~ 30 ~
「セバス、良いところに」
形勢が好転するのを感じたのか、傷ついたルーマに不敵な笑みが戻る。
「さぁ、早く剣を捨てて頂きましょうか」
「痛っ!」
老人が爪でブライトの背中を少し突くと彼は短く声を上げる。
「そいつの正体を知らなければ異様な光景だぞ」
「面目ねぇ……」
小さな老人に捕まる若い大男。
レイヴァンは嘆くように小さく呟く。
そしてひとつため息をついてから、剣を握る手をゆっくりと緩めた。
剣を手放そうとするのを見て、ブライトが声を上げる。
「レイヴァン、それはやめろ! 俺のことは気にせず、こいつらを!」
だが彼はブライトの声には耳をかさず、そのまま剣を床へ投げ捨てた。
「これで、完全に形勢は逆転というわけじゃな」
ルーマはその剣を笑いながら拾うと、刃をレイヴァンに向ける。
「あんたはかなりフラフラに見えるが、それでも逆転か?」
レイヴァンは不利な状況でも鋭い視線を彼女に送っていた。
「その表情をいつまで保っていられるかな」
ルーマの高笑い声が屋内に大きく響く。
「それでは、どの順番でどうやって殺してやろうか。 連れと思しき娘が先か、セバスに捕まった男が先か……」
ルーマは不敵に笑いながら舐めるように二人を見渡すと、一歩も動かないレイヴァンとの間合いをゆっくりと詰めた。
「やはり私に立てついたお前を一番最初に殺してくれるわ!」
ルーマがレイヴァンの心臓を目掛けて剣を衝くと、檻の中で固唾を飲んで戦況を見つめていたリルの悲鳴が屋内に響いた。