転じて出逢う
「ここ…どこ……?水の中…?」
少年は落ちる感覚を得て目を覚ます。まわりには無数の泡が舞っている。直感、海に沈んでいると感じたが、体にある無数の傷がその推測を消す。
ふと、泡の中に見慣れた光景を覚える。淡い記憶が泡と共に流れてゆく。
「…やだ……!」
少年は泡を掴もうとするが、より細かい情景にわかれるばかりで手に残るものなどなかった。たった一つを除いて。
「お兄…ちゃん……」
―
「おーい…おーーい!」
「………?」
「お、気づいたなー?いくら首から上が無えといったって死んでるわけじゃあないもんな。あんたここで何してたんだ?折角ならうちの商品、見ていかねぇか?」
「………」
(こいつ何も喋らねえ…頭が無くともうんとかすんとかくらい言えるはずだが…?自殺者か?)
「…ここは…どこ」
(お、喋った。少しカタコトだが…)
「これはすまねえ、あんた転じたてホヤホヤだったんだな。
いいか?ここは黄泉。聞いて驚け死後の世界だ!」
「………」
「………ま、まぁ驚いてるものとして受け取っておく。で、これから何かあてがあるのか?」
「………………」
先程より長い沈黙に商人は痺れを切らし、話を進める。
「…この近くに大きめの町がある。俺はそこに用があるんだが…よければ一緒に行こう。道を教えてやる」
「……ゅ…ぅ…」
「ん?何か言ったか?もう少し大きな声だと助かるんだが」
「………」
「………」
取りずらい間を感じつつ、私はその死者の手を引き町へ向かう。短い道中が少し長く感じる。大して遠くないあの町もまた、この死者との間がわからないのだろうか。荷車の重みを感じつつ、私は再び歩み出した。