十四話「ハ人民共和国首都陥落」
ゾンガの副官であろう男が親衛軍四名を引き連れ軍刀を構えミコトに突撃を仕掛ける。
ゾンガ
「お前の相手は俺だよ!」
俺はミコトを援護しよう前に出るもゾンガの放つ弾丸が目の前横切る。
ゾンガは、ドミトリーに劣らない空中機動で俺の銃撃を巧みに回避し翻弄してくる。おそらく近接戦闘が得意ではないため自ら仕掛けてくることはないのだろう。しかし常に後方に位置しながら突撃を敢行する兵士たちへの援護射撃は的確で無駄がない。ゾンガもまた確かな実力を持つ強者だ。
ミコトは親衛軍四名と戦い次々と切り伏るが最後に副官の身体を軍刀で貫いたが彼は身体に巻き付けられた爆弾を起爆させ自爆する。
ワイツマン
「ゾンガ将軍! 先に逝きます! 人民平等党万歳!」
これまで自爆攻撃は下級兵士のみ行う戦法であり高級幹部であろう人間が至近距離で自爆するとはミコトにとって想定外だったに違いない。
廃墟の中に叩きつけられたミコトは意識を失う。
ゾンガ
「ワイツマン君! よくやってくれた!」
ゾンガは爆死した副官を称えつつミコトにまっすぐ向かう。
俺はゾンガに銃口を向けて弾丸を放ったが吶喊してくる親衛軍に邪魔され狙いが逸れてしまった。
ゾンガはミコトの身体を起こして盾にし俺に向けて銃撃を試みる。その時ミコトを盾にしたゾンガの不敵な笑みがはっきりと俺の目に焼き付いた。
ゾンガ
「どうだ撃てまい!?」
ゾンガは対物狙撃銃を背中にマウントし二式小銃に持ち替え俺に銃撃を加える。
俺はゾンガを罵倒しながら銃撃を弾く。
ユウ
「お前のような外道が勝てると思うな!」
ミコトを盾にして俺に銃を乱射するゾンガの威勢は先ほどとは打って変わり勢いを増す。
ゾンガ
「ミコトの周りを飛ぶ烏野郎が! 同志達を何人殺したんだ!? 死ね!」
ゾンガの後方から軍刀を持った最後の人民平等党兵士三人が俺に向かい吶喊する。
ミコトが人質に取られているせいで俺は迂闊に手を出せない。もし一対一に持ち込めれば容易く倒せるはずだ。だが常に後ろに陣取り人の弱みを盾にして強気に出るゾンガの卑劣な精神に苛立つ。
ユウ
「チッ!」
俺が切り伏せた人民平等党兵士の脇を巧みにすり抜けながらゾンガはミコトを投げ捨て、素早く俺の左側へと回り込んで対物狙撃銃構える。
ゾンガ
「取った!」
ゾンガの銃口が俺をとらえる。
俺は素早く二式ライフルに持ち替えスキル〈絶対照準S〉を発動し、ゾンガの銃口に銃弾を撃ち込み、奴の小銃を爆発させ左腕が吹き飛ぶ。
ゾンガ
「あああああああああああ腕がああああああああ!」
地面に激突する寸前ミコトは覚醒し空間推進機を起動しゾンガ目掛けて吶喊し軍刀で斬撃を加える。
ミコト
「この屑!」
ゾンガは半壊した対物狙撃銃で攻撃を防ぐも廃墟に叩きつけられる。
ゾンガは右腕の止血をしながら周囲に呼びかける。
ゾンガ
「誰か、まだ残ってる奴はいるか! ?六と六十八、八十か!? 早く奴に突っ込め!」
ゾンガは右腕を振り回し再び視線の先に入った自爆兵に命令を出すが誰も従わなかい。
ユウ
「お前があれほど威勢がよかったのも、ただ暴力で国民をねじ伏せていただけの話だ。力がないと誰が見ても明らかになればお前に従う者など誰一人いない。」
ゾンガ
「ドミトリーの統治を嫌がる貴様ら北部出身者の難民を受けれてやったのは誰か忘れたか!? 命令不服従者は本人だけでなく家族も強制収容所送りだぞ!」
その言葉に耳を傾ける者はいない。
ゾンガ
「国家の歯車は俺が死ねと言えば死ね! 誰が国家か!? 俺は共和国の最高指導者だぞ〝俺が主権者だ!〟俺が旧総裁政府に無理難題を毎日命令され実行してきたように貴様らもそうするべきなんだ!」
俺とミコトはゾンガの目の前に立ち軍刀の刃を向ける。
ミコト
「言いたいことはそれだけ?」
ゾンガは満身創痍な上に精神的にも完全に追い詰められた様子で、それでもなお言葉を紡ぎ続けていく。
ゾンガ
「ミコトは俺を捕縛した後は戦犯として裁くのか? お前は俺たちの友人だったドミトリーを殺しただけには飽き足らず、共にパーティーを組み地下を冒険してきた俺を死刑にするつもりか? それにデナグに対しても同じ仕打ちをするつもりだろう!? なんて酷い奴だ、お前の横にいるそいつは誰だ? お前たちが切り殺したきた人民平等党員は今次内戦を指導した旧総裁政府による無策の中、生き残った同志達だったのだぞ。ミコトの本性は戦いを通じてよく分かった、断言してやる! お前はあの暴虐な総裁政府の精神を継承する東部労働者階級の敵だ!」
ゾンガの非難に対し静かにミコトは言葉を返す。
ミコト
「皮肉なものね、ゾンガ。あなたが忌み嫌っていた総裁政府の崩壊の姿を政治思想こそ異なれ、あなた自身が私との戦いの中で精神性のみならずその無謀な戦法までも再現してしまったのだから。結局、貴方がつくりあげたハ人民共和国も総裁政府の継承国家だったのよ。」
ゾンガ
「共和国が旧総裁政府の継承国家とは何事だ。考えてみろミコト、共和国と南部政府との圧倒的な戦力差の前では、それ以外に選択肢はなかった。ミコトがドミトリーの艦隊に対し戦いを挑んだことと同じだ。それに非人道的だろうが共和国の戦いは東部労働者たちの権利と幸福を守るためのやむを得ぬ闘争だった。断じて旧総裁政府の終身執政官タニアのように過去の人間の名誉、国家の栄光という大義名分のもと今を生きる人間の死地へ送りデナグとドミトリーに敗北したのではない! しかし、こうなってしまっては全てが終わりだ。俺だけ生き延びていては共和国に命を捧げた同志たちに顔向けできない」
ゾンガは右手からすばやく拳銃を取り出し自らのこめかみに銃を当て、引き金を引き、勢よく倒れる。
ミコト
「むなしい戦いね…」
頭部の半分が吹き飛び力なく倒れたゾンガの遺体を見てミコトは静かに呟く。
ユウ
「これで終わりじゃないさ……まだ戦闘を終了を知らないハの国東部では戦いが継続され、俺たちがこの目で見てきた光景が繰り返されている」
ミコト
「それを終わらせる仕事がまだ残っているわね」
俺はミコトの次の使命を支えることを決意し、共にこの場を後にする。




