~ 33 ~
身構えたレイヴァンだったが、予想以上に速い動きで振り下ろされてきた爪がコートの一部を切り裂いた。
あと少し後方へ回避が遅れたら致命的な傷になっていただろう。
さらに数歩後退すると、体勢を低くして剣を構え直した。
「私を消すのではなかったか?」
「これからだ」
彼は駆け出すのと同時に呪文を唱え始める。
「刹那を煌く光の精霊よ!」
「その術は既に見切ったのが解らぬか!」
呪文を遮るようにルーマが声を上げると、彼は呪文の途中で光に包まれて姿を消した。
「そのような稚拙な行動に驚くとでも思ったか?」
レイヴァンが消えた瞬間、ルーマは素早く空中へと飛翔していた。
彼が現れたのは彼女が立っていた所だった。
薙払った剣が虚しく空を斬る。
「やはり、消える瞬間に移動先が決まるらしいな。 必要のない呪文を敢えて詠唱することで惑わしたつもりなのだろうが、人間が考えそうな浅知恵よ。 消えた瞬間その場から離れれば何ら怖くない。 無論、こちらからの攻撃も可能となる」
「魔力を得て知力まで身につけたか」
「私に同じ術は通用せぬ」
次はこちらの番だと言わんばかりにルーマは空中から急降下してレイヴァンに襲いかかった。
連続で繰り出される攻撃をレイヴァンは巧みに受け流し、回避できない攻撃は剣で受け止める。
僅かな間があれば攻撃に転じた。
一進一退の攻防が繰り広げられていたが、次第に今度は彼の中で焦りが生まれてきた。
大口をたたくだけあってルーマの動きは格段に良くなっている。
黒い短剣の魔力を取り込んでからというもの疲れを感じていないようだ。
比べてこちらは剣を使う限り力を消費し続ける。
長引かせると明らかにこちらが不利。
独り言のように呟くとレイヴァンは自ら彼女との距離を取った。