである山梨と違い、天国天界天使女帝はスポンサーの娘の推薦入隊という、いわゆる引き抜き幹部だった。
引き抜きの理由はスポンサーの娘さんが無職の友人を何とかしようとしての事だと言うから、何ともやり切れない話である。
しかし、そんな事にこだわる程山梨は見識の狭い人間ではない。お互いに部下をまとめる苦労を持つ者同士、仲良くしようと思っていた。現に一度二人で飲みに行った事もあった。
引き抜きには引き抜きの苦労があるらしく、部下達の信頼を得るのが難しいとの悩みを語られた。他にも色々と話はしたのだが、あの日の事は酒のペースを間違えてしまった為、あまり覚えていない。
その飲みの席からいくらか経った頃、山梨は天国天界天使女帝に呼び出され、とある喫茶店まで出向く事になった。
喫茶店で向かい合って座った時、彼女は言った。
「前に一度、二人で飲みに行ったの覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ」
「生理がこないの」
……マジで?
オレ何もした記憶ないんだけどまさかあの飲みの席で何かあったのか?
でも目覚めたの家だったぞ?
これからどうしよう。地獄魔界大魔王将軍の給料ったってそんなねーし。何より一生続けられる職でもねーぞ。転職? ていうかまず結婚?
オレ試されてるとかいうオチじゃなくて? え? マジ?
カメラどっかにあるんじゃないの? って素人の俺をドッキリしてどうするアホか。
ていうか、あー、これまた妹に嫌われるパターンだわ。ただでさえ煙たがられてんだぜ? 目とか合わさずに会話してきやがんの、アイツ。
悪の将軍がばらまいてたのは災いの種じゃなくて子種でした……ってやかましいわ。
いっそ殺すとか? 樹海とかに埋めればバレないって聞くし。
いや、だが責任としてやっぱりオレがこいつと子供養うしかないよな。子供育てるのっていくらかかるんだろ。分からんよ、経験ないしね。
しかしまあ、こいつの事は嫌いじゃないし、この際両方とも養ってやるか。オレだって男だ。
なんて一瞬で百通りぐらいの考えが頭の中駆け回ったけど。
結局口から出てきたのは全く違う言葉だった。
「オレもだよ」
*
喫茶店の中で、天国天界天使女帝は大笑いしていた。ああ、可笑しい、と何度も繰り返し、呼吸困難になりそうな程笑っていた。
「そういう返しは初めてね」言って、またクスクスと笑う。「安心して、ウソだから。今までのやつらは結局騙されて私にお金取られてたんだけど、ダメだ。笑いを堪えられなかった」
「こういうウソは、結構きつい」
苦笑を浮かべて、山梨は言う。
内心は安堵していたが、反面少し残念な気もしたのは何故だろう。
「もう、この手のウソはやめる。改めてよろしく。天国天界天使女帝、本名は静岡あゆみ。恋人いないわ。募集もしてないしね。今までの人生後悔だけはしてないつもり」
「あ、ああ。よろしく。地獄魔界大魔王将軍、山梨健人だ」
「くっく、しかし、オレもだよときたか」
*
それから2年とちょっと後、ジョナレンジャーとの最後の戦いを終え、お互いに役割を果たした二人は今まで貯めてきたお金を出し合って店を開いた。
小さなお好み焼き屋だったが、二人の新しいスタートにはちょうど良かった。何より共にやりたい事をやっている、というのが二人にとって大きなポイントとなっている。
お店はそこそこ繁盛し、山梨の妹もちょくちょく遊びに来た。
「良かったじゃん、友紀ちゃんと仲直りできて」
「お互い、もう大人だし、あいつも折れてくれたからな」
「ところでさ、」
片方の目を細めて静岡は悪戯っぽく笑う。
そして、こう言った。
「生理が来ないの」
昔の事を思い出す。
けれど今回は、すぐに答えを出すことが出来た。
笑って、山梨は言う。
「結婚しよう」
静岡もまた、笑っていた。
~(地獄魔界大魔王将軍/天国天界天使女帝)~