~ 13 ~
「断片的とは言え久々に嫌な夢を見たな……」
呼吸を荒らげながら身体を起すと、小声で呟きながら夢の内容を思い出すかのように自分の右手を見つめる。
指貫の黒い皮手袋を外した右手。
手の甲には大きな傷跡があり、その傷跡の周りにはまるで眼のような異様な形をした痣があった。
その傷跡をしばらく見つめた後、今度は隣で寝ているリルを見た。
彼女は、すやすやと寝息を立てて眠っている。
一瞬笑みを浮かべるとベッドから降りて窓際へと足を運び、窓の外を眺めた。
視界の手前には深夜の薄暗い町並みが、奥には空に浮かぶ月が見える。
悪魔がこの世に現れるようになってから月は紅く染まっていた。
人々はこの紅い月を災いの象徴として忌み嫌っている。
レイヴァンだって例外ではない。
「嫌な月だ」
レイヴァンが月を睨んでいると、突然闇の中で甲高い悲鳴が響いた。
次の瞬間には視界に何かが飛び込んでくる。
かなり遠くだが、地面から夜空へと羽ばたく物体。
すぐにマスターの言葉を想い出した。
「あの翼、悪魔に間違いないな」
上着のロングコートを素早く羽織ると、ベッドの側に立てかけていた剣を手に取り、窓から外に飛び出した。
軽やかに着地すると駆けながら剣を腰に携える。
彼は夜空を見上げながら飛んで行く悪魔を追いかけた。