夢なら覚めてよ
バッドエンドです。
さらに、初めての恋愛小説だし、こんな経験したことないんでとても拙いです。
悪しからず。
「夢ならば覚めないで」なんて勝者だから言えることだ。
「こんな日が続きますように」なんて成功者だから言えることだ。
私みたいな敗者はこう思う。
「夢ならはやく覚めてよ」って。
私は西尾すみれ。某製品メーカーで働いている、普通のOL、っていうのかな。
学生時代はそこそこモテてて、告白も何回かされた。
就職してからも変わらず、数回告白された。
全部断ってきたけど。
大学生の時から付き合ってる、小林健吾っていう彼氏がいるから。多分もうすぐ別れるけどね。
初めて会った時は2人とも大学生で、少なくても私は一目で恋に落ちて——それは相手も同じだったみたいで——しばらく経った後に、告白されて付き合い始めた。
最初の方は、遊園地に行ったり、海に行ったり、カップルみたいなことをたくさんしたな。
もう過ぎたことだけど。
あの時は楽しかったな、なんて考えながら外を歩く。
あの頃に戻りたいな、なんて思いながら涙を流す。
わかってたはずなのに、涙は止まらない。
最近、全然デートもしてくれないし、会話もどこか上の空。しかも、この前女の人と一緒に買い物してたの。
だからきっと、もう私に愛想を尽かしたんだと思う。
当たり前よね、こんな女より良い人なんかたくさんいるもん。
「夢なら覚めてよ…」
ついそんな言葉をこぼす。
この現実が終わって欲しくて。
半殺し状態がとっても辛くて。
そんな日々を送っていたら、ある日、健吾からLINEが来た。
「明後日会えない?伝えたいことがあるんだけど」
……あぁ、ついに来た、と思った。
「いいよ」
とだけ送ってカレンダーを見る。
その日は12/25……つまり、私たちが交際し始めて5年目の日だった。
(何も記念日に言わなくてもいいのに…)
そう思っていたら、もう一度スマホが震える。
「じゃああの海に20時」
あの海というのは、健吾が告白してくれた海のことだ。
「うん、わかった」
そう送って、また涙を流す。
押し寄せてくる現実が悲しくて。
(……泣かないように練習しなくちゃ)
せめてあなたの中に残る最後の私は綺麗な私でいたいから。
その日からずっと別れることを覚悟して過ごした。
クリスマスの日に涙を流さないように。顔を歪めないように。
夕方6時の合図が街を覆う。
遂にクリスマスの夕方を迎えた。
今日、私は恋人を失うというのに、残酷なまでに快晴だ。
街には初々しいカップル達が憎たらしい程うろついている。
(雨だったら涙を流しても誤魔化せるのにな)
そんなことを思って、約束の場所まで歩き始める。
しばらく歩いて、
(5分前までには着くかな)
なんて思ってスマホから顔を上げると、前の方に健吾がいた。
「……健吾?」
「すみれか?」
健吾が振り向きながら言った。
私だとわかって、ニコッと笑顔を見せる。
(あぁ、きっとこの顔も2度と見れないんだろうな……)
そんなことを思っていると、健吾が
「一緒に行こうか」
と言って、手を差し出す。
「……うん」
少し躊躇いながら、私はその手を握る。
「会うの久しぶりだな」
「そうだね、1ヶ月ぶりくらいかな」
「ごめんな、仕事増やしたせいで時間取れなくてな」
嘘だろうなと思った。
「……そう、なの」
「あれ、もしかして怒ってる?」
「別に」
そんな他愛のない会話をしていたら、いつのまにか海に着いた。
あぁ、いよいよか。
2人で砂浜の階段に腰掛ける。
長い沈黙が2人を包む。
「……なぁ、すみれ」
「……なぁに?」
「覚えてるか?俺たちが付き合い始めた日のこと」
「もちろん、忘れたことなんて一度もないもの」
「この海で始まったんだよな」
きた、と思った。
「そうだったね」
「……なら、終わりも始まりもここがいいよな」
あぁ、いよいよか。
「そうなのかもね」
これが私達の最後の思い出だなんて。
あの楽しかった思い出はもう更新されないんだ。
肩を軽く叩かれる。
何かと思って健吾の方を振り向くと、
「すみれさん、俺と、結婚してください!」
と言って、指輪の入った箱を開けている健吾がいた。
「……え?」
想像していたものと違い、変な声が出た。
「え?え?別れ話じゃないの?」
「何言ってるんだ?別れるわけないじゃないか」
「でも、だって、上の空だったし、それに、終わりって……あれ、なんでだろう。あんなに我慢しなくちゃって思ってたのに……」
大粒の涙がポロポロと流れる。
「上の空?……多分、そりゃ緊張してたから、だと思う。プロポーズなんて、したことなかったしさ」
健吾は少し照れながら言った。
「終わりっていうのは恋人のこと」
健吾は続ける。
「始まりっていうのは……その……結婚、のこと、だよ」
最後の方は声が小さかったし、ゴニョゴニョしてた。健吾らしい。
「でも、ズズッ、女の人と一緒に買い物してたから……」
涙が止まらない。
「?……あーー!違う!それは誤解だよ!姉にアドバイスもらってただけだから」
そう言って、何かをバッグから取り出して、私に見せた。
「すみれに何渡すのがいいんだろうって思ってさ。はい、記念日のお祝い」
涙が溜まってボヤけていたけどそれはアクセサリーのようだった。
「……ありがとう、大切にするね」
まさに幸せだった。
「……それで、あの、プロポーズは……」
「フフ」
目に溜まった涙を拭う。
「もちろん、OKに決まってるでしょ」
健吾も涙を少し流して、
「じゃあ改めて、これからもよろしく、すみれ」
と言った。
「ズズッ、うん、こちらこ———」
グサッ!
その瞬間、心臓部に痛みが走る。
「……カハッ!」
血が口から吹き出て、俯きに倒れてしまった。
(何?!何が起きたの?!……刺された?の?……誰だろう。前に告白してきた雄介くん……かな。嫉妬……深かった……し…………)
意識が朦朧としてきた。
自分の体のことだからよく分かる。
……もうすぐ死んじゃうってことが。
(健吾が何か言ってるな…………揉めてるのかな?泣いてるのかな?……………………ああ、最後にもう一度、顔だけでも見たかったな…………でも良かった……醜い顔…………見られずに済む……………………)
神様、もし見てるなら、私の人生最後のお願いを叶えて。
夢なら覚ましてよ…………。
どうでした?
まさかあんなことになるなんてね。
まあとりあえず、読んでいただきありがとうございます!
指摘も是非是非!