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停滞前線  作者:
5/16

 家を出て、畑の横を通って進む。そのうち、祖父母が見えて手を振ると同じように僕に手を振りかえした。彼らは頑固なところがあって、特に最近は僕に厳しいところがある。それはきっと、家を継ぐのが僕だと決まったからなのだろう。兄には甘い。どうとでも好きなようにしろ、と言いたいのかもしれない。しかし、彼らは僕が間違ったことをしない限りそう際限なく怒ったりはしない。むしろ、穏やかな人達だ。

 今日は薄い灰色の雲が空を覆う。ネズミみたいだ、と言うときっと紅葉は怒るだろう。彼女は昔から比喩が大嫌いで、そんなことを言えばネズミと雲に何の関係があるのか、色が似ているくらいでどうして意味のわからない比喩を使うのか、捲し立ててくる。比喩があれば物事はずっと鮮明になって浮かぶ。しかし、彼女はそう思わないのだ。比喩を使えば使うほど、実物からかけ離れた表現になる。ストレートにそのまま表現すれば、実物にぐっと近付く。そういう考え方らしいが、そもそもストレートに表現することができるのだろうか。言葉はいくつもあるようだけど、絶妙な表現なんてものはそんなに存在しない。ストレートさが誤解を生む、と僕は反論したけれど彼女は決まって何も言わなかった。言い返す言葉がないのか、それとも僕に何を言っても駄目だと思っているのか、全くわからない。

 とにかく、今日一日の天気は雨は降らないものの、そんなに良くはないらしい。明日からは雨がずっと続く。どうせなら、どしゃ降りになってほしい。しとしと、と降るねちっこい雨は、どうしても好きになれないからだ。

 学校の玄関は本当に小さい。生徒数があまり多くないから、当然なのだろう。一学年に約二クラスがあるが、「約」というのはもちろん一クラスしかない学年があるからだ。全校で五クラス。こんな田舎にしてはかなり集まっているほうなのだろう。

 教室に入ると既に大部分の生徒が集まっている。隣の席の西善におはよ、と挨拶すると彼も挨拶を返した。

「なあ、知ってるか?」

 唐突に西善は言った。何をだよ、と返すと彼はにたにた笑いながら声を潜めて言葉を続けた。

「隣のクラスの斎藤、夏休み後には別な学校に行くんだって」

「は? どうして」

「どうしてってそりゃあ……決まってんだろ。高校で転校なんて小学生じゃあるまいしよっぽどの理由がなきゃそんなに無いよ」


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