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その日から、僕と紅葉が一緒に帰ることはなくなった。僕から誘えばきっと彼女は帰ってくれたのだと思うが、僕にはそんなことをする理由がないし、第一彼女との壁を感じていた。その壁がどういうものかは今ひとつわからない。たまに話すし、その内容も今までと大して変わらない。ただ、僕の彼女への見方が変わったのかもしれなかった。僕にだけ見える壁なのかもしれない。しかし、彼女にもこの壁が見えているような気がした。確かな根拠など存在しないが、僕らの思考はきっと繋がっている。
「昨日、篠沢さんが斎藤さんに謝りに行ったって知ってる?」
ある日突然、前の席に座っている駒口という奴が話しかけてきた。今まで話した記憶はなかったのだが、妙に親しそうに彼は話す。彼はどこから見えてもちゃらけた奴で、髪を染めるわピアスあけるわ、とにかくあまり関わりたいとは思えなかった。
「知らない」
「やっぱり。最近、篠沢さんと君、あんまり仲良くないんでしょ?」
どきり、とした。周りにも伝わっているのだろうかと驚いて、少し震えながらどうしてそう思うのかと尋ねた。
「篠沢さんが言ってたんだよ。君とはどうなったんだ、って聞いたら最近はあんまり仲良くもないよってさ」
やっぱり彼女も同じふうに思ってたんだ、と思うと同時に何だそれとも思う。人にわざわざ言う必要はないと思うし、言うとしても相手が間違っている。こんなちゃらい奴に、と憤りを感じる。ふざけんな、と。
「それよりさ、篠沢さんどういう心境の変化なんだろうね。斎藤さんのことあれだけコケにしておいて、今さらすみませんでした、なんてさ。転校までしてる人間にやることじゃない。かわいい顔してやることが酷だよ」