~ 26 ~
レイヴァンは屋内に入り、しばらく赤い絨毯の廊下を走るとひとつの扉を見つけた。
扉の向こう側に禍々しい力を感じる。
「ここか」
一呼吸してから剣を抜くと扉を開けた。
扉を開けた彼の視界に、多くのモノが飛び込んでくる。
煌びやかで広々とした室内に相応しくない鉄の檻。
その中には力無く座り込む多くの女性。
その傍らに立つ倒したはずの老人。
そして一番奥には派手なドレスに身を包んだ女性がいた。
レイヴァンはすぐに禍々しい力を放っている正体を感じ取った。
「お前が今回の事件を起こした悪魔だな」
「ご主人様!」
室内にレイヴァンが入って来るのが見えると、リルは変化を解き人間の姿に戻った。
静かだった部屋に彼女の声が響く。
思わぬ声にルーマと老人は驚き、檻の中に居るリルを見てからレイヴァンに視線を向けた。
「ご主人様! そこに居るお姉さんがお姉さんの首にガブッと噛み付いてチューってすると、お姉さんがお婆さんになって、お婆さんだったお姉さんがお姉さんになって、がりがりになったお婆さんがお姉さんにばりばりに食べられちゃって、それで、それで!」
「落ち着け、リル」
「と、とにかく! 今回の事件はそこにいる見た目は若いけどお婆さんのせいなんです! お婆さんが若い女性を食べちゃうんです!」
リルが相手に向かって指差すと、今までずっと動かずにいたルーマはゆっくりと檻へと近づいた。
「この美しい私をお婆さんなどと呼ぶとは断じて許せぬ!」
そして大きく眼を見開いて叫ぶと、目に見えない衝撃波がリルを襲った。
彼女は吹き飛ばされ、鉄格子に叩きつけられる。
「今度そのようなことを言ったら、お前を真っ先に喰らってくれる!」
さらに檻へと近づく彼女をレイヴァンが呼び止めた。
「それ以上、そいつに手を出さないでもらおうか」
厳しい表情で、剣先をルーマに向ける。
「手を出したら、どうなるというのじゃ? まさかその剣で攻撃を仕掛けようとでも?」
「そうだ」
「笑わせてくれるではないか、私とお前は十歩以上離れておると言うに」
彼女がまた一歩リルに近づく。
「悪魔なんてそんなものだろうな」
レイヴァンは剣を強く握ると、すばやく言葉を紡いだ。
「刹那を煌く光の精霊よ、光の道を開きて我を導け」
言い終わるや否や彼の身体は輝き、次の瞬間にはルーマの隣へと移動していた。
突然の出来事に彼女は驚きを隠せない。
「お前、何を!」
レイヴァンは質問に答えることなく、すかさず剣を薙ぎ払う。
彼女は慌てて後ろへと跳躍して、間一髪のところで攻撃をかわした。
「なかなか良い判断だな」
レイヴァンが不敵な笑みを浮かべると、その表情を見てルーマは震えた。
「ふざけた顔をしてくれる! ガーゴイルや、始末しなさい!」
「かしこまりました」
ルーマが指示を出すと老人は主人に向かってゆっくりとお辞儀をした。
それから踵を返すと物凄い勢いでレイヴァンに向かってきた。