第一話『戦士の目覚め(前編)』
初めてまとも? に書いた小説です。
拙作ですが、思い出色々。
よくある戦隊ヒーロー物です。欠点を抱えた人間達の成長活劇、のつもり。
子ども達は正義のヒーローを信じてる。
何処にもいない正義のヒーローに憧れる。
何処にも存在しないのに……
多くの人はそう思っていることだろう。
俺もそうだった。
―――否。正義のヒーローは存在した!!
*
目が覚めたら裸にされていた。
両手両足を拘束された俺の耳元で、中年の男が囁く。
「聞かれる前に答えておくが、ここはジョナレンジャー本部であるファミレスだ。そして、おめでとう。今日からキミはジョナブルーだ」
おそらく頭がおかしいのであろうその男は、俺の拘束を解くと、シャツとズボン、そしてジャケットを渡してきた。こんなもの何処で売っているのか、と言いたくなる程全てが真っ青だ。
裸のままも嫌なので仕方なしに着てみたが、思いの他しっくりくる。そんな馬鹿なと思っている内に、男が話を進めた。
「それでは、仲間を紹介しよう。ついてきたまえ」
言われるままについていくと、畳二畳あるかないかという狭い個室に案内された。中央に置かれた長方形のテーブルのせいで、なお更狭く感じる。
そこに三人の男が、敷き詰めて座っていた。
どいつもこいつも馬鹿みたいなトータルコーディネートで、黒、白、ピンクといる。
最悪なことにピンクは男だった。
「まったくこの時期にメンバの入れ換えかよ。ただでさえ1月から10月は不安定になるってのに」
黒い男が言う。
人生の大半じゃねぇか。
「今発言したのはジョナネガティブラックの黒田克也だ。その隣に座っているのがジョナショッキングピンクの桃井大助。戦闘時は主に格好付けたポーズで立っている。クックコートを着ているのが、ジョナクックホワイトの白洲照だ。戦闘時は主にフライパンで敵を殴っている」
「よろしくな」
桃井が言い、
「マジ死ねし!」
白洲が言った。
「レッドは今接客の真っ最中だ。ホールをやっているから、見にいってみるといい」
欠片も興味無い話だったが空気を読んでフロアに出ると、上下共に真っ赤な格好をした店員が客をたこ殴りにしているところだった。
絶対あれだ。間違いない。
「ぼ、暴力は止めて下さい」
顔をかばいながら、殴られている親父が言った。
「店員の事も考えず、バンバンデザートを頼んでくるお前は暴力をふるっていないと言えるのか?」
赤い男はさらに親父を殴り続ける。
「アレが、ジョナブチキレッドの赤沼祐二だ」
いつの間についてきたのか、桃井が言った。
「一つ聞きたいんですけど、女の子はいないんですか? マジブルーかマジピンクみたいなのがいいんですけど」
「そりゃ、お前、さすがに女子高生や主婦を戦わせるわけにはいかないだろう」
「そうですね」
そういう事らしかった。どうやらこの店の女店員は女子高生や主婦らしい。今度あらためて来る必要があるな、と俺は思った。
「先代のブルーはどんな人だったんです?」
「おやおや、一つじゃなかったのかぃ?」
勝ち誇ったような顔で、桃井が言う。
鬱陶しいことこの上ない。
「先代はジョナロウニンブルーの青柳翔って言うんだが、勉強が忙しくてな。いつも午後七時からしか参戦出来ないからって辞表を出したよ。戦闘時には主に勉強してるようなヤツだった。ああ、そうだ。これ渡しとくよ」
そう言うと、桃井は腕時計の玩具にしか見えないものを俺に渡した。全体は黒く、ペットボトルの底程もある円形の部分にJという文字が刻印されていた。このJの文字がひときわダサさを際立てている。ちなみにJは青かった。
「後で変身ポーズとか書かれてるノート渡すから、読んでおいてくれ」
「他に注意することとかありますか?」
「あるぜ」
いつの間に現れたのか、黒田が言った。
基本的に突然現れて突然喋るという趣向らしい。
「レンジャーウォッチのボタンを押せば一瞬でレンジャースーツに変身出来る訳だが、このスーツは口元が塞がっているんだ。だから、激しく動き過ぎるとすぐに息切れする。そこだけ注意しとけば大丈夫だ。ボタンの位置は分かるな?」
これはどうやらレンジャーウォッチという名前らしい。
少し探してみると、すぐにボタンが見付かった。
「ああ、ありました。大丈夫です」
「東京までの定期があると便利だし! 敵は何処に出るか分からないし!」
いつの間に出てきたのか、白洲が言った。
「給料は日給五千円だが、電車賃込みってとこに注意だな」
赤沼が言う。いつの間に近付いてきたのかはもちろん分からない。
「よろしく頼むぜ、ジョナブルー」
ぽん、と赤沼が俺の肩を叩いた。
全体的にキャラが被っている気がするのは、きっと気のせいではないはずだ。
そんな事を考えた直後だった。
店内に豪快なサイレンの音が鳴り響いた。
「緊急事態だ! 柏に怪人が現れた! 出動だ!」
「大変だ!」幾分演技じみた声で、赤沼が言う。「すぐに行くぞ!」
男達は軽快な足取りで出口へと駆けていく。
一緒になって走ってしまうあたり、俺も大人になったということか。
まったく、やれやれだ。