~ 36 ~
「どうして!」
「どうやら、あいつの上にはまだ誰かが居るようだ」
「上? ……メフィストフェレスか?」
「だと良いのだが」
「ご主人様〜!」
蝙蝠が飛び去り悪魔の気配が完全に消え去ったところで、檻の中からリルが飛び出して来る。
「リル、怖かったです」
安堵からか目を潤ませながら身体を強く抱きしめてきた彼女を、レイヴァンは髪を軽く撫でて慰めた。
「レイヴァン、生きている女の子たちは全員助け出したぜ!」
しばらくして、ブライトの声が静かな室内に響いた。
「なら、我々も酒場に戻るとしようか」
「リルはもう一度寝たい気分です」
「俺もゆっくりと寝たいぜ」
三人は歩調を合わせ屋外へと歩き始めたが、突然レイヴァンが立ち止まり、次の瞬間には右手を押さえて床に片膝を着きうずくまった。
「レイヴァン!?」
「ご主人様!?」
思わぬ出来事に先に進みかけたブライトとリルが慌てて駆け寄って声をかける。
「大丈夫か!? 今までこんなに……」
「これぐらい大したことじゃない。 久々に少しばかり詠唱無しで術を使いすぎただけだ。 これぐらいで悲鳴を上げる身体では、俺はまだまだだな」
そう答えたものの、額には汗が浮かび顔は苦痛で歪んでいた。
「本当に大丈夫か?」
「力が戻れば、直ぐに痛みも治まる」
「それは、そうだけどさ」
「いいから、酒場に戻るぞ」
「解ったから無理はするなよ」
「心配しすぎだ」
全ての女性を解放し終えたレイヴァンたちが屋敷の外に出ると、東の空が明るくなっていた。
「夜明けか」
「リルはとっても眠たいです」
「今更ながらあの悪魔は精霊石に封じて金にするべきだったような」
彼らは各で呟くと、酒場を目指しゆっくりと歩き出した。