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カラオケオールナイトメア

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2026/02/10





 悪夢みたいな現実が襲い掛かったとして、私たちはどう太刀打ちしたらいいか。

 一旦、逃避行を挟もう。

 うん、一旦、一旦ね。



「そこで、カラオケっていうのが、美遊らしいよねー」



 親友の綺羅がそう言った。



「あ、もう曲入れてるよー」



 綺羅がそう言って歌い始める。最近流行りの、可愛くてポップな曲だ。綺羅の可愛い声とよく合っている。



「ご清聴、ありがとうございましたー!」



 綺羅がマイクを掲げる。私は拍手した。



「じゃあ、次美遊ね」



 マイクを渡され、曲を探す。私の声質はアルト寄りの低音だから、流行りの高い曲は軒並み歌えない。

 結局、十八番の曲を入れて歌った。



「フー!美遊サイコー!」



 綺羅がはしゃいで手を叩く。自分の声は嫌いだけど、綺羅とカラオケにいる時だけは嫌いじゃない。 綺羅があんなに喜んでくれるから。

 曲を一通り歌い終わった後で、私たちは疲れて、ドリンクバーで汲んできたジュースを飲み干す。

 くたりと横たわった姿は、まるで遊園地で遊び過ぎて疲れ果てた子供のよう。



「で、また家族と喧嘩したの?」



 綺羅がなんでもないことのように言う。それがありがたかった。綺羅にとっては真実だとしても。



「まぁ、そんな感じ」


「話したら、スッキリするでしょ」


「いやぁ、私の視点で話すと、家族が悪い方になるから、あんまりなぁ」


「めんどくさ!そんなもんでしょ、愚痴って」


「そうかなぁ」



 綺羅が腕を伸ばして背伸びする。

 首をゴキゴキ鳴らして、はぁっと息を吐いた。

 そして、仕方ないないぁ、という笑みを浮かべた。



「ま、愚痴はAIにでも吐き出したらいいさ。人間の私は、お前の憂さ晴らしに付き合うよ」


「綺羅、いい奴すぎる…!」


「もっと崇めてもいいんだよー」



 そのノリのまま私たちはまた歌った。何時間経ったか分からないけど、受付のナイトパックの残り十分前の電話で、オールしたことは分かった。



 空はすっかり、白んでいた。綺羅とは、カラオケ屋の前で解散した。

 遠くなっていく綺羅の背中を見ながら、押し寄せる現実にゲンナリする。

 それでも、なんとかこなしていくしかない。

 私には、憂さ晴らしに付き合ってくれる、心の優しい友達もいることだし。

 帰りの始発電車から見た川が、朝の日差しを受けてキラキラ光っている。

 それをただ、眺めていた。





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― 新着の感想 ―
綺羅さんとの別れのシーンが胸に爽やかに広がりました。 明日からまた頑張ろうと思える友人とのカラオケ後の空に とても懐かしい気持にさせて貰えました。 そんな友人、存在は有り難いですね! 素敵な作品を読ま…
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