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十七話「歴史的偉業」

 その数日後、俺が武装解除の最初の対象国をエルフの国に指定すると宣言した。すると〈大穴〉を包囲、監視していたハの国政府軍の主力駐屯地は騒然となる。そして野戦司令官マイクが俺のもとへと赴き重い口を開く。


マイク

「角の王国のように穏やかな少数民族からにしてはどうですか?ユウさんが行こうとしているところはですね……最低限度の装備では誰もついていきませんよ。私としては精鋭を選抜して少数精鋭、もしくは主力軍を丸ごと護衛に出したいですがね……」


 青ざめた顔で何か言いづらそうな事でもあるのか俺は言葉を遮り続ける。


ユウ

「これから武装解除に応じる相手に対してこちらが過剰な武装していては余計な警戒心を抱かせ刺激することになる。俺は占領者ではない。ハの国に暮らす同じ国民として彼らに協力を求めに行く立場だ。それに以前の会談で対話を通じて信頼を築き武装解除を進めるとエルフの王と約束した。最低限度の武装でなければ俺は一人で行く」


 俺は一式軍刀と二式小銃を携え、空間推進機を起動して飛び立つ。


マイク

「何かあってからでは私の責任になってしまうんです!戻ってきてください!」


 振り替えるとどんどん小さくなっていくマイクに俺は言い放つ。


ユウ

「ついてきたいなら最低限度の武装にしてついてきてくれよ!」


 俺はスキル〈完全方位指導〉を発動し巨大な樹木に覆われた森の奥に広がるエルフの王国へ向かう。道中ふと顔を上げると空が見えないほどの鬱蒼とした樹々に驚かされる。


エルフの王国民

「ようこそ、我が王国へ。あなたがユウ殿ですね? 私はスクウィーカと申します。王の命により貴方の案内役を務めることになりました。どうぞよろしくお願いします」


ユウ

「俺は独立武装解除委員会の委員長のユウだ。今日はよろしく」


 俺が軽く挨拶すると、スクウィーカはまず俺を一瞥し言葉を発する。


スクウィーカ

「お連れの方はいらっしゃらないのですか?」


 武装解除の任務で護衛もつけず俺がたった一人でここに来るなど普通は考えもしないだろう。


ユウ

「そうだが」


スクウィーカ

「そうですか。では、こちらになります」


 スクウィーカは怪訝な表情を一瞬見せるが踵を返し王国の案内を始める。そしてその先には銃器や弾薬はもちろん、沿岸砲の砲身に至るまで膨大な兵器が一か所に集めら山のようになっていた。


ユウ

「よくこんなに集まったもんだ……」


スクウィーカ

「独立戦争中期、我々は旧総裁政府の補給線襲撃だけでなく遊撃戦を担当していました。その際『鹵獲できるものは何でも持ち帰れ』と教皇デナグに命じられていましてね。いやはや正直なところ置き場所に困っていたんですよ。兵器は平時には使い道がありませんからね」


 感心するというより呆れに近い。それだけハの国が戦いに縛られてきた証なのだろう。


 想像以上にエルフの国の住民は協力的だ。独立武装解除委員会の代表である俺に敵意を見せるどころか淡々と武器を引き渡し帰っていく。


スクウィーカ

「これだけではなく王がお触れを出し個人所有の武器も差し出すよう命じました。そのため今日は一日中武器がここに集められる予定です。」


ユウ

「これじゃまだ戦えるだなんて主張もあるのも当然だな。」


 それでも素直に進展していることにホッとする。


 ハの国では地上と地下の対立が激しく武装解除は難航すると予想していた。正直、俺自身が不安でしかなかった。土壇場になって武装解除に抵抗される。そんな最悪の事態も道中、頭をよぎった。だが今こうして目の前で進んでいる現実はそんな不安が杞憂に過ぎなかったことを証明している。 


ユウ

(あの時の会談で誠実に対話を重ねておいて本当に良かった。このまま順調に進めば地上と地下世界を繋ぐ大穴を包囲・監視している政府軍の規模を縮小し、俺と正規軍に編入された地下世界の国々の協力によってこの任務は間違いなく完遂されるだろう。)


そう楽観的に考えられるほど余裕を感じる。


 こうして俺とスクウィーカは次々と運ばれ積み上がっていく武器の山を兵器ごとに整理するなどの作業を進めていった。


スクウィーカ

「武器を持ち込む人もだいぶ減ってきましたね。そろそろ今日はこのあたりで終わりにしましょうか?」


 エルフの国は森に覆われ空がほとんど見えないため時間の感覚が狂う。ここでは仕事が終わる時間だと言うのだから、それに従うことにする。


ユウ

「最後に仕事の進捗を上に報告するためこの兵器の山をスマホで撮影してもいいか?」


スクウィーカ

「ええ、どうぞ。そうだ。私も写してくれませんか?この仕事は間違いなく歴史的偉業として後世に残るはずです」


 そういうとスクウィーカは兵器の山の頂点に立ち両手を広げ、いかにも自分がこの仕事を成し遂げたようなポーズを取り写真に取られた。


スクウィーカ

「タイトルは『もし私に可能ならば、私はこの世界の武器を全て取り上げたい』とでもしましょうか?」


ユウ

「いかにもって感じで、いいと思うぞ。それじゃ今日はありがとう本当に感謝するよ」


 俺がそう言い終え帰路につこうとしたその時。


スクウィーカ

「ユウさん少々お待ちを」


 しばらくすると先ほどのスクウィーカがボトルとグラスを持って現れる。


スクウィーカ

「どうぞ冷えたワインを。」


 彼はそう言って赤ワインを注ぎ俺に差し出すが俺は丁寧に断る。


ユウ

「悪いけど未成年なんだ。他の物をもらえるかな?」


 彼は驚いた様子でボトルを掲げる。


スクウィーカ

「未成年?ユウさんおいくつですか、私からすれば地上の人間の年齢なんか誤差みたいなものなのですがね。」


 俺に差し出したワインを飲み始め、言葉を続ける。


スクウィーカ

「これは地下教皇領で生産されたワインでね。普通では到底手が届かない代物ですよ。独立武装解除委員長のユウさんには自慢させていただきますがね。私は北部戦線で活躍し聖エメトリウス騎士勲章の勲二等を受章しただけでなく突撃章を四度授与された際に教皇デナグから直々にこのこれを賜りました。」


 これまで俺と共に武装解除の任務に携わってきたスクウィーカは戦士階級に属している。ただの案内役ではなく万が一、以前顔を合わせたルマロキのような和平合意反対派が襲撃してきた場合に備え、エルフの王から護衛としての役目を託されていたのだろうか。


ユウ

「その教皇デナグってどんな人物なんだ?」


スクウィーカ

「ユウさん南部出身ではないですか? 誰でも知っていることでしょう。まさか貴方はミコトが隣国の後燕から招いたお雇い外国人だったりしますか? まあ、どちらでもいいですが。」


 俺が答える前に彼は地下世界の気候や土地について説明し生産されるワインのウンチクを交えながら語り始め最後にデナグがどんな人物かを一言で表現する。


スクウィーカ

「そう、このピノノワールのようにね」


 俺は簡潔にまとめる。


ユウ

「なるほど繊細かつ魅力的な人物ということね」


スクウィーカ

「私の言いたい事を一言で表してくれるなんて、貴方の雇用主ミコトが独立武装解除委員会の委員長に選んだのが納得だ」


どうやら俺のことを完全に外国人だという体で話を進めているようだ。転生者である俺は実際にそのようなものなのだが。


ユウ

「ありがとう」


 そう言うと俺のスマホが着信音を鳴らす。


スクウィーカ

「失礼、まだお仕事の最中でしたか勝手に終わったものだと思ってましたよ。それではまた明日会いましょう」


 酔いも回り自身の自慢話に満足したのか、そのスクウィーカは俺にボトルを左手に握らせると地下産の空間推進機を起動し驚異的な速度で森の中へ飛び去っていった。


ユウ

「動きが洗練されているな。機動力は一見したところミコトと同等だろう。」


 そんなことを考えながら鳴り続けるスマホを操作し俺は電話に出る。


ミコト

「ユウ、大丈夫!?今そちらに向かっているわ!すぐに野営地に戻ってきて!」


 ミコトは開口一番に緊迫した声で俺に呼びかける。


ユウ

「俺の方は大丈夫だけど、なにかあった?」


ミコト

「いい!?とにかく周囲に警戒しまっすぐ今すぐ野営地に戻ってくるのよ。じゃ切るわよ!」


 そう言い放たれ俺とミコトの通話は途切れた。


 何をそんなに警戒するのかと思うがミコトがそう言うんだ早く帰ろう。俺は大穴周辺の駐屯地へ向かうため空間推進機を起動させ飛び立つ。


 森を抜けると陽の光が目に飛び込みいつもより眩しく感じる。


ユウ

(これがやりがいってのだろうな。)


 心の中で呟き充実感を感じながら俺は空を切る。左手に握られたワインが赤く輝きを放つ。

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