1. 虚ろの都市
プロローグに続き1話です。
錆びついた鉄橋の上で、ソウタ・青嵐はユウジン・桐生と対峙していた。
魔導都市アーク・ゼニス——この世界の中心にそびえる、魔法と科学が融合した塔のごとき都市。その最下層で、二人の視線がぶつかる。
「お前が何をしようとしているか、わかっている」
ユウジンは冷ややかに言った。
「なら話は早いな」
ソウタは軽く笑いながら、手にした設計図を折り畳んだ。
これは、誰もが魔素を扱えるようにする魔導回路の設計図。
現在、魔導技術は特許によって管理され、大企業が独占している。貧しい者たちは、高額なライセンス料を払えず、魔導の恩恵を受けることすらできない。
だが、もしこの技術が広まれば——誰もが平等に魔導を使える世界が訪れる。
「理想論だな」
ユウジンはため息をついた。
「技術は管理されるべきだ。無秩序に広めれば、犯罪にも悪用される」
「お前らの管理のせいで、都市の外縁は砂漠化し、見捨てられた人々がいるんだぞ」
ソウタの言葉に、ユウジンは目を細めた。
「……覚えているか?」
「何をだ?」
「お前がかつて、この都市のために働いていたことを」
その言葉に、ソウタは唇を噛んだ。
かつて彼はゼノ=インダストリアのエンジニアとして働き、都市の魔導システムの開発に携わっていた。だが、ある日、外縁の人々が切り捨てられる決定を知り、企業を離反したのだった。
「昔の話だ」
「お前が何を考えているかは、手に取るようにわかる」
ユウジンが片手を上げると、背後の影から黒い装甲兵たちが姿を現した。
ゼノ=インダストリアの私設部隊、「魔導制圧隊」。
「お前を拘束する」
「チッ……!」
ソウタは即座に設計図を内ポケットに押し込み、橋の手すりへと飛び乗った。
「——またな、ユウジン」
そう言い残し、ソウタは迷わず身を投げた。
次の瞬間—— ゴウンッ! と重い衝撃音が響き、橋の下に土煙が舞い上がった。
爆風のような衝撃が四方へ広がり、鉄橋の骨組みがわずかに軋む。
だが、ユウジンは眉一つ動かさず、ただ手すりの向こうを見つめていた。
「……チッ」
風に巻かれて消えていく砂ぼこりの中、ソウタの姿はすでになかった。
ユウジンは静かに息を吐き、背後の兵士たちに命じる。
「……追跡しろ」
⸻
重い息をつきながら、ソウタは暗がりの中に身を潜めた。
工場街の裏路地——鉄屑の山の間に腰を下ろし、胸をなでおろす。
「……はぁ、なんとか逃げ切ったか」
そのとき、周囲の闇がふわりと青白く染まった。
「お疲れさまです、ソウタ」
低く響く機械音と共に、宙に浮かぶ小さな光球が現れる。
黒曜石のような滑らかな本体。その中心にある瞳が、わずかに細められた。
「相変わらず無茶をなさいますね」
ウィズ——彼の相棒であり、秘密のAIロボットだ。
「無茶しなきゃ、生き残れねぇんだよ」
ソウタは苦笑しながら、立ち上がる。
ウィズはふわりと浮かびながら、小さくため息のような電子音を鳴らした。
「では、次の計画についてお聞かせいただけますか?」
「その前に、ちょっと休ませてくれ……」
夜の工場街——蒸気とオイルの匂いが漂う中、ソウタは一息つく。
彼の胸ポケットには、まだ折り畳まれた設計図があった。
蒸気のこもる薄暗い路地で、ソウタは胸ポケットから 折り畳まれた設計図 を取り出した。
紙の端は少し焦げており、ところどころ煤けている。
「……まだ読めるな」
設計図には、精密な魔導回路の構造が記されていた。
だが、肝心の部分には いくつもの暗号 が施されている。
ウィズがゆっくりとソウタの肩の横に浮かび、瞳を淡く光らせる。
「解析しましょうか?」
「いや、今はいい」
ソウタは設計図の 右下 に視線を移す。
そこには、次の目的地を示すように 「第七区」 の文字が記されていた。
「……やっぱり、スラムか」
ウィズはわずかに瞳を細める。
「スラムはこの都市でも最も危険な区域です。魔導犯罪の温床であり、正規の治安維持機構はほとんど機能していません」
「だからこそ、都合がいい」
ソウタは設計図を畳みながら呟く。
正規の機関に属している限り、この回路の情報には簡単にアクセスできない。
だが、スラムなら 裏のルート がある。
そのとき——
遠くで 鉄屑が崩れる音 が響いた。
ソウタは素早く設計図をポケットにしまい、ウィズに目配せする。
「移動するぞ」
「承知しました」
宙に浮かぶウィズの瞳が、一瞬だけ鋭く光った。
明日も投稿予定です。




