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「ショックだった?」
何が、と返す。ひどく乾いた響きをもっていて、喉がからからになっているのがわかった。
「あたしと、宮田くんのこと」
「どうしてショックになる?」
「あんたには、何も知らないでほしかったんだよ。なんでかって言ったら、だってさ、失望してほしくないじゃん」
誰に、と小さく聞くと彼女はぽつりとあんたに、と言った。
彼女が誰かと付き合ったとかそういう話でなんで僕が失望するのか。彼女が混じりけのない純真な女の子だなんて思っていたわけではないし、だいたい純真な女の子だって男と一緒にいることくらいあるだろう。
「どうしてそう思ったのかわかんない。けどね、失望するんじゃないかって怖くなった。あたし、あんたに失望されたらさ、本当にどうしようもなくなるんだよ」
左手で自分の髪をくしゃりと掴み、唇を小さく震わせているのが見える。それと同時に歩も止まって、僕も彼女の正面でストップした。
でも、何もかける言葉がない。どうしよう、どうしよう、と思っているうちに彼女がぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。少し低めで掠れた声が耳にしみつく。
「宮田くんのこと好きだけど、もやもやしてる。でも、どうしてこんな馬鹿みたいな恋愛で馬鹿みたいに悩んでるのか、本当に馬鹿みたいで。別に哀しい出来事があったわけでもないし、本当周りの人からは笑われそうなくらいくだらなくて。ねえ、あたしが周りからどう思われてるか、わかる?」
返事を求めているわけではないようで、僕が何かを言う前にまた話し始めた。
「ぶりっ子で陰湿で、嫌われてる。本当に男にモテるために生きているような女。で、憂さ晴らしに人をいじめて笑ってる」
全部、本当のあたしなんだ。
車道を時たま走る車の音にかき消されそうな小さな声が聞こえた。彼女のかたく握るこぶしが震えていて、その手を握ろうとした僕の手も彼女と同じだった。