十二話「強襲〈七七部隊〉」
俺はハ人民共和国の上空をミコトと共に翔ける。目指すは敵の首都だ。
眼下には森林、眼前には砲撃により破壊され廃墟になった都市が広がる。先遣隊からの報告によると人民平等党本部前の広場では軍事パレードが繰り広げられているらしい。
俺はミコトはゾンガの意図を尋ねられる。
ミコト
「こんな状況で軍事パレードを行うなんてゾンガは一体何を考えているの?」
ユウ
「ゾンガの目的は地方が占領されようと首都は健在であり未だ戦えると味方の士気を高め国家の健在を示す。演説後、兵士たちは即座に前線へ向かい首都を死守するのだろう。これは示威だけでなく戦意高揚と即戦力投入の作戦なんだ」
俺が簡潔に答えた瞬間、視界の先に人民平等党航空兵の編隊が映り込む。その数およそ二十名。さらに兵士全員が身体に爆弾を巻きつけているのがはっきりと見える。
人民平等党航空兵
「いいか!繰り返すぞ!青い線を引き抜いたら次は赤で起爆だ!」
そう言い終わると編隊最右翼がいきなり爆発し隊列が大きく乱れ始める。
人民平等党上級航空兵
「各自健闘を祈る!」
先頭を飛ぶ練度の高そうなリーダーが振り向き支持を伝える。そして先導を終えると戦線から離脱していった。
残された俺たちに向かって一斉に突撃を仕掛ける。
俺とミコトは即座に反応し自爆兵たちを次々と射殺する。攻撃を凌ぎ切ると空には再び静寂が戻る。
これまでに遭遇したハ人民共和国の航空兵はドミトリー艦隊の艦載部隊とは異なり練度が著しく低い。空中移動適性の低い中兵士たちも空間推進機を装備しているのは確かだろう。その速度は遅く、さらに飛行はほぼ直線的で自由な機動には程遠い。俺とミコトはもちろんハの国一般兵士の回避運動すら捉えることができず、まるで的になるために飛んでいるようだ。
ユウ
「駆け引きを知らない突撃は御しやすいな。」
俺はそう言いながらも無謀な戦法がもたらす犠牲に複雑な感情を抱く。彼らは、それ以外に俺たちへ有効打を与える手段がないと理解しているのだ。
次の瞬間、超高速で俺たちの目の前に現れた。その姿はこれまで戦ってきた人民平等党軍とは一線を画す、明らかに優れた装備を身にまとった三人組だ。
ミコト
「その腕章、〈七七部隊〉ね」
その姿を見たミコトが軍刀を構え臨戦態勢に入る。
ユウ
「ここは俺に任せろ。ミコトは先に行って首都で戦う兵士たちの士気を鼓舞してくれ」
俺は一刻も早くこの戦いを終結させたいためミコトに先に行くよう提案する。
ミコト
「ユウの言いたいことはわかるわ。ハの国の代表である私が敵の政治的中心地に姿を現すことは敵味方双方に計り知れない政治的インパクトを与えるってことよね。」
俺は頷きミコトを送り出すと親衛軍兵たちに向きる。彼らの姿は威圧的だ。二人は巨大な鎌を持ち、もう一人は巨大なハンマーを握りしめている。
三人が一列に並び俺に目掛け突撃を開始する。
俺の頭上に打ち下ろされるハンマーは容易く躱せたが敢えて俺は攻撃をせず次の攻撃に備える。次に俺が対処する二人の連携はまるで一人が動いているかのような錯覚を生じさせる。その連携攻撃が繰り出される瞬間、一人がまるで二人に分身したかのように見えた。
一人目の攻撃を軍刀でいなし、二人目の攻撃を何とか受け止めたがその重さに腕がしびれる。
時間差での攻撃に不意を突かれただけでなく想像以上の力で俺は地面に叩きつけられる。この三人の連携力はこれまでの敵とは一線を画している。
ユウ「っ!」
さらに追撃が迫る。蛸壺に潜んでいた六人の兵士が軍刀を握りしめ空間推進機を起動させ俺に向かって突撃を開始する。
俺は素早くライフルを構えて反撃したがリーダーらしき人物は俺の放った弾丸を軍刀で弾き返し、猛然と距離を詰め叫ぶ。
人民平等党親衛軍航空兵
「散開し全方向から切り込むぞ!」
次々と繰り出される四方八方からの敵の斬撃が俺に襲いかかる。確実に俺の隙を突き仕留めるつもりだ。
一人目、二人目、三人目、四人目、五人目、俺は次々と迫りくる敵の斬撃をいなし、次々と切り伏せていく。
最後の六人目の敵は俺の背後に回り込み軍刀で貫こうとした。しかし、俺は咄嗟に軍刀を横向きに構え刃を後方へ突き出すことで迎撃に成功する。
刃を引き抜く中、巨大な鎚の面が音を立てて俺の頭上に迫ってきた。
俺は飛翔して間一髪で回避したがハンマーの頭が突然分離し鎖で繋がれていることに気づいた。その鎖が空中で跳ね回り、俺の左腕に巻き付いてくる。
ハンマー使いが鎖を引き俺を拘束しようする。
鎌を持つ二人が再び突撃コースに入る。どうやら動きを封じ鎌使い二人との連携で俺に攻撃を加えるようだ。
動きを封じられた俺はスキル〈身体強化S〉を発動させ全身に力がみなぎる。
左腕に巻きつけた鎖を右手でぐっと引き寄せ、全身の力を込めて振りかぶりハンマー投げのようにスイングする。ハンマーを操る者の身体が勢いに導かれるように鎌使いへと迫り、渾然一体となった力と重さが鎌使いを捉え地面へと叩きつける。
二人が地面に叩きつけられ土煙とともにクレーターが生じる。
最後の鎌使いが吶喊し斬撃を繰り出してきた。しかし俺は素早く懐へ飛び込み袈裟斬りを叩き込み敵の息の根を止める。
軍刀を鞘に入れながら俺は地面に叩きつけられた二人の敵に視線を向けた。そこにあったのは原型を留めぬ無残な姿。戦闘不能は確実だ。
激闘を終え息を整えていると鎌と槌を組み合わせた図柄に七七と刻まれた腕章が俺の顔に張り付いた。それを手に取り顔についた血を軽く拭うと静かに右ポケットへ入れる。
そして俺は空間推進機を起動し地を蹴り飛びミコトの後を追う。




