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飲み会の女王と呼ばれた私、急アルで倒れ無事乙女ゲームに転生しました。

作者: ヨン



 完璧な笑顔。


 完璧な距離感。


 小動物を彷彿とさせる上目遣い。


 自分でも自覚するほどのド天然。


 そしてこの可愛らしい容姿。


 恥ずかしいけど、飲み会の女王様、それが私のあだ名だった。

 本当に、考えた奴には右ストレートをお見舞いしてあげたいくらいには恥ずかしい。


 だって大学の廊下を歩くたびに、「あの人が女王…」やら「可愛い、これが彼女が女王である所以か!」やら毎回言われるんだよ!?死んじゃうよ!?

 こう見えて私は高校の時はモテなかったし、ただの陰キャだった。


 彼氏いない歴イコール年齢の私も、その時ばっかりは危機感持ってたから碌にしてこなかったメイクとか頑張ってみたら、


…見事に大学デビューに成功してしまい、この有様。


 きっと、モテる才能があったんだろうね、顔も人並みには可愛いと思うし、男の人と関わってからすごいモテるようになった、今は彼氏欲しくないけど。


 自慢してるように聞こえるけど、本当に困ってるんだよ!(笑)


「飛鳥ちゃん、今日もかわいいね(イケメンボイス)」


「えへっ、五十嵐くんもかっこいいと思うよ?(可愛いボイス)」


 で、そんな私は…


「ゔ、ゔぉぉうぅえぇぇ」


「おぉ〜い、大丈夫かよぉ」


 盛大にゲロっていた。

 これを見たらしつこい五十嵐くんはどう思うのやら、


 今日は私、佐藤飛鳥の二十歳の誕生日!人生で初めてのお酒!飲み会で盛大に飲むぞ!!と、盛大に飲んでいたらこうなりました。



「ぎもちわいぃぃぃぃぃ」



 気持ち悪い、酔うってこうゆうコト?

 めんどくさいし、普通はやらないと思ったからアルコールのパッチテストをしてなかったのもあるけど、まさかここまでお酒に弱いとは思わないでしょう。


 まぁ、調子乗ってがぶ飲みしてたからなんだけど、


「おぉ、ゔぁぉぉえぇ」


 飲みすぎた、本当に飲みすぎた、ゲロがやけに水々しいし、股が濡れてるような感覚もある。

 吐けば吐くほど気分が悪くなる。今の私を見たら謎フィルターがかかってる男どもにも流石に引かれそう。

 すると、外で吐いてるからか肌寒くなってきた。


「さうい…いよぉ」


 心なしか目眩もしてきた気がする。


 もしかしたら急性アルコール中毒の前触れとか?しかも、すごいアルコール臭い。なわけないか、あぁ、眠い、外だけど、まぁいっか、寝よ…


ーー


 今思うと、私は本当に馬鹿だった、うん、友達選びには気を付けたほうがいい。

 泡を吐いて気絶した私のことを友達が、「寝た!?」と勘違いしたことで放置された。

 それはつまりどうゆうことかと言うと、二、三時間放置された私は死んだ。


「うん、死んだ」


 流石エフラン(私も)、急アルも知らないだなんて、義務教育でも習う常識なんだけれども。倒れて泡も吐いたんだから救急車くらい呼んでくれてもいいじゃない?あとついでにアルコールのパッチテストの義務化を、


 と、ゆうわけで馬鹿な友達のせいで、私は死んでしまった。えじゃあ今なんで喋れてるんですか!?そう、何故かと言うと、


「アリス様ひどい!こんな仕打ちなんて!」


「なんて、下種な…」


「アリス、どうにか言ったらどうなんだ」


 アリス、聞き覚えがある名前だ、そして目の前にいる紅一点の美人達も、


 そうか、私は乙女ゲーム[あなたは幸せなプリンセス]の主人公でありヒロイン。アリス・アメリア一般市民に転生したのだ、しかもバットエンド直後に。


 悪役令嬢のセリフからして、昨日難かしいあなプリ(略)に萎えてやめてしまった所だ。しまった、少し前のいちゃこらシーンでセーブするべきだった。


「ほら、証拠も全部揃ったでしょ!もう私の前からいなくなって…!」


「リリアナはこんなに傷ついてるいんだぞ!」


 はいでました自作自演のリストカット、やっぱり昨日辞めた物語第一章の中盤ね。私を陥れるためにわざわざ手首を切ってくださるなんて、滑稽にもほどがあるワ。しかも証拠は手首だけ、それを信じる囲いもどうかと思うが、


「それは自作じえ、」


「可哀想にリリアナ、今すぐ僕がこいつを断罪しよう」


 そう言うと銀色の髪色を持つ青年はリリアナを庇うように抱きつく。


こいつはちょろいなぁ、ストーリー上こいつらは今日出会った筈だよ?


 しかし、どうしてこんな一周回って呑気に居られるんだって?だって私、この後処刑されるもん。


あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぅ!…


 思わず叫びたくなるが、脳内で押さえておく。


 昨日始めたばっかりの乙女ゲーム。ストーリーは原作小説で知ってて、事件の真相を知ってる私だが、どうやって伝えよう。


 すると、悪役令嬢の隣に立つ赤髪の青年が、


「この女、品性のかけらもない!この学園、いやこの国に相応しくない!処刑だ!処刑!」


 なんて赤髪の青年、このゲームで一番攻略が簡単なアルさんが言っております。

 なるほど、今までバッドエンド続きだったのはアルに話しかけてなかったからか。

 いや、時すでにおそし、アルはすでに腰に下ろしていた剣を抜いている。


「ちょちょ、ちょっと待って!証拠って、リストカットだけでしょ、それだけじゃ…」


「庶民がうるさい!」


 言い訳も虚しくアルに遮られてしまった。


 話が通じないとはこのこと、典型的なアホ王子。

 さらに忌々しいことに、この場に居る誰よりも権力が高いと言う。何故かアルは一番攻略が簡単なくせに第三王子なのだ。


 恨めしくアルの背中に隠れているリリアナを見ると、ニヤついてるのが見えた。


「やだ、こっちをみないで!」


「その濁った瞳でリリアナを見るな!」


 こいつらぁぁぁあぁぁ!

 しかし、恨んでも状況は変わらない。むしろ怒ってリリアナを睨みつけたらさらに状況が悪くなるだろう。

 ここから入れる保険ありますか?死んだらコンテニューできるみたいな。


「アル…様…」


 一か八か、私はつぶらな瞳でアルを見つめた。


「なんだ、その…目は、」


 アルは口元を手で覆った。顔も赤いから、私のことが気持ち悪いと言うわけではなく、照れてると思う。


 よし、成功ね!


 これがアルくんは照れ屋さんで、ちょろくて、アホで、攻略が一番簡単と言われているわけ。勿論ファンは少ない。もし頭が良かったら正義感があって良い奴なのかもしれないが、アホだ。

 全て自分が正しいと思い、考えを曲げない、アホだ。


「アル様…どうか明日まで、猶予をくださいませんか、私はリリアナ様のことを傷つけたりなどしてません、本当です、ですから」


 私はさらに涙を出しアルに近づく、小動物を彷彿とさせる上目遣いをしながら。


「な…うな、え、おぉ、いぃ」


 アルも可愛い私を見て、どうしようかと小さい脳みそで考えてるようだ。

 するとリリアナがアルに抱きついて、


「アル様だめ!そんな奴の言ってることに騙されないで!」


「…た、確かに、それもそうだ」


 あと僅かなところで邪魔をされてしまった。しかしそれも想定内、


「アル様、本当なんですぅぅ!」


 ぽにゅっ


 私はアルに抱きついた。そして、その時に鳴った効果音は私の前世のお粗末な胸板より三まわりは大きな胸を当てた音だ。


これぞ、私の大学生活で会得した奥義!


急接近からのパイタッツムーンアサルト!!!!!

エボリューション!!!!


 この技を食らった男は一人残らず私の虜になっていった。そしてアルは、


「ぬ、ぬぅあぁぁあ」


「アル様、どうか…」


「ぬぅ、わかったよし、許そうお前の涙に免じて、ちゃんと反省しているのはわかった」


「えぇぇぇ!?!?」


 真っ赤なアルに、リリアナは目を見開いて驚いている。そんなことを無視して私は次の授業の教室へ駆けて行くのだった。


 そうして、私は束の間の幸せを手にすることができた。


ーー


 次の日


「あぁ、優越だわぁ」


 と言い、私は右手にミルクコーヒー、左手に本を持ちながらぐったりとしていた。


 [あなたはは幸せなプリンセス]に転生してから一日経った、今日は休日である。


 しかし、優越と言っても、退屈だ。

 お腹が空いてるが家に食べ物は絶望的にないから、コーヒーで誤魔化す。左手に持っている本もたいして面白いものではなかった。

 高校の陰キャ時代に読みまくった本だが、それはラノベで、このゲーム内にある桃太郎みたいな小説ではない。感想は、異世界なのに文字が日本語で凄かった。


 さぁて、この乙女ゲームについて私がみんなに教えていこうじゃないか!


 トータル売り上げ五百万本、ジャンルとしてはオープンワールドのアドベンジャー恋愛乙女ゲーム。


 グラフィックはエ○デンリ○グやブ○ワイにも劣らず、ストーリーも原作を忠実に再現されてて面白い。

ちなみち原作小説の売り上げ部数はなんと八百万部である。


 そしてここからが凄い!キャラクター(女性含め)全員全NPCと結婚することができる!木こりのおじさんも、果物屋のおばさんも、王様も、お父さんも、全員!


 そして木こりのおじさんより攻略が簡単なのが、アルである、なんつって。


 とんでもなく自由度が高いゲームだ。


 説明終わり、ここからは暇を潰す方法を考えよう。前提条件として、折角の休日だから、家ではなく、外で遊びたい。ちなみに、オープンワールドのゲームだから道のりは知ってるし迷子の心配はなし。


すると母親の私を呼ぶ声が聞こえる。


「アリスーっ、お客様が来ているわよ!」


「はぁーい!」


 こんな時にダレカシラ、でも丁度いいわ、学園の人は誰も私の家を知らないから、少なくとも友達ではないと思うのだけれども。


 そして、私はソファーから立ち上がり、家の玄関の扉を開ける。

 なんとなく悪寒がするんだけど…


「はぁい、どちらさマッ…!?」


「随分と小さい家に住んでいるのだな」


 なんと、私の目の前には、アルが立っていた。


(こいつ、もしかして私に好かれてるって勘違いした?やっぱり見た目によらず馬鹿だね、私服もカッコつけてるし、髪方も、いや妄想で語るのはやめよう)


 すると、アルは胸ポケットにある手紙らしきものを取り出し私に差し出す。


「これを受け取ってくれ」


「ラララ、ラブレター!?」


 やっぱりそうだったのね!汚らわしい、ここまで私を不快にさせた男はアルが初めてだワッ!

 何度も私にたかよってくる不躾な男共は大勢居たが、ここまで痛々しくはなかった。

 するとアルが怒った口調で、


「違うわぁ!そんなものではない!私はお前よりリリアナを愛してる!」


「あ、怪しい…」


「ぐぬ、ぅ、まぁ封筒の中身はすぐに確認しておけ……気の毒にな」


 そして私に赤い封筒を渡したアルは早急に去って行った。


 なんだろう、この赤の封筒から物凄く禍々しいオーラを発されてるような、


 私は再度自室に戻りソファに腰掛ける。


 封筒はえらく丁寧に手紙を収納していた、おそらくアルの手作りじゃなくて、学校?から送られてきた資料だ、或いは国。

 なんにせよ手紙を読もうとした刹那、



「あぁた、随分イケてる子だぁったわねぇ、もしかして彼氏?」


「彼氏じゃないよ、学園で忘れ物したのを届けに来てくれただけ」


 部屋に勝手に入られた挙句茶化される私、この人が本当のお母さんだったらブチギレていただろう。


「いいからお母さん、出てって」


「はぁい、あんたも青春ね」


「うるさいばばぁ!」


「うふふふふ」


 そうして母さんは笑いながら部屋を出て行った。

 そして見られないよう急いで服に隠した手紙を開けると、


/11月10日午前六時、最高裁判所に強制招集する。

来なかったら場合は罪を認めるものとする。/


 それを見た途端私は頭を抱えてしまった、もはや笑みさえ溢れてくる。短く簡単な文章で誰でもアルでもわかりやすい。こんな物ならラブレターの方が断然良かった。


 乙女ゲームに最高裁判所があると言うツッコミはさておき、多分おそらく絶対にリリアナの権力で何故か最高裁に呼ばれてしまった。


 もしかしたら別件、とかは無い、確実に私がアルに許されたことによりリリアナが暴走たんだ。

 本来、殺人やら重罪を犯した犯罪者が来る所だが、いや、庶民が貴族をいじめたと言う嘘の事実は重罪なのか。で、11月10日は明日だ。


「くぅぅぅぅ、どうしてこうなったぁぁぁ」


 前回の死亡フラグを回避した代わりに、また新しいフラグが立ってしまった。

 内容としては同じだけど、場所は最高裁で平等な場所。


 勝機はある…筈だけど


 世の中そんなに上手くいく筈がない。


 しかし、おそらく相手は証拠なしに、証言だけで来るだろう。私も何か証拠を探さなければならないのだけど、あったら苦労しない。そもそも証拠があったら昨日アルに剣を突き立てられることなんてなかった。


「どぉしよぉぉぉぉ!」


 策と言えば、アルより身分が大きい人を攻略するって言うのがあるけど。居るには居る、が、なんだかなぁ。

この乙女ゲームの舞台はアルシア王国と言って、アルはこの王国の第三王子だ。


 国の名前と似てるのは偶然だ。

 そして、第一王子は確か不在だった筈、そうしたら第二王子に助けを求めるしかないんだけど…


 第二王子であるリカードは原作でも、ゲームでも、攻略難易度が最難関。

 原作はまだしも、ゲームでリカードの攻略ができた人は上位0.001%で、大会も無いのに、死ぬほどこのゲームをやりこんでる狂人しか攻略はできない。


 その狂人曰く、「あのクールなダンディには苦労したよ、正攻法なんて、恩でも売らない限り結婚はまだしも、喋ることすらできないよ」とのこと。


 前世の経験を培っている私でも、流石に…


「いや、いけるね」


 この時、回想に私に惚れてきた男たちが出てきたから自信が湧いてきたものの、

 リカードの攻略は、そんなに生ぬるいものではなかった。


ーー


「や、やっとついた…」


 ただの庶民だから馬車を使う訳がなく、当然徒歩で来た。それにしても遠すぎる。道のりとしては、家→学園→→→リカード荘と、ただでさえ遠い学園の三倍の距離で三時間も歩かねばならなかった。


 お陰でもう太陽が沈みかけている夕方だ。

 まぁいい、告白に昼も夜も関係ない。


「間が悪かったな、リカード様は外出中でな」


 ほら、ね?でしょ?だから、うん、今回は運が悪かったとのことで。私の顔面は変な笑顔で硬直してしまった。冷や汗だらだら、もしかしたら本当に処刑されるかもしれない。


「あんた、リカード様になんか用か?」


「いやぁ、ちょっとね、口説こうと思って…」


「口説く!?お前一体何考えてんだ!刺客か!?もしそうだったらここでぶった斬ってやる!」


 すると、スーツを着たガタイの良いおじさんは、背中の剣を抜き私に突きつける。

 こんな所で処刑されるのはマジ勘弁なのだが、剣を突きつけられたおかげか、良い言い訳が思いつかない。


「ちちち、違います!!」


「じゃなんだ?言っておくがリカード様はそんな簡単に隙を見せないし、お前みたいな女を好きになることなんてないからな!正直に言え、お前は何しに来た!」


「権力を、権力を欲しに来ました…」


「けんりょくぅ?」


 おじさんは指で顎髭を弄りながら顔を顰める。


「お前みたいな素直な女は初めてだよ、外出中ってのは嘘だ、どうせ無理だと思うが、」


 するとおじさんは、王家の割に小さな鉄の門を開け、


「ほら、入っていいぞ」


「えぇ!!いいの!?」


「まぁいいさ、今回は特別だ」


 王家の家なのにめちゃくちゃ簡単に入れてしまった。


 流石リカードの門番のおじさん、名前は忘れたけど、原作、ゲーム統合、結婚したら幸せになるランキングトップ十に入ったイケおじだ。

 ちなみにリカードは圏外。難易度が難しいからって、幸せになれるとは限らない。


「じゃあ、遠慮なく…」


「まて、その前にぃ……いやなんでもない、健闘を祈る」


「ありがと、門番のおじさん」


 私はおじさんの為、特別にめちゃくちゃ可愛い笑顔を見してあげた。傲慢?ほざけ!こんな私の顔を見たことあるのは鏡くらいだぞ?

 すると引き気味の門番が、


「お、おう…じゃあな、あの、早く行ってこい」


「アリスよ、これからもよろしくね」


「そうか…」


 そして私に一目惚れしてしまった門番をあとに私はリカードの部屋へ急ぐ。ゲームでも行ったことないけど、それっぽいところに総当たりしたらいい。


 そんなことより、私はリカードの攻略方法を知らない。そんなの解説なしでド○クエIIをやるようなもの。アルは喋ってるだけで攻略できるが、リカードに恩を売るというのはどう言うことなのか。


まぁ結婚してもらうのではなく、裁判で都合が良くなるように証言してもらうだけだ。でもリカードなら案外結婚より証言の方がめんどくさがりそう、


 と、そんなことを考えていたら、とうとう最後の扉まで来てしまった。


「客人か知りませんが、リカード様の部屋はこちらですから、バタバタしないでくださいな」


 この使用人が誰か知りませんが、リカードの部屋をおばさんが教えてくれた。


「ありがとうございます」


私は使用人のおばさんにお辞儀をし、リカードの部屋のドアを開ける。


 部屋の雰囲気と言えば、意外と質素で落ち着きがあり控えめな……部屋の癖に頭以外は黒い鎧をフル装備している。

 そして、リカードは机の上にある大量の書類に目を通しながら、


「ドタバタと、騒がしい者が来たと思ったら、随分と貧窮な客人だな」


 失礼にも程があるが、あまりにイケメンすぎるのかムカつかない。


「まぁ、そうですね、初めて来たので」


「そうか……」


 リカードが一度私の方を見たと思ったら、また机の書類に顔を向けてしまった。

 例のゲーム廃人が言っていた通り、本当にクールな男だ。クール過ぎて大学で稀にみる顔だけのナルシスト見たいだけど、


「今日はリカード様に頼みたい方がありましてね、聞いていただけますか?」


「あぁ、」


「実は私、学園で濡れ衣を着せられてましてね、何故か裁判を…何故か最高裁で行うことになりまして、リカード様には、私に有利になる証言をして頂きたいのですが」


「ふむ、」


 私が懇切丁寧に説明してあげているのに、なんと言うか、口数少ないな。

 もしかして私がキモくて喋るのが嫌なのか、いや大学生活で培ってきた経験ではそんなことはない筈だけど、もしそうだったら鬼畜すぎる。


 そうだよ!私が話しても相槌は打ってくれてるし、証言してもらうくらいなら!


 すると、ようやくリカードは机から顔を前に向けて私を見つめると。


「無理だ」


「なっ……」


 どうしよう、こんなことならネタバレなんか気にせず乙女ゲーム廃人の解説チャンネル最後まで見ておけばよかった。


「どうして……」


「メリットがない、それに何故王家がわざわざ庶民共の揉め事に首を突っ込まなければいけないのか」


「それは、そうですけど…」


 そうだ、よく考えたら私は馬鹿すぎた。このゲームの主人公は、令嬢でも王家でもないただの庶民。リカードが攻略は難しいのは当然だ。

 それでも、


「何か困ってることはありませんか?例えば、あの…なんでも良いんです、砂糖がきれてるとか、背中が痒いとか、なんでもしますのでどうか!」


「ある、がお前には解決できそうにない」


 多分、だけどこのリカードが困ってるものが私が作らなければいけない借りなんだと思う。


「それを…」


「引き取ってくれ」


 ぐっ、相手にもしてくれない、こうなったら初めてだけど、イケメンだし…


「じゃあ、私の身体を…」


「イラン」


「ぐはっ!」


 そんなに真顔で即答しなくてもいいじゃない。


「なんでも良いんです!なんでも、雑用でもなんなりと!」


 私がもうどうにでもなれと死に物狂いで乞いてると、リカードは明らかに顔をしかめる。そして、顎に手を当て何かを考える仕草をしてから、


「………………薬草が欲しい、どんな病気でも治る万能の薬草。しかし、お前がその薬草を見つけられる筈もない、故にお前に頼むことなどない帰れ俺も暇じゃないんだ」


「薬草…?」


 あった、あるにはある、本当にある、どんな病気も治ると言われている薬草は都合のいいことにある。

 原作のweb小説版で最終話どうなるかだけ読んで本当に良かった。確か薬草はこの国に、しかもまぁまぁ近くにあった筈、でも…


「あるにはあるけど、でももしここで使ったら最終的にエルミアちゃんが…」


「エルミアがどうした!?」


 小声で言った筈だが聞こえてたし、随分なオーバーリアクションだ。

 たしか最終話は、辺境で出会った不治の病に犯されているエルミアと言う人に万能の薬草を渡す所で終わっている。

 意味わからん所で最終話を迎えてるから炎上すると思いきや、さすが神作品、感動話過ぎて逆に賞賛されていた。そんなエルミアとゆう名前を出しただけなのに、さっきまで私に無関心だったリカードはぐいぐいと私に近づいてくる。


「えぇ、ちょいきなり、なに」


「今エルミアと言ったな、何故その名前を知っている」


 なんで知っているって言われても…


「いや、家族と旅行に出掛けた時に、たまたま仲良くなって…」


「そうか…あるにはあると言ったな、どこだ?場所がわからなかったら連れて行け」


「え、でも今日行ったら明日…」


「わかった、お前が言う裁判で証言しよう、そうしたらすぐに連れて行け」


「えぇ…」


 気付けば私とリカードの間はゼロ距離、今にも広い胸板に押し倒されそうだ。


(すんげ良い匂いする)


 興奮してクンカクンカしてるも流石にバレるから、匂いを嗅ぐのは控えめに遠慮しておく。


 そんな事より、こんなに興奮しているリカードのエルミアとの関係が気になる。確かエルミアは最終話で「これでお兄様と一緒に居られる」とかそんな事を言っていた気がした。


 もしかしたらリカードはエルミアの兄とか、原作でも明かされてない謎が解明されるかもしれない。


「まっ、そんな事な…」


「エルミアは、リドル家の四女、私の妹だ」


 我ながら、見事なフラグ回収だ。


 つまり、リカードに売る恩はエルミアを助けること、解説チャンネルはそんなこと言ってたんだね、まぁ最後まで見てないからわかんないけど。


「じゃあ、明日の朝九時に、最高裁判所にきてください」


「わかった、必ずお前の無罪を証明してやろう」


 そしてリカードは期待する様な眼差しで私を見つめて頷く。


「そうだ、明日の裁判の作戦なんだけど…」


ーー


「これより、裁判を開始する」


 前世でもゲームでも入ったことがないが、景色は想像通りだ、そして私は裁判長から見て左に立っている、これが被告人で私が容疑者ということ。


「なんで私が左なんだよ右だろ!」


「アリス・アメリア、口を慎むように」


 案の定、私は悪くないが、裁判長に怒られてしまった。

 そうしたら私の向こう側から笑い声が聞こえてくる、転生した時に見た名無しの銀髪とリリアナだ。

 すると、リリアナはゲスの顔でほくそ笑みながら、


「ふふっ、アリスったら弁護人も居ないじゃない、裁判長!これでいいでしょ?死刑よ死刑、」


「リリアナの言う通りだ、これで死刑にしないと…」


 と、もう一人横に立っているアルが言う。

 明らかに脅されているように裁判長がキョドっている。八百長だ!八百長!しかし、この時のためにリカードと話をしたのだ。


 そして、弁護人が居ないのはうち貧乏だししょうがない、リカードに頼んで依頼することはできたがそれも却下した、なぜなら


「私は、私が弁護します」


「はぁ?そんなのダメよ!アウトよ、アウト!」


 弁護人なんかより私のこの乙女ゲームに対する知識の方が信用がある。


「セーフよ、そんなことも知らないのかしらリリアナ様」


「一応認められてるが、お前の勝ちは揺るぎないさ、リリアナ、こんな奴さっさと処刑させて帰ろう」


「そうね、貴方の言う通りよ」


 すると、銀髪は自分の後ろにリリアナを忍ばせた。

 なんだろう、私悪くないのに人間として見下されてる気分マジでムカつく。


「勝ちは揺るぎない?ふふっ、まぁ貴方たちはそう思っていたらいいでしょうね」


「アリス・アメリア!何度言ったらわかる!口を慎みなさい!!」


 なっ、リリアナ共が喚いても何も言わないのに…

 この世の理不尽に思わず涙が出そうになるが、私も子供でもない、二十歳だ。並々のことではへこたれない。それにリカードも居る、今回の作戦で訳あってリカードは私側でなく傍聴先に座らせた。


 もし、というか確実にリリアナ達が証拠もないことを突き付けて来るから、リカードが意義ありと前に出て意表を突かせ、でその後はリカードの権力でどうにかする作戦。


 そして、私は傍聴席を見る。


「あれ…?リカードちゃん?」


「それでは開廷いたします。被告人、前に出てください」


「ちょちょちょちょっと待て」


 居ない居ないよリカード様、一体どこで油を売っているんだよ、意外と出番結構マジで多分早いんだよリカード様わかってらっしゃる??

 すると、裁判長は怒った様子で木槌を叩き、


「何をしている被告人!前にでなさい!」


「はははいっ!!」


 怒鳴られた反射で私が前に出ると、リリアナの横にいる畏まった人が手に持った用紙を読み上げる。


「被告人は、およそ二週間前から、新学期で余り周りと馴染めていないリリアナ様に、陰口を叩いたり、荷物を捨てたり、おまけには暴力を奮っていました」


「被告人、貴方には黙秘権はありません」


「では被告人、私が今読んだ内容に対し、何か述べることはありませんか?」


 黙秘権はない……?流石にツッコもうかな、突っ込んだらまた慎めとか言われるのかな、まぁとりあえず、


「記憶にございません」


「まぁそう来るとは私も思っていた」


 はて、この銀髪の青年はいじめは嘘とリリアナに聞かされて尚この調子なのだろうか、もしそうであったら迫真の演技だ。

 だとしても酷い、一体こんな奴のどこに惚れる要素があるのか、

 すると銀髪はリリアナの腕を引き傍聴席にも見えるように手首を突き出す。


「彼女はこの壮絶ないじめで、リストカットまでしたんだぞ!!」


「なんと、悪質な!」


「酷い…」


「可哀想に…」


 そうすると、裁判所は傍聴者達によるリリアナの同情の声で溢れかえる。たかがリストカットで何がそんなに可哀想なのだろうか、いやたかがじゃないし可哀想だけど、でも私からしたら嘘の自作自演、


「そっか、みんな買収されたんだ…でも、」


 悪質なのは買収されてない人もされた言葉を信じて暴言は吐いていると言うこと。

 そして、傍聴者達の暴言はヒートアップする、


「いじめなんて最低だ、死ね」


「いじめられて、みんなから暴言を言われて、悲しんでる人の気持ちがわからないの!?」


「まさかここまでとは、本当に処刑された方がいいな」


 こんな事をするのは、ただ単に最低な奴か、悪者を叩いている自分に酔った偽善者しか居ない。


「私が何をしたって言うの…」


 リリアナの事を哀れんで本気で怒っている人など一人もいない。

 しかし、此処には私だけが一人、私の味方が居ないのは事実だった。


「お前がしている事はリリアナ様の人生に深い傷を生んだ!もう一人で働ける年齢で、いつまで幼稚でいるんだ!」


「そうよ、リリアナ様がリストカットまでしてしまう程のいじめなんて、想像するだけでも恐ろしい…」


 策略によって酷い嘘で捻じ込められた残虐で屑物のような事実は私を囲うように突き刺してくる。

 何故、何もしてない私が、こんなにも嫌われなきゃいけないのか、みんなから叩かれなければいけないのか。私のことではないのに、私のことのようだ、だって実際に叩かれてるのは私なんだから。


 少し良い所に生まれたからって、機嫌を悪くさせちゃったからって、一人の我儘で、理不尽で、最低で、私が苦しんで、もしかしたら処刑されるかもしれないのに、全部決めつけて…


 悲しいというより、悔しいと言う感情が溢れてくる。折角神様に二度目の人生を送るチャンスを与えられたと言うのに、冤罪でまた死ぬのか。


「白馬の王子様なんて、私なんかには来ないんだ」


「では被告人のアリス・アメリアは上級貴族のリリアナ・グリンメルダを虐めた罪で、死刑を…」


「異議あり」


 聞き覚えがある声が裁判所内に響いた。

 しかし、私含め周囲はきょろきょろと辺りを見渡すが、誰もその声の主に辿り着くことは出来ない。


「一体誰だ?」


「な…君は私の護衛ではないのかね…?何をいきなり…」


 声の主に対して、裁判長は焦りながら言う。


「アリスは無罪だ、異論はないな?」


「え、だから…え?え?いやてか貴方誰ですか私の知る護衛とは違うのですが…」


 気の弱い裁判長に強引なリカードらしき人はグイグイと詰め寄る。

 すると、さっきまで傍聴席で静かにしていたアルが立ち上って、


「誰だお前は!一般人が出しゃばるな!処刑するぞ!」


「はぁ、あんまり兄に舐めた口聞くんじゃない、アル」


「はぁ?」


 そして、謎の護衛の男は裁判長の席から降り、特にリリアナに見えるように付けている帽子とメガネを外した。はっとしたリリアナだが、もう手遅れだ。


「もしかして…リカード様!?」


「たく、何やってんだかっ…」


 リカードの行動で私の心は安堵する。

 さっきまで私一人だけだった世界にリカードが舞い降りた。どん底だった私をリカードは見捨てないでくれた。


「遅れてしまってすまないアリス、買収されてる奴を見極めてた」


「うん、来てくれたならいいよ…」


 味方が居てくれてるってこんなに幸せなことだったんだ、大学生活で周りに人が居ることに慣れちゃったから気付かなかった。

 もうお酒も飲める年齢で乙女を名乗ることはお世辞でもできないけど、どん底に追い詰められた私にとってリカードは勇逸の白馬の王子様だった。


「今私が言った通りアリスは無罪だ、閉廷、早くさっさと速やかに解散しろ」


「めちゃくちゃだ…」


 しかし、リカードの言葉を聞いた傍聴者の何人かは異様に早く裁判所から出ていく。この人達が恐らくリカードが言っていた買収されてる奴等だ。


「いいの?」


「私は構わない、お前次第だ」


「いいよ、私は」


 そして、リカードは私からリリアナ達の方へ振り返り、その鋭い眼光で睨みつけた。買収された者達は居なくなかったが、依然周囲はざわついている。

 すると、いつの間にかリリアナ側に立っていたアルが口を開く。


「リカード兄様、何故アリスなんかの味方をするんですか!?」


「……こいつはエルミアの病を治す薬草の在処を知っている」


「はぁ!?たったそれだけで!?エルミアは王家の落ちこぼれで、無能で、田舎に追い込まれた方がマシなくらいには…」


「黙れ」


 リカードはさっきのとは比べ物にならないくらいの鋭い目つきでアルを睨んだ。

 あまりの怖さに私ですら怯えて後退りしたが、睨みつけられていたアルは腰が抜けて地面に座り込んでいる。


「な、なんで、リカード兄様」


「それに………アリスは私の婚約者だ」


「えっ!?!?」


 声に出して一番驚いていたのは当事者の私だった。

 あれぇ!?リカードとの婚約は私じゃ出来ないはずだし、そもそも私リカードに結婚しようとか言ってないし…でも、 


「はい、喜んで…」


 私が頬を赤らめて頷くと、リカードも私に頷き返した。ナニコレ?////


「あぁ、それでいい。あとアル、お前は二ヶ月は王宮を出るな、それとリリアナだったか?お前は……お前も二ヶ月くらい家でじっとしてろ」


「な、なんで…」


 すると、さっきまで黙っていたリリアナが、迫真の表情でリカードに詰め寄る。


「リカード様、どうして?私はこんなにも虐められたというのに、どうして私だけがこうも不幸なの」


「らしいぞアリス、本当なのか?」


「いや、キオクニゴザイマセン」


「そうか、なら早く帰るぞアリス」


 そして、リカードは私の腕を引き裁判所の出口へ向かう。少し強引だが、それくらいが私には良かった、もう少し私を必要として欲しかった。


「なんで、リカード様…」


「それに、権力抜きで言うのならば、アリスと比べてお前など相手にもしたくない」


 そうリカードは吐き捨てて私達は裁判所を後にする。


「リカード様」


「リカードで良い、お前はな」


「リカード、さっき私のこと婚約者って言ってたけど、ほんと?」


 すると、リカードは歩くペースを少し遅くし、私の顔を見つめて言う。


「本当だ、薬草を見つけてくれたら、私はそれでいい」


「そ、それってシスコンなだけじゃないよね!?ちゃんと私のこと好きだよね???」


「シスコン…?嫌な響きだな、それに私がお前に好きになるかはお前次第だ」


「もう、照れちゃって」


 私は、私を強引に引っ張っているリカードの太い腕に抱きついた。人目は気にしない、何故ならリカードだけは私の味方だから、


「なら私も、リカードに好きになってもらうように頑張るよ」


 何気に私の人生でこれが、一番最初の初恋だった。



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