カラオケオールナイトメア
悪夢みたいな現実が襲い掛かったとして、私たちはどう太刀打ちしたらいいか。
一旦、逃避行を挟もう。
うん、一旦、一旦ね。
「そこで、カラオケっていうのが、美遊らしいよねー」
親友の綺羅がそう言った。
「あ、もう曲入れてるよー」
綺羅がそう言って歌い始める。最近流行りの、可愛くてポップな曲だ。綺羅の可愛い声とよく合っている。
「ご清聴、ありがとうございましたー!」
綺羅がマイクを掲げる。私は拍手した。
「じゃあ、次美遊ね」
マイクを渡され、曲を探す。私の声質はアルト寄りの低音だから、流行りの高い曲は軒並み歌えない。
結局、十八番の曲を入れて歌った。
「フー!美遊サイコー!」
綺羅がはしゃいで手を叩く。自分の声は嫌いだけど、綺羅とカラオケにいる時だけは嫌いじゃない。 綺羅があんなに喜んでくれるから。
曲を一通り歌い終わった後で、私たちは疲れて、ドリンクバーで汲んできたジュースを飲み干す。
くたりと横たわった姿は、まるで遊園地で遊び過ぎて疲れ果てた子供のよう。
「で、また家族と喧嘩したの?」
綺羅がなんでもないことのように言う。それがありがたかった。綺羅にとっては真実だとしても。
「まぁ、そんな感じ」
「話したら、スッキリするでしょ」
「いやぁ、私の視点で話すと、家族が悪い方になるから、あんまりなぁ」
「めんどくさ!そんなもんでしょ、愚痴って」
「そうかなぁ」
綺羅が腕を伸ばして背伸びする。
首をゴキゴキ鳴らして、はぁっと息を吐いた。
そして、仕方ないないぁ、という笑みを浮かべた。
「ま、愚痴はAIにでも吐き出したらいいさ。人間の私は、お前の憂さ晴らしに付き合うよ」
「綺羅、いい奴すぎる…!」
「もっと崇めてもいいんだよー」
そのノリのまま私たちはまた歌った。何時間経ったか分からないけど、受付のナイトパックの残り十分前の電話で、オールしたことは分かった。
空はすっかり、白んでいた。綺羅とは、カラオケ屋の前で解散した。
遠くなっていく綺羅の背中を見ながら、押し寄せる現実にゲンナリする。
それでも、なんとかこなしていくしかない。
私には、憂さ晴らしに付き合ってくれる、心の優しい友達もいることだし。
帰りの始発電車から見た川が、朝の日差しを受けてキラキラ光っている。
それをただ、眺めていた。




