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天空を衝く街にて  作者: ぴろしき
《第1章》 崩れる均衡
2/2

1. 虚ろの都市

プロローグに続き1話です。

 錆びついた鉄橋の上で、ソウタ・青嵐はユウジン・桐生と対峙していた。

 魔導都市アーク・ゼニス——この世界の中心にそびえる、魔法と科学が融合した塔のごとき都市。その最下層で、二人の視線がぶつかる。


 「お前が何をしようとしているか、わかっている」

 ユウジンは冷ややかに言った。


 「なら話は早いな」

 ソウタは軽く笑いながら、手にした設計図を折り畳んだ。


 これは、誰もが魔素を扱えるようにする魔導回路の設計図。

 現在、魔導技術は特許によって管理され、大企業が独占している。貧しい者たちは、高額なライセンス料を払えず、魔導の恩恵を受けることすらできない。


 だが、もしこの技術が広まれば——誰もが平等に魔導を使える世界が訪れる。


 「理想論だな」

 ユウジンはため息をついた。


 「技術は管理されるべきだ。無秩序に広めれば、犯罪にも悪用される」

 「お前らの管理のせいで、都市の外縁は砂漠化し、見捨てられた人々がいるんだぞ」


 ソウタの言葉に、ユウジンは目を細めた。


 「……覚えているか?」

 「何をだ?」

 「お前がかつて、この都市のために働いていたことを」


 その言葉に、ソウタは唇を噛んだ。

 かつて彼はゼノ=インダストリアのエンジニアとして働き、都市の魔導システムの開発に携わっていた。だが、ある日、外縁の人々が切り捨てられる決定を知り、企業を離反したのだった。


 「昔の話だ」

 「お前が何を考えているかは、手に取るようにわかる」


 ユウジンが片手を上げると、背後の影から黒い装甲兵たちが姿を現した。

 ゼノ=インダストリアの私設部隊、「魔導制圧隊」。


 「お前を拘束する」

 「チッ……!」


 ソウタは即座に設計図を内ポケットに押し込み、橋の手すりへと飛び乗った。


 「——またな、ユウジン」


 そう言い残し、ソウタは迷わず身を投げた。


 次の瞬間—— ゴウンッ! と重い衝撃音が響き、橋の下に土煙が舞い上がった。


 爆風のような衝撃が四方へ広がり、鉄橋の骨組みがわずかに軋む。

 だが、ユウジンは眉一つ動かさず、ただ手すりの向こうを見つめていた。


 「……チッ」


 風に巻かれて消えていく砂ぼこりの中、ソウタの姿はすでになかった。


 ユウジンは静かに息を吐き、背後の兵士たちに命じる。


 「……追跡しろ」




 重い息をつきながら、ソウタは暗がりの中に身を潜めた。

 工場街の裏路地——鉄屑の山の間に腰を下ろし、胸をなでおろす。


 「……はぁ、なんとか逃げ切ったか」


 そのとき、周囲の闇がふわりと青白く染まった。


 「お疲れさまです、ソウタ」


 低く響く機械音と共に、宙に浮かぶ小さな光球が現れる。

 黒曜石のような滑らかな本体。その中心にある瞳が、わずかに細められた。


 「相変わらず無茶をなさいますね」


 ウィズ——彼の相棒であり、秘密のAIロボットだ。


 「無茶しなきゃ、生き残れねぇんだよ」

 ソウタは苦笑しながら、立ち上がる。


 ウィズはふわりと浮かびながら、小さくため息のような電子音を鳴らした。


 「では、次の計画についてお聞かせいただけますか?」


 「その前に、ちょっと休ませてくれ……」


 夜の工場街——蒸気とオイルの匂いが漂う中、ソウタは一息つく。

 彼の胸ポケットには、まだ折り畳まれた設計図があった。


 蒸気のこもる薄暗い路地で、ソウタは胸ポケットから 折り畳まれた設計図 を取り出した。

 紙の端は少し焦げており、ところどころ煤けている。


 「……まだ読めるな」


 設計図には、精密な魔導回路の構造が記されていた。

 だが、肝心の部分には いくつもの暗号 が施されている。


 ウィズがゆっくりとソウタの肩の横に浮かび、瞳を淡く光らせる。


 「解析しましょうか?」


 「いや、今はいい」


 ソウタは設計図の 右下 に視線を移す。

 そこには、次の目的地を示すように 「第七区」 の文字が記されていた。


 「……やっぱり、スラムか」


 ウィズはわずかに瞳を細める。


 「スラムはこの都市でも最も危険な区域です。魔導犯罪の温床であり、正規の治安維持機構はほとんど機能していません」


 「だからこそ、都合がいい」


 ソウタは設計図を畳みながら呟く。

 正規の機関に属している限り、この回路の情報には簡単にアクセスできない。

 だが、スラムなら 裏のルート がある。


 そのとき——


 遠くで 鉄屑が崩れる音 が響いた。


 ソウタは素早く設計図をポケットにしまい、ウィズに目配せする。


 「移動するぞ」


 「承知しました」


 宙に浮かぶウィズの瞳が、一瞬だけ鋭く光った。

明日も投稿予定です。

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