最終話 父のひと言
そして私は六年生になった。
一年生の頃、嫌だ嫌だと思っていたスケート。
気づけば六年も続けていた。
そして私はキャプテンも任された。
自分でもびっくりだった。
兄も六年生の時にキャプテンだった。
同じ立場になれたことが、なんだか嬉しかった。
だけど実際にやってみると、思っていたよりずっと大変だった。
低学年の子達はちょろちょろ動き回るし、さっきまで仲良く笑っていたと思ったら、たわいもないことで喧嘩も始まる。
まとめるのは簡単じゃない。
兄もこんな気持ちだったんだろうか。
でも兄からそんな苦労話を聞いたことは、一度もなかった。
私はここまでスケートを続けてきたけれど、六年生で辞めるつもりだった。
母とも話し合って、中学ではバレーボールをやることに決めていた。
もうバレー少年団にも入っている。
だから私は、この最後の一年を悔いなく頑張ろうと思っていた。
先生には何度か聞かれた。
「中学でもスケート続けるのか?」
そのたびに私は、
「辞めるつもりです。」
と答えていた。
先生はそのたびに少し寂しそうな顔をしていた。
ある日、また同じ質問をされた。
そして先生は静かに言った。
「この前、お父さんがな。
ゆきがスケート辞めちゃうの寂しいって言ってたぞ。」
私は驚いた。
そんなこと、父は一度も私に言ったことがなかった。
六年間、送り迎えをしてくれた。
大会にも何度も付き添ってくれた。
決してすごい成績を残したわけでもない私に、父はそんなふうに思ってくれていた。
その言葉を聞いた瞬間、父の顔が頭に浮かんだ。
心が揺れた。
そして気づいた。
寂しいと思っているのは、父だけじゃなかった。
私も寂しかった。
一年生の頃は、どうやって休もうかばかり考えていた。
熱が出ないかな。
今日は具合が悪くならないかな。
そんなことばかり考えていた私が、今は終わることを寂しいと思っている。
いつの間にか、スケートは私の大切な居場所になっていた。
私は決めた。
「中学でも続けます!」
そう伝えると、先生は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、私も嬉しくなった。
そしてもう一つ。
中学生になったら、また兄と一緒にスケートができる。
気づけば、それも楽しみになっていた。
一年生の私がこの姿を見たら、きっと驚くだろう。
あんなに嫌だったスケートを、辞めたくないと思う日が来るなんて。
私自身も思ってもいなかった。
人って変わるんだな。
そして、そんな私を見たら、
お父さんもきっと笑うだろうな。
この出来事は今でもよく覚えています。
父は私に直接「寂しい」と言ったことはありませんでした。
だから先生からその話を聞いた時は、本当に驚きました。
六年間送り迎えをしてくれたことも、当たり前だと思っていた子どもの私は気づいていませんでした。
あの一言があったからこそ、私はもう一度スケートと向き合う決心ができました。




