第一話「真紅の瞳を持つ少女との出会い」
眠気が残る中、俺は高校へ行く支度を終え自室のドアを閉める。いつもと変わらぬ日常が今日も始まる。
しかし今日は違った。俺が足を踏み入れた先には何処かのこじんまりした作戦会議室のような所だった。
???
「ようこそ!神託により遣わされたお方よ!」
俺の目の前にはとんでもないは喜びが満ちている少女が映る。
歳は俺と同じくらいだろうか。一瞬で視線を奪われるような不思議な雰囲気をまとった真紅の瞳が俺に向けられる。
今まで生きてきた中でこんな瞳を持つ人物に会ったのは初めてだ。肌は薄く透き通るように美しくまるで触れれば壊れてしまいそうなほど繊細に見え、それとは対照的に彼女が身にまとう黒いスーツはその存在感を一層際立たせ強さを感じさせる。身長は160cmよりわずかに低い程度だがその威厳からはそれを全く感じさせない。
だが今、俺の目の前で起きていることを理解しようとすると混乱は深まるばかりだ。
ユウ
「何がどうなってるんだ?俺は自分の部屋から出たはず。ここはどこだ? 君は?」
俺が疑問を投げかけると少女は微笑みながら言う。
???
「私はミコト、ここはハの国。そして私は政府代表よ」
その少女は誇らしげに胸を張り、俺の目をじっと見つめながらミコトは言葉を続ける。
ミコト
「これから私の国を救う救世主に立ったままでお話するなんて失礼だわ。どうぞ、お座りください」
俺はミコトに椅子に座るよう促され目に入った机のそばの椅子を引き寄せて腰を下ろす。
俺が座ったのを確認するとミコトは机のそばに置かれた椅子を引き寄せ腰を下ろす。
こうして俺とミコトはちょうど対面する形で向き合うことになる。
ミコト
「あなた、名前は?」
ユウ
「俺はユウ。そんなことより……」
俺が疑問を声にするよりも一瞬早くミコトの声が場を支配する。
ミコト
「ユウ、あなたはこの世界に転生され、私の国つまりハの国を救うことが決まっていたの」
俺に向けられるミコトの瞳は美しい光沢を放っている。
ユウ
「ちょっと待て。俺が国を救う? 」
ミコト
「そうよ」
ユウ
「それに転生が決まっていた?」
俺にはわけがわかない。
俺は自分がどんな人間なのかをミコトに話し始める。
ユウ
「すまないが俺は一般人なんだ。知識量は年相応、政治の事は多少かじってるぐらいだ。仮に軍師に任命されてもそんな頭はない。運動だってそうだ。兵を率いて前線で戦ってくれと言われても役に立たないと思うぞ。そんな俺が異世界に召喚されて国を救うことが決まっていたなんて言われてもな」
ミコト
「心配いらないわ。ユウにはその力があるもの」
ミコトはそう言うと右ポケットからスマホを取り出し俺の目の前に差し出して画面を見せる。
ユウ
「なんだこれ?」
俺は画面に目を向ける。驚いたことに初めて見る文字なのに内容がはっきりと読める。
名前ユウ〈空中移動適性S〉〈戦闘練度S〉
ユウ
「移動適正ってのは?何かの装備品に関係するのか?」
俺は良く分からない単語とランクを出されても何を意味するか理解できない。
ミコト
「そうよ。この〈移動適正〉は私たちの装備〈空間推進機〉との相性を表しているの、これを装備すれば空を自由自在に飛べることが出来るわ。ランクSを持つ人はごく少数よ!」
ミコトの熱の入った説明は妙な説得力がある。
ミコト
「それに〈戦闘練度S〉というのは、いざ戦闘になれば身体が自然に動くほどの手練れという事よ」
俺はミコトの発言にあ然とし思わず言葉を発する。
ユウ
「俺、戦ったことなんて一度もないんだけど?」
ミコト
「大丈夫よ。あなたはすでに〈戦闘練度S〉。私が直々に戦闘訓練を担当するから安心して。それを終えれば実戦ですぐに活躍できるわ!」
俺に向けられるミコトの瞳には嘘をついているような色は微塵も感じられない。
ミコト
「だから、この最新装備〈三十五式空間推進機、稲妻〉をあなたに託したいの。これがあれば、全ての戦場で名を馳せる事ができるわ」
続けてミコトはスマホを手早く操作する。すると近代的なベルトがテーブルの上に突如として現れる。
どうやらこの世界ではスマホがインベントリの役割を果たしているようだ。
このベルトが空間推進機とやらなのか、これを身に着ければ自由自在に空を飛ぶ能力を発揮できるのだろう。
ミコト
「試しに装備してみて。右側のデバイスのタッチすれば起動するわ」
俺はミコトに言われるがままベルトを身につけてみた。するとベルトの側面に取り付けられた装置から、漆黒の羽が勢いよく飛び出す。
ユウ
「なるほど、この装備品に移動適正が関係するのか」
ミコト
「空間推進機は人の想像力を原動力とするの。今すぐ飛ぼうと思えばできるけど、ここではやめてね、頭を天井にぶつけて怪我をしてしまうわ」
ユウ
「ごもっともだな」
ミコト
「そして次に、これがユウに渡す武器よ!」
ミコトは引き続きスマホを操作しテーブルの上に武器を次々と出現させる。そこに現れたのは現実世界でも見かける軍刀や小銃。そしてその隣には用途がまったく想像できない五種類の札が束になって並べられていく。
ユウ
「小銃と軍刀は見て分かるが、この五種類の札の束はなんだ?」
俺は何に使うか見当もつかない紙束に指さしミコトに尋ねる。
ミコトは俺に五つの札を一つ一つ指さし説明する。要約すると。
ユウ
「爆風の符は手榴弾、防壁の符はバリア、閃光の符は閃光手榴弾。加農の符は大口径の滑腔砲と同等の威力を持つエネルギー弾を放つ。魚雷の符は使用者が魚雷型のエネルギー塊を出現させ投射する。」
なるほど便利なもんだ、しかし俺はミコトに率直な感想を述べる。
ユウ
「いや、どれもこれも扱える気がしないんだけど」
ミコト
「何度でも言うわ! 私が直々に戦闘訓練を施してあげる!」
どうやら俺は本当に戦場に活躍できるとミコトに確信されてるようだ。
ミコトは再びスマホを操作し画面をスクロールして俺のスキルを見せる。
〈多言語マスターS〉〈身体強化S〉〈運命の庇護S〉〈完全方位指導S〉〈絶対照準S〉
俺はスキルの説明欄を読む。
ユウ
「〈多言語マスターS〉はこの世界のありとあらゆる言語を使用可能。つまりハの国に召喚されてから、スマホに映し出された初めて見たこの世界の文字を理解でき、ミコトとも自然に意思疎通ができるのはこのスキルのお陰か」
俺は自分に与えられたスキルの便利さに感心し読み進める。
ユウ
「えーと、次は〈身体強化S〉か、体組織の構造を保ったまま、肉体の機能を常時引き上げるスキル。このスキルは筋力や反射速度、五感の感度、さらには知覚や反応速度を同時に強化する。使用者の運動能力を通常の限界を超えたレベルにまで高めるだけでなく、視覚や聴覚などの感覚も鋭敏化する。これにより、より速い判断や正確な動作が可能となる。ステータス戦闘練度Sに加えて身体強化までついているなんてチートだな」
ユウ
「〈運命の加護S〉は一定以上体力がある際に一撃死無効。不意打ちや初見殺しを回避できるから良スキルだな」
ユウ
「〈完全方位指導〉、連絡先を交換した人物の人名をスマホ入力をすると画面上にその人物の位置が表示される。スマホに記録した場所へ移動するための最短経路を画面上に表示することができる。ようは俺のスマホ限定のGoo〇〇e Mapと」
ユウ
「〈絶対照準〉、どんな乱戦や悪環境でも必ず目標を狙い撃つスキル。視線を合わせるだけで照準が固定されブレることなく弾丸が飛ぶ。なるほど、これがあれば乱戦の中で味方を助けることができる。銃で戦うにはまさに必須級のスキルだな」
ユウ
「堅実なラインナップで悪くはない。特に〈運命の加護〉と〈絶対照準〉は不確実性をともなう戦場では心強い」
俺は内心そう思い、これなら何とかなると思いミコトに言葉をかける。
ユウ
「わかったよ。俺でいいならやってみる」
ミコトの目が喜びで輝き、爪先まで整えられた美しい手をそっと差し出す。俺はその手をしっかりと握りしめ応えるように優しく力を込める。
ミコト
「本当にありがとう、ユウ! 私と一緒にハの国を救う決心をしてくれて!」
こうして俺がハの国を救う物語が始まった。最高のステータスと当たりスキル、そしてミコトが俺を支えてくれると言っている。何とかなるだろう。