~ 15 ~
しばらく走ってレイヴァンは悲鳴が発せられたと思しき場所に辿り着いた。
道端には篝火が燻っている。
レイヴァンはその中から一本を取り出して松明とすると、かざして夜の道を照らし辺りに目を配る。
深夜の道は誰一人歩いていない。
あれほど大きな悲鳴が聞こえたのに町人が誰一人野次馬として外に出てきていないことを考えると、やはり悪魔を恐れてのことだろうか。
怪しげなモノは何も見つからなかったが、少し進んだ先にあった袋小路の地面に大きな黒い染みがあることに気がついた。
しゃがみ込み指で触れると、血であることがすぐに解った。
注意深く辺りを見渡すと小路の一番奥に人が倒れている。
地には擦った痕があり、伏したまま移動しようとしたようだ。
倒れる若い男性は腕を伸ばして光るものを掴んでいた。
死後硬直が始まっている彼の指を開き、握り締めた物を手に取ると、それは大きな花をモチーフにした銀細工の髪飾りだった。
この男の持ち物ではないだろうな。
更に詳しく調べようとするが、周りに何かが居ることを感じ取ったレイヴァンは静かに立ち上がった。
レイヴァンが視線を送る闇の奥で輝く眼。
毛に覆われた何かが鋭い牙を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「魔犬が三匹か」
悪魔が現れるようになってから、その狂気にあおられて一部の家畜たちは凶暴になり人間を襲うようになっていた。
こいつらが襲ったのか?
瞬時に相手を見極めると剣を抜いて構えようとしたが、それよりも早く相手が先手を取り一斉に襲いかかって来た。
抜剣できなかったことに対して心の中で舌打ちしたものの、体は既に次の手に向けて動いている。
彼が動じることは一切なかった。
一匹目の突進を紙一重でかわし、続けて飛びかかってきた二匹目の魔犬の口に手に持っていた松明を突っ込んだ。
魔犬は叫ぶこともままならず、地面をのた打ち回る。
その様子を見た他の二匹が怯んで一瞬動きを止めると、彼はその瞬間を見逃さなかった。
すかさず剣を抜いて反撃に移った。
魔犬との間合いを一気に詰めると剣を薙ぎ払う。
対して魔犬は器用に体をひねり横へ跳躍して斬撃をかわす。
一瞬で均衡状態となり警戒を強めた相手は、むやみに飛びかかって来なくなり睨み合いが続いた。