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しばらくの沈黙の後、魔犬がゆっくりと距離を取り始めた。
突然の出来事に訝しんでいると、闇の中から声が聞こえてくる。
同時にタキシードを着た白髪の老人が音を立てずに現れた。
「これはこれは、私の犬がご迷惑をおかけしたようで」
彼は腕を静かに胸の前にもってくると深くお辞儀をする。
一件紳士的に見える行為だが、その老人の放つ不気味な魔力を感じ取りレイヴァンはすかさず剣を構えた。
「おやおや、穏やかではありませんね」
「悪魔がよく言ったものだな」
レイヴァンの一言に相手の眉がピクリと動く。
「これはこれは、良くご存知で」
「お前がこの町で悪さをしている悪魔か」
今度は口元が、にやりと動く。
「おやおや、そんなことまでご存知なんですか? でも、いけませんね、無用な詮索は命を落しかねません!」
老人は言い終えないうちに物凄い勢いでこちらに向かって突っ込んできた。
悪魔だと解っていても老人が素早く動く姿には違和感を覚える。
「穏やかでないのは、どちらなんだか」
再び先手を取られることになったレイヴァンだったが、慌てず前に出て迎え撃った。