~ 7 ~
席に着いた二人の前に白髪で身体の大きい男が現れた。
「いらっしゃい、何にする?」
そう尋ねられ、相手がこの酒場のマスターだと理解したレイヴァンは美味い物なら何でも良いと答え、リルは魚料理を注文した。
「……飲まないのかい?」
酒場に来て酒を頼まない客は珍しい。
自然な流れで質問をぶつけられると「呑むです!」とリルが間髪を容れずに答えた。
「おいおい、お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないかい?」
「何言ってるですか! リルはもう立派な大人です!」
リルは誰が見ても少女のように幼く見える。
飲まないのかと尋ねたマスターも質問の矛先はレイヴァンだった。
しかし、彼女は先日十六歳の誕生日を迎え、世間一般的には間違いなく成人の女性となる。
何より彼女にとっては子供に見られることが不満なため、小さな手で机を強く叩くと立ち上がって笑うマスターを睨み付けた。
「実に威勢の良いお嬢ちゃんだ! 気に入ったよ。 そういうことなら魚に良く合う上物の葡萄酒があるから出してやろう」
「そうこなくっちゃです!」
目を丸くして驚いたマスターだったが彼女の勢いに感心すると声に出して笑った。
リルもまた彼の一言で険しい顔が一瞬で綻ぶ。
「金髪の旦那はどうする? あんたも何か呑むかい?」
「必要ない」
レイヴァンが即答すると、そのあまりにも無愛想だった言葉にリルが慌てて言葉を付け足した。
「ご主人様は、お酒を呑むと暴れるから呑まないようにしてるんです!」
「そ、そうか、なら無理には勧めないよ。 その腰にぶら下げた剣で店内を壊されても困るしね」
一瞬表情を凍らせたマスターは笑いながら裏へと入っていって、料理の準備に取り掛かった。
酒場のマスターといえば、カウンター席の前で酒を注いで客の相手をしたり、手持ち無沙汰に洗い終えたグラスを拭いているものなのだが、ここのマスターは自ら料理をするらしい。
若い給仕の女性も居ないし、人手不足なのであろうか。
コックに混じり奥で調理をするマスターを興味津々に見つめているリルの横で、レイヴァンは豪快に飲み食いしているブライトの様子を見つめながら静かに何かを考えていた。