十九話「血塗られる大地」
その後、俺の武装解除の任務は順調そのものだった。
角の王国、単眼の王国、そして新たに武装解除に応じると申し出た沼の共和国など次々と訪問し今日も野営地へと戻り一息ついていると野戦司令官のマイクが俺に話しかけてくる。
マイク
「いやぁ、ユウさん。仕事が順調そうで何よりです。それに私の心配が取り越し苦労に終わって本当に良かった」
ユウ
「俺が最初の武装解除の対象国をエルフの国と宣言した時、事情を把握していなかったため
マイクには心配をかけてしまったな、あの時は本当にすまなかった」
マイク
「いえ、お気になさらず。地下の住民もまた我々に対して同じ感情を抱いているのですから。
それを持たないユウさんの姿勢こそ本当の意味で平和に貢献していると、私だけでなくミコト様も思っているはずです」
マイク
「このまま順調に武装解除と同時に地下世界の国を政府軍に編入し続ければ口伝いで次々と後を追うでしょうね」
ユウ
「俺だけでなく相手の協力あってこそであってだよ。もちろん君たちもね」
マイク
「その通りですね。そうだ、良い店を知っているんです。今日の仕事終わりに一杯どうですか?そこで詳しくお話を聞かせてほしいです。」
談笑の最中、ふと野営地の上空に人の形をした飛行物体のような影が俺の目に映る
ユウ
「ん、なんだ?」
疑問を抱いた瞬間その人影がコンテナを開き何かを放った。それがミサイルだと気づいた時には、すでに手遅れだった。
凄まじい爆発音が数度轟き、野営地全体が爆炎に包まれた。その衝撃波が俺を襲い身体は宙へと舞い上がり地面に叩きつけられる倒れる。
俺は顔を上げると正体不明の襲撃者が空中からミサイルを乱射している。そのうちの一発が俺に直撃するもスキル《運命の庇護》が発動し見えない力が俺を包み込み命を繋ぎ止めた。それでも全身が軋むような痛みで満身創痍だった。
ユウ
「俺は生きているのか?」
ぼやけた視界の中で、野営陣地に何者かが激しい音を立て着地したのが見える。土煙の向こうに浮かぶ人影は異様な存在感を放つ。
土煙が晴れると姿を現したのは信じがたい巨体だった。それ見た瞬間、俺の目がおかしくなったかと思った人がその身長は三m近くはある。金眼と大きな瞳孔。肌は月白。真紅の長い髪が風に揺れるたびにまるで生きた炎のようだ。
先の奇襲のせいで俺の心臓は激しく鼓動する。
ユウ
「なんだ……あいつは?」
そいつは背中にマウントされた戦艦用の艦砲を流用した兵器を手に取り無差別な攻撃を開始した。瞬く間に巨大な弾丸が四方へと飛び交い周囲は爆炎に包まれる。俺だけでなく完全な奇襲を受けた兵士たちは状況を理解する間もなく抵抗することさえできずに次々と跡形もなく消えていった。
ユウ
「くそっ…!」
俺は体を引きずりながら周囲を見渡すが野営地は一瞬で地獄と化す。
ユウ
「生き残っている者は俺のもとに集まれ!」
痛みを押し殺しながら叫ぶと兵士たちが終結する。。
ユウ
「組織戦に移るぞ!全員であいつを倒す!」
俺は空間推進機を起動させ、生き残った兵士共に目前の惨劇を少しでも食い止めるべく攻撃を敢行する。
俺たちの接近を察知したXは空間推進機を起動させた。その光景は俺やミコトのように軽やかに宙を舞うものではなく、まるで巨体を無理やり押し上げているかのようだ。凄まじい土煙が視界を覆う中、Xは勢いよく飛び立つ。
そして艦載砲の弾丸を撃ち尽くしたのか、Xはその巨大な砲身を接近してきた兵士に向かって投げつけた。兵士は砲ごと吹き飛ばされそのまま下敷きになる。さらにXは背中に携行していたショットガンを構え接近する俺たちに向けて容赦なく乱射を始めた。散弾が容赦なく周囲を蹂躙し俺の目の前で仲間の兵士たちが次々と倒れていく。
だが多勢に無勢。射線の外にいた政府軍の兵士が隙を突いて別方向から切り込もうとしたその瞬間、Xは鋭い勘でそれを察知しショットガンを構えて牽制射撃を放った。
俺も切りかかる兵士に連なり一式軍刀を構えXに斬りかかる。ショットガンを投げ捨てたXの重い拳が俺を顔面を捉え身体が地面に叩きつけられる。
すぐに身体を起こし、次の攻撃に移ろうと軍刀を構え顔を上げると俺の目に一人の兵士がXの懐に入り切りかかる姿が映る。しかし、Xは腰に装着したダマスカス鋼製の巨大な青龍刀を抜き放ち一文字斬りの一閃のもとにその兵士を斬り裂く。胴体が真っ二つになった兵士の身体越しにXは顔を覗せ即次の攻撃対象に向かう。
俺は立ち上がりXに再び斬りかかるがXは青龍刀でそれを弾き返し真向斬りが放つ。
ユウ
「なんて力だ……!」
俺は一撃をかわして距離を取った。だがXは驚異的な速度で背後に回り込み回し蹴りを放ち凄まじい衝撃と俺の体はミサイルで出来たであろうクレーターの一つへと叩きつけられる。
倒れた俺に向かってXは即座に一直線に突進し追撃を仕掛ける。咄嗟に軍刀でその一撃を受け止める。俺の視線はXの獲物を容赦なく狩る猛禽類のような鋭い瞳とぶつかる。つば競り合いに持ち込むことはできたものの全意識を両腕に集中させなければならない極限の状況だ。気力で負けた瞬間、斬られて俺は終わりだ。
その時、俺の視線の先でXの後方に向けて斬撃が飛ぶのが見えた。それを放ったのはこの場に駆けつけたミコトだった。
ミコト
「デナグ!」
ミコトがそう叫ぶと、デナグは振り向きミコトの斬撃を青龍刀でを受け止める。
デナグ
「来てくれたんだなミコト〈あの場所〉で二人きりで話そう。待っている」
そう言い残しデナグは閃光の符を発動させ一面を閃光で包み込むと姿を消した。
俺は立ち上がり呆然とその場に立ち尽くす。ハの国政府軍の野営地を壊滅させたのは地下世界最大の権力者、教皇デナグであった。
ミコト
「ごめん! ユウ! 今すぐデナグの後を追わないと!」
ミコトは俺を立たせた後、すぐにデナグが言った〈あの場所〉へ飛び去る。
ユウ
「ミコト……」
しばしの静寂の後、ミコトが引き連れてきた政府軍の応援部隊が到着し次の攻撃に備えて警戒を強める中、負傷者の救助が開始される。
その中で俺はミコトの後を追うためスマホを起動する。
だが、その瞬間、俺の後方から以前どこかで聞いたことのある声が響く
ルロマキ
「行くぞ! オクタウィアヌス、アントニウス、レピドゥス! 地上の蛆虫共を一匹残らず抹殺するのだ!」
焦熱地獄三頭竜〈オクタウィアヌス、アントニウス、レピドゥス〉
「グワビャアァァァアアアアン!」
振り向いた俺の視線の先にはルロマキに騎乗され、その指示に従うつぎはぎだらけの宙を舞う化け物が目に入った。その姿は二頭の竜を無理やりつなぎ合わせたかのようで双頭を持ちながら、尾にも一つの顔を有するという異様なものだった。三つの喉から鋭い咆哮が響き渡り次の瞬間、地上も上空も区別なく火球が吐き散らし政府軍をその業火で焼き尽くしていく。
俺は軍刀を握りしめ空間推進機を起動させる。この眼前で繰り広げられる惨劇を終わらせるためルマロキと三頭竜と討つ。ただ一つの決意を胸にし空へと飛び立つ。




