~ 3 ~
再び口を閉ざし歩き始めた三人だったが、先頭を行くレイヴァンは急に立ち止まり、次の瞬間には表情を引き締めていた。
少し先に見える森の茂みが、風の流れとは別にざわめくのが確認できたからだ。
そこに何かが潜んでいるのは間違いない。
「四匹いるな」
長年の経験と鋭い感性を持つ彼は、真っ先に悪魔の存在を感じ取っていた。
すぐに側にいた二人に声をかける。
「ブライトは右の茂みに潜む二匹を」
「任せてくれ」
「リルはしばらく下がっていろ」
「はいです!」
突然のことだというのに二人は慌てる様子を一切見せなかった。
レイヴァンの短い指示を慣れた様子で受け止めるとすぐに行動に移す。
ブライトは担いでいた荷物袋をリルに渡すと腰を落として構え、リルは袋を両手で抱きかかえて数歩後ろに下がった。
二人の様子を見届けたレイヴァンは腰に差していた剣を左手でゆっくりと抜いて構えた。
木々の揺れる音が次第に大きくなった。
「来るぞ!」
レイヴァンが叫ぶのと同時に、茂みから何かが数体飛び出して来る。
人間よりも一回りも二回りも大きく、茶褐色で泥にまみれた身体。
ひどく崩れた醜い顔、手には木を引き抜いて作った棍棒。
オークだった。
オークの知能は低く見境なく暴れては獲物を捕食する下級悪魔なのだが、単純な故にそれが最大の脅威でもある。
今も視界に入った三人を食料と判断し、食事にありつけると突進してきたのだ。
レイヴァンとブライトはそれぞれ二対ずつ襲来した悪魔を迎え撃った。
一匹目のオークがレイヴァン目掛けて飛びかかり大きな棍棒を振り下ろす。
巨体とは思えぬ予想外の素早い動きに一瞬目を見開いた彼だったが、紙一重でかわすと、すかさず反撃に移った。
土埃に紛れて側面に回り込むと、剣を真横に薙ぎ払う。
そして続け様に左右から斬り上げる。
あまりにも一瞬すぎてオークには何が起きたか解らなかった。
気がついた時には自分の右腕は切り落とされ、黒い血が地面に小さな池を作ろうとしていた。
痛みと怒りで吠えたオークは再度襲いかかろうとしたが、それよりも早くレイヴァンは追撃に動いた。
両足を斬りつけて行動の自由を奪い、腹に斬撃を食らわせる。
オークはうつ伏せに崩れ落ちて、小さく痙攣したままその場から動かなくなった。