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十八話「 地上と地下の狭間」

 夕陽が地平線に沈み夜の帳が降り始めるころ、俺はスクウィーカに貰ったワインを持ちながら野営地へとたどり着いた。歩哨によればミコトが野営地で俺を待っているという。


 俺は足早にミコトのもとへ向かい静かにテントに入る。


 ミコトは開口一番。


ミコト

「無事でよかった! 野戦司令官から今朝、電話があってね。ユウ、貴方が単身でエルフの王国へ向かい始めたと聞いて驚いて駆けつけたのよ」


 ミコトの表情は本気で俺を心配している。もう長い付き合いになるがミコトは感情がすぐ顔に出るタイプだ。


 やがて俺は椅子に腰を下ろしテーブル越しにミコトと会話を交わし続け左手に持ったワインをテーブルの上に置く。


 ミコトは俺が置いたワインに一瞬視線を送るが顔を合わせ言葉を続ける。


ミコト

「あなたの世界で言うエルフとは違い、ハの国のエルフ〈フォレスタ・ディアヴロ〉は地下世界で最強格の少数民族の一つなのよ。好戦的な彼らと武力衝突はなかったの?」


 俺が今日、目にした光景とミコトの認識はまるで正反対で驚く。


ユウ

「何を言ってるんだよ。好戦的どころか人懐っこくて親切な人々だったぞ。案内人までつけてくれて武装解除のために積み上げられた大量の兵器を見てきただけでなく一緒に武器の整理までやってきたんだ」


ユウ

「そうだ。今日の仕事の進捗を写真に収めてきたんだ。見てみてくれ」


俺はミコトにスマホを差し出し写真を見せる。


ミコト

「この武器の山の頂上にいる人物はよりよってユウの案内人はスクウィーカだったのね……」


 ミコトはその写真を指差し知っているような風で言葉を続ける。


ユウ

「そうだな。よく喋る良い奴だったよ」


ミコト

「ユウ、いい?あなたが写真に撮った人物は旧総裁政府の補給線を神出鬼没に襲撃し、総裁政府防衛計画に大幅な遅延をもたらしただけでなく、第二次総裁政府防衛戦で要塞化された総裁政府に真っ先に空から取り付き守備兵を殺戮した人物よ」


 スクウィーカの自慢話がここで裏付けられた。今日、共に作業をした人物はミコトだけでなくハの国の国民にとって悪夢の象徴だったのだ。その事実を知り俺は言葉を失う。


 俺はミコトにまっすぐ顔を向け言葉を発する。


ユウ

「ミコト、まずは心配してくれてありがとう。それから今日俺と一緒に仕事をしたスクウィーカは俺にとって良い仕事仲間なんだ。だから過去に何をしていたかは関係ない。けれどミコトやハの国の国民にとってはそうではない。その気持ちは受け入れる。改めて思うよ。俺が転生したのは戦うためだけじゃなく平和を築くためなんだと。だからこそ地上と地下の仲介者として、この武装解除の任務を必ずやり遂げてみせる。」


ミコト

「そうね、ユウにとってはスクウィーカは仕事仲間なのよね。普通なら誰かの過去を知った時点で距離を置くか警戒するものだけど、あなたは彼の過去ではなく今を見ている。噂や評判に流されず、実際に関わることで人を判断するその姿勢は誰もが見習わないとね。」


 そう言い、ミコトはテーブルにあるワインに目を向ける。


ミコト

「これ、何処かで買ってきたの?」


ユウ

「いや、スクウィーカに貰ってきた」


 ミコトはワインボトルに手に取りラベルを見て瞬時に言葉を発する。


ミコト

「すご、デナグが作ってる所のワインじゃない、もう最後に飲んだのはずいぶん前かな……」


ユウ

「ミコトは飲めるのか?」


ミコト

「ガッツリ飲めるわよ。私、お酒大好きでね」


 そう言うとミコトは豪快にもワインをラッパ飲みし始める。


ミコト

「あ~染みる~ピノは飲みやすくて良いわ~」


 これまでにないミコトの姿を見て俺は驚く。


 ミコトはボトルの口を俺に向け言う。


ミコト

「ユウも飲みなさいよ。」


ユウ

「いや、俺はいいよ、未成年だし」


ミコト

「何言ってんの?ここじゃ私が法律よ。」


俺はどこかで聞いたような言い回しを思い出し、あの男の顔が浮かぶ……そうゾンガとそっくりなのだ……一般的なハの国の気質はこんなものなのだろうか……


ユウ

「なあ、前から聞きたかったんだが、ドミトリー、ゾンガ、デナグとミコトはどんな関係だったんだ?」


ミコト

「そうね。話す時間がなくて、まだ伝えていなかったね……」


 ミコトはドミトリー、ゾンガ、デナグとの関係、そしてハの国の成り立ちから国家の分裂に至る過程、そして旧総裁政府の瓦解によって政治指導者が不在となり繰り上げで自らがハの国の代表に就任した経緯を俺に涙ながらに打ち明けた。


ユウ

「そんなことがあったんだな……」


ミコト

「デナグ、ドミトリー、ゾンガ、ホルヘ、タニア…ウッウゥゥ」


 知らない人物の名前も出てくるが辛い記憶を話している人間に聞くのは酷だ。そう判断し俺は黙って頷き話を聞き続ける。


 やがてミコトは聞き取れない声で俺に言う


ミコト

「ダキシメテヨ……」


ユウ

「ん?ミコト、飲みすぎだよ。気持ちは分かったから今日は寝よう。な」


 俺は椅子から立ち上がりミコトのもとへ向かい肩を貸して立たせようとしたが、ミコトは全体重を俺の右肩に預ける。


 俺はそのままバランスを崩し、仰向けに押し倒されてしまう。


 気づけばミコトが俺の上に覆いかぶさり逃げ場を塞ぐように片手を地面につき静かに囁く。


ミコト

「ユウだったら私なんて簡単に押し戻せるでしょ……」


 真紅の瞳がまっすぐ俺の瞳をとらえ長く黒い髪が俺の身体に柔らかく触れる。


 そして翌朝、俺は野営地のゲート前でミコトを見送る。


ミコト

「昨日はすっきりしたわ。やっぱりコミュニケーションって大切よね。じゃ、ユウ、私は東部の復興作業と治安維持の指揮に戻るから何かあったら連絡してね」


 俺はこれまでにないほど生き生きとしているミコトに声をかける。


ユウ

「気を付けてくれよ。それとミコトも何かあったら心配事があったら俺も飛んでいくから。」


 柔らかな陽光に照らされる中ミコトは振り返り笑顔で俺に言う。


ミコト

「ありがと、ユウ」


 そう言うとミコトは空間推進機を起動させ空へ飛び立つ。


 俺はミコトの姿が見えなくなるまで空を仰ぎ手を振る。

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