~ 21 ~
その頃、リルは暗く狭い部屋で目を覚ました。
そしてすぐに様子が違うことに気が付いた。
大好きなご主人様が見あたらないし、柔らかいベッドもない。
湿気に満ちた空間でカビ臭さが鼻を刺した。
「ご主人様?」
彼を呼んでみたが、もちろん返事はない。
自分の声が部屋の壁に跳ね返り虚しく木霊した。
頭を傾げながら、きょろきょろと辺りを見渡すと前方に大きな鉄格子の扉があることに気が付いた。
リルは扉に向かって歩き出したが、足が思うように動かない。
それどころか扉の一歩手前で完全に動けなくなり、バランスを崩した彼女は前のめりで倒れこんだ。
自分の足元を見ると、両足首にしっかりと枷がはめられている。
部屋の壁と繋がっている鎖は足を動かすたびに重厚な音を立てた。
「いたたたです。 しかし、この状況は……」
打ちつけた鼻を撫でながら考え込んだリルは、ようやく自分の置かれている立場を理解した。
「リル、捕まっちゃったです!」
彼女の叫び声は、辺りに響いた。
その叫び声を聞いてか、しばらくして何者かが近づいてきた。
薄暗い部屋に足音が響く。
「これはこれは、やっとお目覚めですかな?」
リルの前にタキシードを着た白髪の老人が現れた。
「お爺さんは誰ですか!? リルをここから出すです!」
「おやおや、それは無理な御注文ですね」
激しく食ってかかるリルとは逆に老人は落ち着き払っている。
「何でですか!」
「……何で? それはすぐに解りますよ。 その時がくるまで、この地下牢の中で大人しくしていることです」
老人は不敵な笑みを浮かべると、リルに背を向けた。
「何しに来たですか!」
「食料の様子を見に来ただけですよ」
「しょ、食料?」
「もうしばらく寝かしておいた方が、より美味しくなりそうです」
背を向けたまま老人は笑い、その場から立ち去った。
再び一人になったリルは大きく唾を飲み込んだ。
「何かとっても危険な感じがするです。 こんな所からは早く逃げるにかぎるです! リルを甘く見ないで欲しいです」
目を閉じ意識を集中すると彼女は淡い光に包まれて瞬く間に小さな黒猫へと姿を変えた。
身体が小さくなったことによって足枷は何の意味も成さなくなった。
束縛から解放されると牢屋の鉄格子の間もすり抜けて、勢い良く外へ飛び出した。