~ 9 ~
「その悪魔の特徴について何か知らないか?」
気を取り直したレイヴァンがマスターに質問をぶつけると、彼も表情を引き締めた。
「生憎、悪魔を封じ込めようとしたハンターがことごとく消息を絶っているようで、詳しい情報が無いんだ」
「そうか……」
その一言が心底残念そうな素振り見えたのか、今度はマスターがレイヴァンに質問を返す。
「旦那も、この事件の悪魔を捕まえようと思ったかい?」
「……俺は、ある悪魔を追っている。 黒い羽根の翼と真紅の眼を持つ悪魔だ」
しばしの沈黙の後、おもむろに言葉を発したレイヴァンの表情にマスターは思わずたじろいだ。
一瞬、人間以外の何かと会話をしているような錯覚さえ感じた。
背筋の凍る思いをしながら、何とか声を振り絞る。
「そ、その悪魔の名は?」
「奴の名はメフィストフェレス」
悪魔の名を聞いてマスターは、大きく唾を飲み込んだ。
メフィストフェレスと言えばギルドが最も危険な存在として最上級指定をしている悪魔だ。
神出鬼没で突然各国に現れ、殺戮と破壊を繰り返すことはハンターはもちろん小さな子供だって知っている。
それだけなら他の悪魔もいるのだが、何より王族殺しで有名だった。
悪魔の名を口にすれば本当に悪魔がやってきて襲われる。
我が王は殺され、この国は終わりだ。
そんな噂は瞬く間に広まり、騒ぎを終息させるために『メフィストフェレスに関することは一切話してはならない』と法で噂を禁止した国もある。
「旦那、私も商売上悪魔の話はよくしますけど、その名前だけは禁句でしょう」
「俺には関係ない。 むしろ会いたいと思っているくらいだ」
彼の返事にマスターはそれこそ言葉を失った。
それはつまり死にたいと言っているようなものなのだ。
酒に酔った勢いで最上級悪魔を封じてみせると意気込むハンターは何人も見てきたが、望んで会いたいという人間は今まで出逢ったことがなかった。
彼が何故その悪魔を追っているのか興味が沸いたが、メフィストフェレスの話は避けたかったので、この町で起きている事件に話題を戻した。
「先日客が言っていたことなんだが、夜中に夜空を飛ぶ馬鹿でかい生き物を見たらしい。 もしかしたら、そいつが悪魔かもしれないな」
「そうか……」
レイヴァンは表情を緩めると、ようやく食事を開始した。