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停滞前線  作者:
7/16

「でもお前、篠沢と仲いいよなあ」

 そう? と返すと、彼はうんうんと頷く。確かに話す回数はどの女子よりも多いし、そういうふうに思われて当然なのだろう。

「そういえば、知ってる? あのさー名前出てこないんだけど、篠沢と同じクラスで眼鏡かけててさあ、ちょっと地味めな男。わかる? あいつと篠沢、付き合い始めたんだって。意外だよなあ。篠沢って派手目な男が好きなんだと思ってた」

誰だよそいつ、と言うと彼は少し困った顔をしてから俺だってわかんないよ、と呟いた。

 そんな話は初耳だった。紅葉の口からそんな話は聞いたことがないし、噂だってほとんど聞かなかった。もっとも、紅葉に限らず噂はほとんど聞かない。

「見にいってみる? 気になるだろ」

 別に気にならない。そう答えようと思ったが彼が思い切り手をとって走り出すからまあいいか、そういう気分で彼の背中を追った。

 薄いワイシャツを破りそうなほど脂肪がついている背中。腕のわきと、腰のちょっと上とかはかなり危険だ。こいつってこんなに太ってたっけ、と思ったが今までどういう体型だったかも思い出せず、ずっと背中を見つめた。

 もう教室に入っていることにも気付かず、そのまま走り続けて彼にぶつかってしまった。衝突した瞬間に軽く背中が反発して思わず後ろに転びそうになる。彼は僕のほうを見て少し睨んだが、あいつだよ、と言うと小さく笑みを浮かべた。

 彼が指した方向には、眼鏡で痩せた男が申し訳なさそうに椅子に座っていた。猫背で首と顔が前に出過ぎている。なんとなく影が薄くて、確かにわりと活発な紅葉とは合わないのかもしれないと思った。でも、何が悪いというわけでもないし、彼の目は穏やかでそこら辺の男よりはよっぽどマシにも見える。きっといい奴なんだろう。直感でわかる。

「意外と紅葉って、センスいいんだな」

 本当にその言葉の意味のまま言ったのに、西善は僕が皮肉を言ったように聞こえたのか、口角をゆっくりと上げ、ニタニタと笑った。お前も十分陰湿だよ。言ってやりたいけど、もちろん言えるはずもない。

「確かに。センス良すぎだろ。あいつ、俺らよりもはるかに格好いいもんな!」

西善は彼をしきりに指しながら笑う。そりゃ、お前と比べたら誰でも格好いいだろ、なんて思っているうちに、声が大きかったこともあって、指されている本人はゆっくりと顔をこちらに向けた。何を映し出しているのかわからない目で彼はぼんやりと僕らを見つめる。こっちも彼を見つめてやろうかと思ったが、僕の手はいつの間にか汗ばんでいた。

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